28 / 88
3 答え合わせ
2-1
しおりを挟む
* * * *
昨夜の服に着替えたが、まさか泊まりになるとは思わなかったため、直す程度のメイク道具しか持ってきていなかった杏奈は、カバンに入っていたマスクをしてロビーを駆け抜けた。
駐車場まで続くエレベーターの前で、壁の向き合い高臣がチェックアウトをするのを待つ。
家まで送るという高臣の言葉を断って電車で帰ろうとしたが、ほぼすっぴんでフォーマルドレスというチグハグな自分の姿に愕然とし、そこは甘えることにしたのだ。
「お待たせ」
「こちらこそ……なんかごめんなさい」
「何も悪いことはしていないだろ? 俺はすっぴんでも十分キレイだと思うけど」
「すっぴんじゃなくて、ナチュラルメイクですから! はぁ……その御世辞があなたの口から出てることが怖いくらいだわ……」
エレベーターに乗り込み、ドアが閉まった途端に杏奈は壁に押し付けられて唇を塞がれる。
「今日が休みなら、一日中こうしていられるのにな」
昨晩だけでも体がガクガクなのに、この人はまだ体力が残っているらしい。その超人ぶりに杏奈は呆れたようにため息をついた。
エレベーターが止まると高臣は優しく微笑み、杏奈の腰に手を回して外に出る。
あの頃とどうしてこんなにも違うの? 困惑し、本当に愛されているのかもしれないと勘違いしそうになってしまう。
あんなに『愛してる』と言われても、記憶の根底には冷たい高臣の顔があり、やはりすぐに心を開くことは難しい気がした。
高臣の後について歩いていくと、外車の白いセダンの前でスマートキーを使ってロックを解除する。それから助手席のドアを開けて杏奈を中へと促してから、自分も運転席に腰を下ろす。
高臣の紳士的な振る舞いに少し照れながらも、どこか慣れたような雰囲気を感じて、胸がチクリと痛んだ。
きっと住む世界が違うからね。彼の当たり前が、私の世界では当たり前ではないだけ。
車が走り出すと、目の前に広がった月ヶ丘の姿に思わず息を飲んだ。昔から富裕層が集まる街として知られていたが、最近は近隣の開発が進み、おしゃれな街としても噂になっていた。
昨夜とはまた違う景色に、杏奈はうっとりと目を細める。まるでおとぎの世界に迷い込んだようだった。
自分が住んでいる場所からさほど離れているわけではないのに、こんなにも違う世界が広がっているなんて不思議だった。
昨夜の服に着替えたが、まさか泊まりになるとは思わなかったため、直す程度のメイク道具しか持ってきていなかった杏奈は、カバンに入っていたマスクをしてロビーを駆け抜けた。
駐車場まで続くエレベーターの前で、壁の向き合い高臣がチェックアウトをするのを待つ。
家まで送るという高臣の言葉を断って電車で帰ろうとしたが、ほぼすっぴんでフォーマルドレスというチグハグな自分の姿に愕然とし、そこは甘えることにしたのだ。
「お待たせ」
「こちらこそ……なんかごめんなさい」
「何も悪いことはしていないだろ? 俺はすっぴんでも十分キレイだと思うけど」
「すっぴんじゃなくて、ナチュラルメイクですから! はぁ……その御世辞があなたの口から出てることが怖いくらいだわ……」
エレベーターに乗り込み、ドアが閉まった途端に杏奈は壁に押し付けられて唇を塞がれる。
「今日が休みなら、一日中こうしていられるのにな」
昨晩だけでも体がガクガクなのに、この人はまだ体力が残っているらしい。その超人ぶりに杏奈は呆れたようにため息をついた。
エレベーターが止まると高臣は優しく微笑み、杏奈の腰に手を回して外に出る。
あの頃とどうしてこんなにも違うの? 困惑し、本当に愛されているのかもしれないと勘違いしそうになってしまう。
あんなに『愛してる』と言われても、記憶の根底には冷たい高臣の顔があり、やはりすぐに心を開くことは難しい気がした。
高臣の後について歩いていくと、外車の白いセダンの前でスマートキーを使ってロックを解除する。それから助手席のドアを開けて杏奈を中へと促してから、自分も運転席に腰を下ろす。
高臣の紳士的な振る舞いに少し照れながらも、どこか慣れたような雰囲気を感じて、胸がチクリと痛んだ。
きっと住む世界が違うからね。彼の当たり前が、私の世界では当たり前ではないだけ。
車が走り出すと、目の前に広がった月ヶ丘の姿に思わず息を飲んだ。昔から富裕層が集まる街として知られていたが、最近は近隣の開発が進み、おしゃれな街としても噂になっていた。
昨夜とはまた違う景色に、杏奈はうっとりと目を細める。まるでおとぎの世界に迷い込んだようだった。
自分が住んでいる場所からさほど離れているわけではないのに、こんなにも違う世界が広がっているなんて不思議だった。
0
あなたにおすすめの小説
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる