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第1話:ミノネリラ進攻
#12
しおりを挟む「戦艦『レドヴァン』『ガベルダ』爆発。『デフノッド』航行不能!」
「空母『ペンドック』大破。“ワレ艦載機発艦デキズ!”」
「重巡第14戦隊、被害甚大。撤退許可を求めています!」
増大する味方艦隊の損害報告に、具体的な対応策も示さず、「反撃しろ!」とばかり叫んでいたフィビオもナーガイだったが、さすがにこの状況に顔を青ざめさせる。あまりに完璧にノヴァルナの罠に嵌った彼等にとっては、まるで魔法をかけられたようですらあった。
「ば、馬鹿な。こんな事が…」
味方重巡の爆発光に照らされた唇を震わせて、うわごとのように言うフィビオ。そこにナーガイが憔悴した表情で通信を入れる。
「どうする!? このままではザイード様とハルマ様に、顔向け出来んぞ!」
この期に及んで対策を練るよりも先に、イースキー家の実験を握っているビーダとラクシャスから、不興を買うことを恐れるナーガイ。そんな猶予はあるのかと思えるが、今のイースキー家でこの二人の不興を買う事は、人生の終焉と同じ意味を持つのだから、実のところは“顔向けできない”どころの話ではない。
ここで堪らず発言したのが、キャンベルだった。いくらビーダとラクシャスから命じられ、フィビオとナーガイの下についているとはいえ、ここまで来ると我慢の限界であった。
「フィビオ殿! ナーガイ殿!―――」
強い口調で、通信に割り込んで来るキャンベル。恒星間防衛艦隊司令の出身だけあって、
「ここは反撃しつつ艦隊を後進させ、星間ガスの中へ一時退避。我等の宙雷戦隊とアーダッツ殿の艦隊との合流を、優先すべきではないだろうか!」
これを聞いたフィビオとナーガイだが、つい“退避”という単語に、過剰に反応してしまう。
「ノヴァルナごときの軍に、退避すると仰せになるのですか!?」
「言い方などどうでもいい。損害を増やしている場合ではなかろう!?」
「そのような事は、言われずとも理解しております!」
「艦の数はまだ、我等が上です。戦いはこれからではありませんか!」
…という言い合いこそが不毛である。その間にイースキー側の戦艦二隻、重巡三隻、空母二隻、軽空母二隻と、その大半の乗組員が星の海に中で鬼籍に入った。ただキャンベルの策こそ、この場合は正解なのだ。星間ガスの中に退避して艦隊を立て直されると、折角ウォーダ軍が手段を講じて来た陽動・分離作戦が最悪の場合、灰燼に帰すからである。
とその時、イースキー家のロックベルト=アーダッツの空母部隊、第8艦隊が遅れて星間ガスの中から姿を現した。しかもフィビオとナーガイが置き去りにしていた、宙雷戦隊の軽巡や駆逐艦の生き残りも引き連れている。
「無事であるか? 御三方」
アーダッツの呼びかけに、ウォーダ軍に押されていた三人の司令官は、愁眉を開いた。
「おお!」
「アーダッツ殿か!」
「艦隊を後退し、こちらに合流させられい。これより艦載機を発艦させる」
そう言うアーダッツもすでに旗艦空母の艦載機格納庫で、専用BSHO『レイフウAS』に搭乗している。“首取りアーダッツ”の二つ名の由来となった機体は、格闘戦向きとなっており、特に右手は特徴的であった。右手自体が通常のBSIユニットより倍以上の大きさがあって、しかもそれぞれの指先に、クァンタムブレードの長い鉤爪が付いているのである。これで敵BSIユニットの頭部を握り潰し、さらには刺突や斬撃で機体そのものを破壊してしまうのだ。
「宙雷戦隊を前に。各空母に艦載機発艦命令!」
アーダッツは艦橋に命じると、自らの『レイフウAS』を、発艦用の重力子カタパルトに固定する。超電磁誘導で圧縮した重力子と反転重力子の、交互パルスによる機体射出は、原理的には超電磁ライフルと同じである。
「アーダッツだ。『レイフウAS』、発艦する」
アーダッツの第8艦隊旗艦となっている宇宙空母は、八基の重力子カタパルトから同時にBSIユニットを射出する事ができる。三回の射出で、『レイフウAS』と二十機の親衛隊仕様『ライカSS』が宇宙へ飛び出した。
空母打撃艦隊のイースキー軍第8艦隊には、正規空母と軽空母が合わせて二十二隻もあり、艦載機はBSIと攻撃艇を千機以上も搭載している。この艦隊だけで、ウォーダ軍の艦載機を上回る事になる。
こうなるとまるでアーダッツは、イースキー軍にとって救世主のようだが、実はそうではない。
第九惑星ニレ・マーダン周囲の星間ガス内部で、ノヴァルナと『ホロウシュ』を迎撃するため、独断で艦載機の一部を出撃させた挙句、その収容に時間が掛かり、星間ガスを出て合流するのが遅れたのだ。これがもし独断で行動せず、フィビオらと共に星間ガスを出ていれば、ウォーダ軍の宙雷戦隊や機動兵器部隊の襲撃に対して、もっと効果的な反撃が行えたはずであった。そういった面でやはりアーダッツの艦隊指揮能力は、凡将レベルなのである。
出遅れたアーダッツのBSI部隊に対し、ウォーダ軍第1艦隊第1航宙戦隊の旗艦空母『シェルヴォイド』から、新たなBSI部隊が発艦する。各部隊から技量の高いパイロット36名を集め、親衛隊仕様『シデン・カイFC』を与えた、新設のエース部隊『トルーパーズ』だ。
これは第二の『ホロウシュ』とも言えるもので、本来の『ホロウシュ』がノヴァルナ直属の親衛隊であるのに対し、『トルーパーズ』は第1艦隊の親衛隊とも呼ぶべき位置づけとなっている。
そしてその『トルーパーズ』を指揮しているのが、前『ホロウシュ』筆頭だったトゥ・シェイ=マーディンだ。ノヴァルナの密命を受け、皇都惑星キヨウで超空間ネゲントロピーコイル関連の情報を収集していたマーディンだが、先日その任務を完了し、ウォーダ家へ復帰したのである。そしてその功への褒美としてノヴァルナが用意したのが、第1航宙戦隊司令官兼『トルーパーズ』指揮官のポストだった。
ウォーダ家復帰後は再び、『ホロウシュ』筆頭の座へ返り咲くものと思われていたマーディンだが、大抜擢となったわけである。そして現在、専用BSHOも建造中となっている。
青系カラーリングが施された、『シデン・カイXS』を操縦するマーディンは、配下の35機に命じた。『トルーパーズ』としてはこれが初陣だ。
「トルーパーゼロワンより全機。攻撃目標は新たに出現した敵空母部隊の、指揮官機だ。対消滅反応炉の出力情報から見て、BSHOと思われる。注意せよ」
「了解」
部下達の返答を聞きながら、マーディンは操縦桿を軽く握り締めた。自分達の任務は重大だと改めて思う。新手の空母部隊の指揮官は機体の識別信号からすると、どうやら“首取りアーダッツ”であるらしく、しかも搭乗機はBSHOのようだ。それをカスタマイズされた新型親衛隊仕様機とは言え、BSIユニットで討ち取るには相当な覚悟が必要となる。しかしBSI部隊の数で、一気に不利になったこの状況を打開するには、やり遂げるしかない。
「復帰早々。ノヴァルナ様も、やり甲斐のある仕事を下さる」
ともすればノヴァルナへの、皮肉にも聞こえる独り言であったが、それを口にしたマーディン自身は、己に宿る武人の心に炎が燃え上がり、血液の温度が上がり始めたように感じていた。自機のセンサーも、敵編隊を率いている指揮官機を捕捉する。
“よき敵、ござんなれ”
超電磁ライフルを構えるマーディンの口許には、まるで彼の主君が見せるような笑みが浮かんでいた。
▶#13につづく
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