37 / 526
第2話:キノッサの大博打
#16
しおりを挟む同じ頃、イースキー家では今や政治の実権を握る、当主オルグターツの側近にして愛人のビーダ=ザイードとラクシャス=ハルマの二人と、前当主ギルターツやそれ以前から仕えている家臣達との間の軋轢が、さらに広がっていた。
イナヴァーザン城の会議室に集めた艦隊司令官達の前で、『ナグァルラワン暗黒星団域』の星図を大型ホログラムスクリーンに映し出し、ビーダとラクシャスは口調こそ丁寧だが、尊大な態度で発言している。
「ヴァルキス=ウォーダ様から頂いた情報によると、ウォーダ家は再び、この『スノン・マーダーの空隙』に拠点を建設しようと、部隊を動かしているようですわ」
ビーダの言葉に、ラクシャスが続ける。
「今回は、惑星ラゴンで資材調達を行っている動きを見せていない事から、輸送船団の残りがおり、現在対アイノンザン=ウォーダ家用の城を建設中の、カーマック星系から資材を運び込む算段であるようです」
発言に従い、スクリーンは『スノン・マーダーの空隙』から、カーマック星系周辺にかけての星図をピックアップして重ねた。再び口を開くビーダ。
「今回の迎撃作戦は第9艦隊のセルザレス=アンカ殿、第11艦隊のラムセアル=ラムベル殿、第13艦隊のバムル=エンシェン殿にお願い致しますわ」
それを聞いて、“ミノネリラ三連星”をはじめとする、ベテラン武将達は“またか…”という眼で互いに顔を見合わせた。名前を挙げられた三人の司令官は、ビーダとラクシャスの子飼いの武将だったからである。つまり昨年の11月に、ウモルヴェ星系でウォーダ軍に敗れた時と同じ、という事だ。しかも第9艦隊などは、その“ウモルヴェ星系会戦”に参加し、前任の司令官の戦死を含む壊滅的打撃を受けたものを、新たに編制し直したものだった。
それでも起立する三人の司令官に、ビーダとラクシャスにも一応思う所はあるのか、「今度は油断しないようにして下さいな」と、ビーダが釘を刺す。ただ納得できないのは、ベテラン武将達である。
「よろしいかな? お二方」
そう言って右手を軽く掲げたのは“ミノネリラ三連星”の一人、リーンテーツ=イナルヴァだ。わざとらしい愛想の良さでビーダが応じる。
「もちろんですわ。イナルヴァ様」
「今ご指名された三名は、昨年のウモルヴェ星系で討ち死にした者達と同様、実戦で艦隊指揮を行った事は無いと記憶しておる。しかるに、『スノン・マーダーの空隙』への築城を阻止するのは、ウモルヴェ星系を奪われるのとは、戦略的重要性が桁違い。些か荷が勝ちすぎるのではあるまいか?」
「それは充分承知しております。そのうえで、三名を指名したのです」
さも当たり前のようにラクシャスが言葉を返すのを、イナルヴァは疑わしい目つきで見返した。ラクシャスは「充分承知している」と言ったが、相棒のビーダと合わせ、この二人に軍事的センスが皆無なのは、イースキー家のベテラン武将達にはもはや常識的な情報である。
「恐れながら、不安は拭えぬ…と申すほかはないですな」
そう言うのはナモド・ボクゼ=ウージェル。こちらも“ミノネリラ三連星”の一人の黒人武将だ。さらに三連星のもう一人の、モリナール=アンドアも意見した。
「一度築城を許してしまうと、攻略は一気に困難となる。ここは確実性を優先すべきではないか?」
それに応じたのはビーダであった。“ミノネリラ三連星”を前にしても、尊大さには変わりが無い。
「三連星の皆様のご意見も尤もですわ。しかしながら、これから先の我等がイースキー家の、戦力の底上げを図るには絶好の機会…これも三連星の皆様でしたら、当然お分かり頂けるはず」
「………」
煽るビーダの言葉に、三人は不快げに眉をしかめた。ビーダは三人のそんな反応を気に留めるふうもなく発言を続ける。
「前回の戦いでは、デュバル・ハーヴェン=ティカナック殿が、かねてよりの噂でありました高い才覚を発露され、見事勝利を収められました。我が軍には同様に、才覚に溢れた若手武将が数多と居ります。彼等にも均等に機会が与えられるべきであろう…オルグターツ殿下は、そう申されておられます」
この発言に会議場のそこかしから、「オルグターツ様が…?」という囁きが聞こえて来た。ただその声に含まれる響きは、称賛ではなく疑念だ。政治には全くの無関心で、日々放蕩三昧の主君が、そのような発言をするとは思えないからである。
“チッ!…”
イナルヴァはビーダとラクシャスを見据えて、内心で舌打ちした。要は今回の防衛作戦の司令官人事が、前回の築城作戦を阻止した、デュバル・ハーヴェン=ティカナックへの妬みである可能性に思い当たったのだ。
事実、昨年のウモルヴェ星系で子飼いの武将達が敗北した事もあって、ハーヴェンの功績は二人にとって屈辱であった。オルグターツにノア姫の捕獲を命じられていた事もあり、敗北の責任は討ち死にした司令官達に押し付けたものの、面目を潰されたのは間違いない。それもあって、『スノン・マーダーの空隙』への築城阻止の勝利報告は、オルグターツへ報せもしていない有様だった。
だが事実はどうであれ、実権を握っているビーダとラクシャスが、“黒を白と言えば白になる”のが、現在のイースキー家なのだ。ベテラン武将達の不満など無視し、ビーダは白々しく言い放った。
「無論、三連星の方々には、後詰めとしてサポートをお願い致します。頼りにしておりますので宜しくお願い致しますわ………」
▶#17につづく
0
あなたにおすすめの小説
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる