銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第2話:キノッサの大博打

#14

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 FT‐44251星系の宇宙基地はキノッサが告げた通り、1555年の秋頃、ノヴァルナとノアが熱力学的非エントロピーフィールドを抜け、皇国暦1584年のムツルー宙域へ飛ばされた際、当時のサイドゥ家がオ・ワーリ宙域内に建設したものであった。

 ドゥ・ザン=サイドゥはノヴァルナと共に、『ナグァルラワン暗黒星団域』内のブラックホールへ落ち込んだ娘ノアの絶望的状況に鑑み、非情ではあるがこれを最大限利用する事を考え、ノアの死をウォーダ家の責任だとして、オ・ワーリ宙域侵攻の大義名分とした。そして腹心ドルグ=ホルタの指揮する遊撃艦隊の活動で、陽動を仕掛けている間に、ドゥ・ザンらの本隊がオ・ワーリ宙域へ侵入。国境から約三百光年入ったところに位置する、FT‐44251星系にパーツ組立式の基地を建設し、補給と整備の拠点としたのである。
 ウォーダ側のどこかの基地を奪い取ると、初めから拠点が知られてしまう事になるが、基地を運び込む事でその所在を知られるには時間が掛かる。このドゥ・ザンの計略に掛かったウォーダ家が、基地の存在に気付いた時にはすでに基地は完成してしまっていた。(第1章 第9話:動乱の宙域)

 ところがその後に事態は一変し、ドゥ・ザン艦隊とウォーダ艦隊の決戦に、セッサーラ=タンゲン率いるイマーガラ艦隊も介入した三つ巴の戦いの最中、ノヴァルナとノアは自力で生還、戦場の真ん中で婚約発表をぶち上げるという、驚天動地の離れ業で戦いを一気に終息させてしまう。

 その結果、ウォーダ家とサイドゥ家は和解し、イマーガラ家も撤退を余儀なくされ、オ・ワーリ宙域は一応の安定を得た。するとこれにより、FT‐44251星系に建設した整備・補給基地も無用となって、放置されたのであった。
 ただ、放置されたと言ってもそこは“マムシのドゥ・ザン”。当初はノヴァルナとノアの婚約など、イマーガラ家の介入で窮地に陥った、ウォーダ家との戦いを打開するための方便と考えており、再びウォーダ家と戦う事になった際に、“手駒の一つ”として、どのようにでも使う目的で、公式に譲渡も破壊もせずに置いていったのである。

 このような経緯であるから、停戦直後はウォーダ家でも、基地が放置されている事は把握はしていた。しかしその後、ヒディラス・ダン=ウォーダの殺害とノヴァルナの当主継承。さらにそのノヴァルナのオ・ワーリ統一の騒乱の間で、基地の存在は記録の中に埋もれていったのだった。
 
「しかしてめー…そんなもんに、よく気付いたな」

 データパッドの映像を見ながら、誰も憶えていないような宇宙基地の存在を知っていたキノッサに、ノヴァルナは感心したように言う。キノッサは「ヘヘ…」と片手で頭を搔きながら笑みを浮かべ、種明かしをした。

「実は以前に、フーマ様からサイドゥ家時代の事を、色々とお聞きする機会がありまして、その時にこの話が出てたんスよ」

「なるほど、フーマか」

 コーティー=フーマはドルグ=ホルタと共に、かつてサイドゥ家の武将であり、ドゥ・ザンの腹心として六年前のオ・ワーリ宙域侵攻にも参加している。そして現在のフーマはノヴァルナのもとで、外務を担当する家老職に就いていた。ただそのフーマが、キノッサとよしみを通じているとは、ノヴァルナの与り知らぬところだ。この辺りはキノッサの人脈を作る上手さであろう。

「はいッス。それを思い出して記録を探った上で、この前フーマ様がラゴンに帰られた時に、基地の事を詳しく聞き直したんスよ。これはもしかして、使えるんじゃないかと…」

「よし。具体的にどうするか話せ。場合によっちゃ、こちらも大規模陽動をして、てめーに協力してやる」



******―――

 そこからノヴァルナに打ち明けた具体的な作戦内容を、キノッサはハートスティンガーにも同じように打ち明けた。これを聞いたハートスティンガーは、髭面の顎を指でゴリゴリ…と撫でて、「うーむ…」と唸り声を漏らす。その厳めしい顔は、難しい表情のままだ。

「ハートスティンガーの親分!」

 呼びかけるキノッサの背後で、カズージとホーリオが固唾を飲み、傍らに立つアンドロイドのP1‐0号は、センサーアイの光を僅かに明滅させた。しばし無言を続けたハートスティンガーは、やがてゆっくりと口を開く。

「確かにおまえの話通りなら、現地で城を組み立てるよりは、可能性が高いだろうぜ。ノヴァルナ様も乗っかりたくなるだろうさ…だがな―――」

「だがな?」

 追い訊きするキノッサに、ハートスティンガーは吐き捨てるように告げた。

「俺達が命を懸けてまで、お前の話に乗っかる理由はねぇ」

「だからそれは―――」

「聞いたさ。莫大な報酬。それに話によっちゃあ、もう少しマシな環境の惑星に、居留地を提供してくれるってんだろ。だがな、成功の可能性が幾らか高まったぐらいじゃあ、やっぱり協力する気にはなれねぇな」



▶#15につづく
 
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