35 / 526
第2話:キノッサの大博打
#14
しおりを挟むFT‐44251星系の宇宙基地はキノッサが告げた通り、1555年の秋頃、ノヴァルナとノアが熱力学的非エントロピーフィールドを抜け、皇国暦1584年のムツルー宙域へ飛ばされた際、当時のサイドゥ家がオ・ワーリ宙域内に建設したものであった。
ドゥ・ザン=サイドゥはノヴァルナと共に、『ナグァルラワン暗黒星団域』内のブラックホールへ落ち込んだ娘ノアの絶望的状況に鑑み、非情ではあるがこれを最大限利用する事を考え、ノアの死をウォーダ家の責任だとして、オ・ワーリ宙域侵攻の大義名分とした。そして腹心ドルグ=ホルタの指揮する遊撃艦隊の活動で、陽動を仕掛けている間に、ドゥ・ザンらの本隊がオ・ワーリ宙域へ侵入。国境から約三百光年入ったところに位置する、FT‐44251星系にパーツ組立式の基地を建設し、補給と整備の拠点としたのである。
ウォーダ側のどこかの基地を奪い取ると、初めから拠点が知られてしまう事になるが、基地を運び込む事でその所在を知られるには時間が掛かる。このドゥ・ザンの計略に掛かったウォーダ家が、基地の存在に気付いた時にはすでに基地は完成してしまっていた。(第1章 第9話:動乱の宙域)
ところがその後に事態は一変し、ドゥ・ザン艦隊とウォーダ艦隊の決戦に、セッサーラ=タンゲン率いるイマーガラ艦隊も介入した三つ巴の戦いの最中、ノヴァルナとノアは自力で生還、戦場の真ん中で婚約発表をぶち上げるという、驚天動地の離れ業で戦いを一気に終息させてしまう。
その結果、ウォーダ家とサイドゥ家は和解し、イマーガラ家も撤退を余儀なくされ、オ・ワーリ宙域は一応の安定を得た。するとこれにより、FT‐44251星系に建設した整備・補給基地も無用となって、放置されたのであった。
ただ、放置されたと言ってもそこは“マムシのドゥ・ザン”。当初はノヴァルナとノアの婚約など、イマーガラ家の介入で窮地に陥った、ウォーダ家との戦いを打開するための方便と考えており、再びウォーダ家と戦う事になった際に、“手駒の一つ”として、どのようにでも使う目的で、公式に譲渡も破壊もせずに置いていったのである。
このような経緯であるから、停戦直後はウォーダ家でも、基地が放置されている事は把握はしていた。しかしその後、ヒディラス・ダン=ウォーダの殺害とノヴァルナの当主継承。さらにそのノヴァルナのオ・ワーリ統一の騒乱の間で、基地の存在は記録の中に埋もれていったのだった。
「しかしてめー…そんなもんに、よく気付いたな」
データパッドの映像を見ながら、誰も憶えていないような宇宙基地の存在を知っていたキノッサに、ノヴァルナは感心したように言う。キノッサは「ヘヘ…」と片手で頭を搔きながら笑みを浮かべ、種明かしをした。
「実は以前に、フーマ様からサイドゥ家時代の事を、色々とお聞きする機会がありまして、その時にこの話が出てたんスよ」
「なるほど、フーマか」
コーティー=フーマはドルグ=ホルタと共に、かつてサイドゥ家の武将であり、ドゥ・ザンの腹心として六年前のオ・ワーリ宙域侵攻にも参加している。そして現在のフーマはノヴァルナのもとで、外務を担当する家老職に就いていた。ただそのフーマが、キノッサと誼を通じているとは、ノヴァルナの与り知らぬところだ。この辺りはキノッサの人脈を作る上手さであろう。
「はいッス。それを思い出して記録を探った上で、この前フーマ様がラゴンに帰られた時に、基地の事を詳しく聞き直したんスよ。これはもしかして、使えるんじゃないかと…」
「よし。具体的にどうするか話せ。場合によっちゃ、こちらも大規模陽動をして、てめーに協力してやる」
******―――
そこからノヴァルナに打ち明けた具体的な作戦内容を、キノッサはハートスティンガーにも同じように打ち明けた。これを聞いたハートスティンガーは、髭面の顎を指でゴリゴリ…と撫でて、「うーむ…」と唸り声を漏らす。その厳めしい顔は、難しい表情のままだ。
「ハートスティンガーの親分!」
呼びかけるキノッサの背後で、カズージとホーリオが固唾を飲み、傍らに立つアンドロイドのP1‐0号は、センサーアイの光を僅かに明滅させた。しばし無言を続けたハートスティンガーは、やがてゆっくりと口を開く。
「確かにおまえの話通りなら、現地で城を組み立てるよりは、可能性が高いだろうぜ。ノヴァルナ様も乗っかりたくなるだろうさ…だがな―――」
「だがな?」
追い訊きするキノッサに、ハートスティンガーは吐き捨てるように告げた。
「俺達が命を懸けてまで、お前の話に乗っかる理由はねぇ」
「だからそれは―――」
「聞いたさ。莫大な報酬。それに話によっちゃあ、もう少しマシな環境の惑星に、居留地を提供してくれるってんだろ。だがな、成功の可能性が幾らか高まったぐらいじゃあ、やっぱり協力する気にはなれねぇな」
▶#15につづく
0
あなたにおすすめの小説
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる