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第2話:キノッサの大博打
#13
しおりを挟むハートスティンガーから「考えがあるなら言ってみろ」と促され、キノッサはこの作戦の肝とも言うべきことを述べ始めた。そしてこれこそがノヴァルナがキノッサに、今回の作戦を実行に移す事を承認した、最大の理由であった。
「資材をバラバラなまま運び込んで、築城するのが難しいなら、出来上がってる城を運び込めばいいんスよ」
「なに?…出来上がってる城を、運び込むだと?」
ハートスティンガーは、キノッサのこの話を初めて聞いた時のノヴァルナと、同じ台詞を吐く。当然であろう、小型の宇宙ステーションならまだしも、艦隊の整備と補給を行う事が可能で、自前の防衛火力を有するとなると、かなりな規模のものが必要となる。
難しい顔で太い腕を組み、ハートスティンガーはキノッサに物申す。
「おまえが何を考えているのか知らんが、このP1‐0号の言う通り、事は簡単な話じゃねぇ。そもそもウチの資材を使ったとしても、完全な宇宙城に仕上げるまでにはいかねぇんだぞ」
これはP1‐0号がカズージとホーリオに、キノッサの過去を話していた間に、ハートスティンガーとの会話で出た事であった。
ウォーダ家でも当然、前回の築城作戦の失敗の原因を調査・考察しており、その結果、ヴァルキスのアイノンザン=ウォーダ家のスパイ網が、ノヴァルナのキオ・スー=ウォーダ家と直接関係のある、惑星ラゴンの産業界にも及んでいて、そこから漏れた情報を元に、イースキー家に作戦を見抜かれたらしいと考えられていた。それならばハートスティンガーが密造・密輸している鋼材などを使えば、それらのスパイに知られる事無く、資材を調達できるというものだ。
ただしこれも当然だが、ハートスティンガーが調達可能な資材の全てを使ったとしても、星大名家が軍事用拠点とする宇宙城を、非合法の業者が建設する事などは不可能である。
ところがキノッサの考えは、さらにその先にあった。
「いやいや。俺っちの言ってるのは、親分に宇宙城を造ってもらって、それを『スノン・マーダーの空隙』に運ぶんじゃなくって、今もうすでに出来てる城を牽引して、『スノン・マーダーの空隙』へ運び込むって話ッス」
それを聞いてハートスティンガーは首を捻り、またもやノヴァルナと同じ質問を口にした。
「なに?…もう出来上がってる城を運び込むだと? どこの宇宙城を動かそうってのか知らねぇが、そんな目立つ事したら余計、敵にバレバレじゃねぇか」
ハートスティンガーの疑問は至極当たり前の事であった。どこの拠点であれ、すでに運用されている既存の宇宙城や宇宙要塞を、ミノネリラ宙域まで運ぶとなるとスパイ網など使わなくとも、すぐにイースキー家の知るところとなるのは確実だ。ノヴァルナが大規模な陽動を行っても、上手くいくはずが無い。
無論この流れは、キオ・スー城でキノッサがノヴァルナに直訴した時も、同じである。ただノヴァルナへの直訴の際は、キノッサは合わせて自分にとり一番重要な事を告げていた。
******―――
「どういう事だ?…話せ」
自身も発想に無かった、完成している宇宙城や宇宙要塞の移動という手段に、ノヴァルナは眼差しを鋭くして、キノッサに問い掛ける。しかしキノッサにはまず、主君から確約を取っておくべき事があった。
「その前にまずこのキノッサ、ノヴァルナ様にご確認の上、お約束して頂きたい事がございます」
「…言ってみろ」
硬い口調のキノッサに、ノヴァルナの声にもキノッサを相手にする時の、どこかに軽さを含んだ響きはない。身を乗り出すようにして話し始めるキノッサ。
「イースキー家の本拠地惑星バサラナルム制圧を目指す、ウォーダ家の戦略にとって『スノン・マーダーの空隙』への築城は、その要となる最重要目標…それに間違いはございませんな?」
「おう」
「すでにシルバータ様とザクバー様が敗退し、困難を極めるこの築城作戦。これを成功させた者は、ミノネリラ征服の第一の功を与えられて然るべき…ですな?」
「そういう事だろうな」
「となると、これに成功した者には、ノヴァルナ様の名において、相応の褒美が与えられるもの…と理解して宜しいですな?」
「めんどくせーぞ、キノッサ!」
家臣とのやり取りでは特に単刀直入を好むノヴァルナであるから、この迂遠さに些か苛立ちを覚えて口調をきつくした。だがキノッサも態度は改めない。
「これは我が身命を賭した話。面倒臭くも申します!」
いつになく強く出るキノッサに一瞬、腹を立てかけたノヴァルナだったが、すぐに好奇心の方が勝り、いつもの不敵な笑みを浮かべて告げる。
「いいだろうぜ。何が望みか、先に言え」
「はい。まずこの『スノン・マーダーの空隙』への築城作戦の指揮は、わたくしに一任させて頂くこと。そして見事築城に成功した暁には、わたくしめを城主とすること。それに従いウォーダ家内で相応の身分を頂くこと。この三つをお約束して頂きたく、お願い申し上げます!!」
真っ直ぐ眼を見て言い放って来たキノッサに、ノヴァルナはしばしの無言の間を置いたのち、上体をのけぞらせて高笑いした。
「アッハハハハハハハ!!!!」
キノッサの大胆な望みに対し、笑いを収めたノヴァルナは不敵な笑みへ、さらに攻撃性を増して言う。
「事務補佐官風情が、いきなり城持ちにさせろだと!?」
「………」
無言でノヴァルナの言葉を受け止めるキノッサの眼光には、一点の曇りもない。それを見据えてノヴァルナは「ふん…」と、小さく鼻を鳴らす。小馬鹿にしているのではなく、“本性を現しやがったか…”という気持ちの表れだ。
ノヴァルナ自身、このキノッサという男が自分に取り入って来たのは、ただ平民から準貴族ともいうべき武家階級の『ム・シャー』まで、成り上がろうとしているのではなく、さらなる高みを目指す野心の塊である事は見抜いている。頭の回転の速さや、骨身を惜しまず働くこと、そして相手の懐に上手く転がり込む人懐っこさは、キノッサ本来のものであると同時にまた、己の立身出世の道具でもあった。そうしたものを全て曝け出して、自分に機会を与えろと言うのだ。
「…いいぜ。てめーの望みを叶えてやる」
椅子に上体を深く預けて、ノヴァルナは応じた。ただキノッサは表情を変えず、主君の次の言葉を待つ。
「だが、分かってんだろな?…指揮を執る以上、多かれ少なかれ兵は死ぬ。本来はそんな権限は無い事務補佐官がそういった事をするからには、失敗してもここへは二度と帰って来れねぇって」
この場合、“ここへは”とはすなわち“生きては”という意味である。それでもキノッサは淀みなく答えた。
「覚悟はございます」
少しの間を置いてノヴァルナは「分かった」と告げ、話を作戦の中身に向ける。キノッサの望みを承諾しても、作戦自体に不都合があるようでは、認可も出来ないのは当然だ。
「てめーがそれほどの覚悟で言う、“動かせる城”たぁどれだ?」
「FT‐44215星系に残る、“ドゥ・ザン様の置き土産”ッス」
口調を普段通りに戻して、キノッサはさらりと明かした。
「なんだそりゃ?」
「六年ほど前にサイドゥ家が侵攻して来た際、橋頭保としてミノネリラ宙域との国境近くの、FT‐44215星系に建設した宇宙基地ッスよ」
「んなもんがあったのか?…俺は知らねーぞ」
「そりゃあノヴァルナ様がノア様と、未来のムツルー宙域へ飛ばされてた、っていう間の話ッスからね」
そう言い終わるとキノッサは上着の内懐からデータパッドを取り出し、起動させてノヴァルナに差し出した。そのスクリーン上には確かに、FT‐44215星系の最外縁を回る第十一惑星の衛星軌道上に浮かぶ、細木細工のような宇宙基地が映し出されていた。
▶#14につづく
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