36 / 526
第2話:キノッサの大博打
#15
しおりを挟む「ハートスティンガーの親分ともあろうものが、怖気づいたんスか?…俺っちが居た頃の親分は、命知らずが服着てるみたいな人だったじゃないッスか!」
あえて挑発的な物言いをするキノッサ。それをハートスティンガーは「ふん」と一笑に付して反論した。
「そいつは今も変わっちゃいねぇさ。だがそれは俺自身と子分ども。そして俺達の噂を聞きつけて、ここに流れ着いて来た難民達のためであって、星大名同士のくだらねぇ縄張り争いに、首を突っ込むためじゃねぇ!」
するとこれを聞いたキノッサは、否定されたにもかかわらず、内心で“しめた”とほくそ笑んだ。ハートスティンガーの言葉の中に、突破口を見出したのだ。笑い声を交えてからかうように言う。
「ノヴァルナ様の戦いを、単なる星大名同士の、くだらない縄張り争いッスと?…ケヘヘッ。そりゃまた、見当外れもいいとこッス!」
「なに?」
黒く太い眉の間に皺を刻んで、ハートスティンガーは眼光を鋭くする。それにキノッサも真剣な眼差しを返して告げた。
「ノヴァルナ様が、ミノネリラ宙域の制覇を目指されるのは、縄張り争いみたいな小さい話じゃないッスよ」
「小さい話じゃないだと?」
「そうッス! ノヴァルナ様は憂国の大義のために、固い決意をもって起たれたんス!」
「憂国の大義…?」
戸惑いを見せるハートスティンガーに、キノッサはきっぱりと言い切る。
「星帥皇テルーザ陛下を奉じ、混沌としたこの戦国の世を終息させ、銀河皇国に秩序と安寧を取り戻すことッス!」
「!!!!」
“星帥皇を奉じ”という言葉にギクリと肩を震わす、ハートスティンガーの反応をキノッサは見逃さない。それはハートスティンガーの一族にとって、特別な意味を持つものだからだ。すかさず畳みかけるキノッサ。口にする言葉も、普段の軽い口調を控えた武家言葉だ。
「そもハートスティンガー家は、代々星帥皇室の忠臣たらんとして来た一族。百年前の『オーニン・ノーラ戦役』にてヤーマナ家に味方したるも、一族の利益のためではなく、増長し、星帥皇室を傀儡同然に扱うホルソミカ家を、誅さんとしたものでありましょう」
「む………」
「敗残の身となり、このオ・ワーリへ落ち延びて来たのち、どの星大名家にも仕官する事無く、貧しくとも自立の道を続けているも、いまだ勤皇の志を失わずにいるがため。今の“星大名同士の縄張り争いに加わる気はない”との発言も、根底にこの志があるがゆえ」
「むむ……」
キノッサの言葉に、ハートスティンガーの眉間の皺が深さを増す。
ハートスティンガーの一族が、元は銀河皇国の武将であった事は、以前にも述べた通りである。
そしてその行動原理が星帥皇室への忠義であったものであるため、自分達の利益のために争っているだけに見える、現在の星大名家とは関りを持つ気はない…というのがキノッサが指摘した通りの、マスクート・コロック=ハートスティンガーの本音の部分であった。彼等のもとで二年間暮らしていたキノッサであるから、知り得た話だ。そこを突いて、強い口調でさらに言い切る。
「ノヴァルナ公のご決意を打ち明けたる今、そのような勤皇の志を持つご貴殿らがこれに加わらぬは、むしろ星帥皇陛下に対する不忠というもの!」
「うぬ…キノッサ!」
怒りの表情になるハートスティンガー。ただその怒りは、“不忠”という言葉に反応したものらしい。キノッサの思惑通りだ。それが証拠にハートスティンガーの厳つい顔は、すぐに怒りの表情から思案顔になった。すると彼等がいる所長室のドアが開き、グレーの作業着を着て頭を赤いバンダナで覆った、少々恰幅のいい女性が入って来る。
「キノッサが帰って来たんだって?」
女性を振り返ったキノッサは、真面目だった表情を、いつもの人懐っこい笑顔に変えて、「これはおかみさん。お久しぶりッス!」とペコリと頭を下げた。女性の名はタウシャーナ。マスクート・コロック=ハートスティンガーの妻である。タウシャーナは嬉しそうにキノッサに声を掛ける。
「まぁ。久しぶりじゃないか。少しは背も伸びたかい?」
「いやぁ…それがまぁ、あんまり」
そう言って顔を挙げたキノッサは、タウシャーナの脚の陰から、こちらを窺うように見る小さな子供の姿を認めた。キノッサの視線に気づいたタウシャーナは、子供の肩を支えて、自分の前に出るように促す。
「この子はマルセラ…マルセラ・ヒッカム=ハートスティンガー。あんたがここを出て行ったあと、三年前に生まれたマスクートとあたしの子だよ」
「お子さんが出来てたんスか。遅ればせながら、おめでとうございますです。知ってれば、何かお祝いを持参したんスけど…申し訳ないッス」
「ははッ…そつの無さは変わっちゃいないねぇ。どうせその調子で、上手くウォーダ家に潜り込んだんだろ?」
「いやぁ…」
図星を指されて頭を掻くキノッサ。妻と子の登場で、場の空気が話の腰を折られた雰囲気になったが、それはかえって皆にとり好都合でもあった。ハートスティンガーは一つ咳払いをすると、キノッサに告げる。
「おまえの話は分かった。ひと晩じっくり考えて、明日返事する。今日は久しぶりの古巣でゆっくりするがいい」
▶#16につづく
0
あなたにおすすめの小説
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる