銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第1話:ミノネリラ進攻

#03

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 タ・クェルダ軍前衛部隊壊滅の報。それをケイン・ディンは、専用BSHO『ホウショウDD』のコクピットで聞いていた。ここまでは順調だ。先行させていた潜宙艦が傍受した、タ・クェルダ軍の二極化通信量の多さから、別動隊の誘引による挟撃作戦を見抜いたのは、さすが“軍神”と呼ばれる洞察力である。だが相手は“カイの虎”と恐れられるシーゲン…油断など出来ようはずもない。

「参謀長」

 艦橋との通信回線を開いて、淡々とした調子で呼びつけるケイン・ディン。ホログラムスクリーンに映し出された白髪の参謀長は、「はっ…」と短く応じる。

「作戦を修正する。後詰ごづめに付いている部隊の中から、半数を引き抜き、第1艦隊と共に敵本陣へ突撃させよ。私も出る。他の艦隊は“カートホイール・タクティクス”を継続だ」

「それでは、敵の別動隊への備えが手薄になりますが…」

「構わない。シーゲンの本陣への攻撃を、最優先とする」

 ケイン・ディンは、タ・クェルダ軍が半包囲陣形を組んだ事を、シーゲンの判断ミスだと考えた。半包囲ではなく、本陣の前面に分厚い壁を作られていたなら、別動隊が引き返して来るまでの時間を考慮した、タイトな戦いを強いられる事になっていただろうからだ。そしてその別動隊を阻止するために、六個もの艦隊を“サイジョンの大空隙”と、このハティ=マンバル原始恒星群の間に配置していた。それがタ・クェルダ軍が半包囲陣形を取って、本陣前面を薄くした事により、シーゲンに対する一点突破の集中攻撃へと、作戦を修正したのである。



 一方のタ・クェルダ軍は、前衛の二個艦隊が想定以上の早さで壊滅した事によって、一気に窮地へ追いやられた。ここに至り、シーゲンは自らの失策を認め、半包囲陣を畳んで、本陣前面の戦力を厚くするよう命令を変更する。
 ところが今度は、“カートホイール・タクティクス”を継続しているウェルズーギの艦隊が、タ・クェルダ軍の陣形変更の障害となった。五番手、六番手に現れた艦隊が、それまでの艦隊とは攻撃手段を変え、広範囲攻撃で半包囲陣を形成している艦隊の足止めを始めたのだ。

「我が軍被害甚大!」

 損耗率が増大していく戦況を映し出す戦術状況ホログラムを、シーゲンは口を真一文字にして睨みつけていた。そこに入る通信。相手は第3艦隊司令官でシーゲンの弟シーバル・テクス=タ・クェルダと、第10艦隊司令官で今回の作戦を立案したカンサック=ヤトマーだった。
 
 シーゲンの体の線を幾分細くした感のあるシーバルが、緊張した面持ちで兄へ進言した。

兄者あにじゃ。ここは俺とカンサックの艦隊が盾になる。本陣を後方へ下げてくれ」

 シーゲンの第1艦隊の両側に位置していたシーバルとカンサックの艦隊が、砲撃を繰り返しながら、壊滅した前衛部隊の代わりに前へ出始める。するとシーバルに続いて、カンサックからの通信。カンサック=ヤトマーは浅黒い肌をした六十代のヒト種。右眼が電子義眼となっており、民間人あがりの武将だった。

「シーゲン様。申し訳ございません」

「うむ。カンサックか」

「このカンサック、策を誤りましてございます。つきましてはこの身を盾にして、シーゲン様をお守りする所存。急ぎ、ご退去を」

 だが二人の意見具申に対し、シーゲンが何かの反応を見せるより、総旗艦『リョウガイ』のオペレーター達が、ウェルズーギ軍の新たな動きを伝える。

「長距離センサーに新たな反応!」

「ウェルズーギ軍の中から突出する集団を発見。規模は四個艦隊!」

「突出した四個艦隊は、この本陣の直接攻撃を企図している模様!」

「敵突出部隊、急速接近。距離およそ五万!」

 この報告に、猫科の肉食獣を思わせる風貌をしたシーゲンは、司令官席からすっくと立ち上がる。“あれにケイン・ディンがいる!”戦術状況ホログラムの表示を見据え、シーゲンは己の勘がそう告げる声を聞いたからだ。

「『コクウン』で出る。親衛隊を招集!」

「兄者!」
「シーゲン様!」

 意見具申を無視された形になったシーバルとカンサックが、強い口調で二人同時に呼びかける。二人が映る通信ホログラムスクリーンに向き直ったシーゲンは、眼光鋭く自分の思いを口にする。

「この不利な状況で俺の総旗艦が後退すれば、心理的動揺を誘発して、戦線が崩壊する可能性が高くなる。それならば逆に、ここで敵を迎え撃つ…あの突出部隊にはケイン・ディンの奴がいる。俺には分かる。これは反撃への唯一の機会なのだ」



 果たしてその数十分後、突撃して来るウェルズーギ艦隊から発進した、ケイン・ディンの操縦する『ホウショウDD』と親衛隊仕様『カイリュウSH』の中隊は、麾下の艦隊と共にタ・クェルダ軍本陣に襲い掛かった。
 しかしシーゲンも、すでに専用BSHO『コクウンSAS』に搭乗し、親衛隊仕様『セイフウCC』一個中隊を率いて、総旗艦『リョウガイ』の外に出ている。お互いに一騎打ちを望んでいるという、相手の心理を読んでの結果だ。

 
「シーゲン!!」
「ケイン・ディン!!」

 熱量も高く呼び合った二人は、同時に超電磁ライフルを放つ。二人の銃弾はしかし、互いの機体のショルダーアーマーの表面を抉っただけで終わる。開いた距離での銃撃で仕留められないのは想定済みだ。

 双方の親衛隊機がドッグファイトを開始する中、長大な刀身が特徴のクァンタムブレードを鞘から引き抜いた、ケイン・ディンの『ホウショウDD』が間合いを詰める。その速さは白色の機体色と相まって、まるで白い流星だ。
 だがシーゲンの黒鉄色のBSHO『コクウンSAS』は、バックパックに装備していた、斧のように幅広の刀身を持つポジトロンパイクを手にすると、動じる事無く『ホウショウDD』の斬撃を二度三度と打ち防いだ。刃がごうする度、漆黒の宇宙に火花が激しく飛び散る。

「なるほど…“動かざること山の如し”か」

 どこかに愉悦の感情を思わせる表情を浮かべ、ケイン・ディンはシーゲンが反撃に繰り出す、神速のポジトロンパイクを紙一重で悉く回避する。

「そして、“はやきこと風の如し”」

「ふん。それを躱しておいて…やはり喰えぬ奴だ。貴様は!!」

 ケイン・ディンの言葉に苦笑い交じりで応じながら、シーゲンはQブレードを抜いて、ポジトロンパイクとの二刀流で機体ごとぶつかって行く。

「“攻めたること火の如し”ってのも、あるぜ!!」

 『コクウンSAS』が二刀流で連続して放つ斬撃。だが『ホウショウDD』も負けてはいない。長刀身のQブレードを器用に使いこなし、『コクウンSAS』の連続技を次々に弾き返す。

 その時だった。両者がせめぎ合う背後にいたウェルズーギ軍総旗艦『タイゲイ』から、緊急電が届く。

「ケイン・ディン様。後方に敵艦隊が出現! 例の別動隊です!!」

 参謀長の報告を聞いて、シーゲンの『コクウンSAS』と距離を取ったケイン・ディンは、訝しげに問い質す。

「別動隊だと!? 後詰の三艦隊はどうした!?」

「突破された模様です」

「それでなお、気付かれる事無く接近して来た…というのか」

 ケイン・ディンは、正対する『コクウンSAS』の中で、シーゲンがニヤリ…と笑みを浮かべている光景を想像した。そして自らも口許を歪める。

「なるほど…“静かなること林の如し”という事か」

 “仕留めそこなった”という口惜しさと、“今後の楽しみが残った”という期待感が混ざり合う不思議な気持ちの中で、ケイン・ディンは『タイゲイ』に命じた。



「全部隊を敵本陣より離脱させろ!」



 
▶#04につづく
 
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