40 / 526
第2話:キノッサの大博打
#19
しおりを挟むそれから五日後の1562年3月23日。惑星ラヴランのあるアンスナルバ星系を離れる、二十三隻からなる貨物輸送船の一団があった。キノッサをを通じて、ノヴァルナへの協力を決めたハートスティンガーの船団である。目指すのは無人の恒星系FT‐44215星系。その最外縁を周回する、第十一番惑星の衛星軌道上に浮かぶ、旧サイドゥ家が建設・放置した宇宙ステーションだ。
貨物船団を率いているのは、ハートスティンガーの乗る『ブラックフラグ』号。一番大きな貨物船だが、三十年前以上も前に建造された旧式船であり、九年前にキノッサが忍び込み、ハートスティンガー達との縁を持った船でもある。
その『ブラックフラグ』号のブリッジに、キノッサは呼び出された。最初のDFドライヴを行う前の打ち合わせであった。
「お待たせッス」
大型貨物船でありながら、そう広くはない『ブラックフラグ』号のブリッジに、カズージとホーリオを連れたキノッサが入って来る。
「おう。こっちだ」
六人の組織の幹部達と共に、テーブル型の大型スクリーンを囲んでいたハートスティンガーが、三人に手招きをした。幹部達も当然キノッサの知人であり、彼等のうちの四人はヒト種。あとは一人が、頭部に蟻のそれと似た触角を生やすアントニア星人。もう一人がイカのような頭部のスキラ星人である。キノッサは「どーも、どーも…」と愛想よく歩み寄って行った。
スクリーンを覗き込むと、映し出されているのは、FT‐44215星系までの航路図。表示を見れば直線距離で約千五百光年。それにブラックホールなどの重力場特異点を回避する、実際の予定航路が重ねられており、五日後の到着となっている。ハートスティンガーはその実際の予定航路の、三回目のDFドライヴ到達点を指さして告げた。
「惑星ルア・クランス。ここで同業者の連中と合流する」
「助かるッス」
“同業者の連中”とはハートスティンガーと同じく、非合法で様々な工業製品や鉱石、食料などを売買している密造・密輸業者の事である。戦国の世が長引いた結果、銀河皇国の各宙域ではこのような業者も数多く活動しており、非合法と言いながらも各宙域の経済の一部を担っていた。
「しかし、大丈夫なんスよね?」
「心配すんな。声を掛けたのは、真っ当な仕事をしてる奴等だ。あくどい真似をしてる野郎は呼んでねぇ」
宇宙ステーションを牽引するのに、ハートスティンガー達の二十三隻の貨物船だけでは、出力不足であった。そこでハートスティンガーは懇意にしている同業者達に対し、協力を呼び掛けたのである。
非合法の密造・密輸業者の中には、略奪集団まがいの活動を行っている者達もおり、一般交易船に対する海賊行為や植民星系への襲撃など、犯罪行為にも手を染めていた。
もしそのような人間達が加わっていたとなると、キノッサがいかに築城作戦に成功しようとも、主君ノヴァルナの怒りを買う事は間違いなく、評価への大きなマイナス点となってしまう。
ただハートスティンガーもその辺りは心得ており、そもそも略奪集団まがいの同業者とは敵対の関係にあった。ハートスティンガー達の貨物船は、大半が違法改造によって、通常の武装貨物船以上の火力を有しているが、それも略奪集団や略奪行為を働く同業者から身を守るためのもので、時には非正規植民惑星の住民を、略奪集団から守ったりもしていたのである。
そしてそのようなハートスティンガーが呼びかけた結果、四名の同業者の協力が得られる事になった。いずれもハートスティンガー同様、非合法とはいえ“まともな仕事”をしている者達だ。
「連中の持ち船を合わせると六十隻にはなる。これでどうにかなるはずだ」
ハートスティンガーがそう言うと、幹部の一人が難しい表情で意見を述べる。
「だが親分。時間的余裕はほとんどありませんぜ」
「そこは気合で乗り切るしかねぇだろ」
苦笑いで応じるハートスティンガー。そしてその顔はキノッサに向く。
「気合で乗り切んなきゃなんねぇのは、おまえも一緒だぜ」
「わかってるッス…」
決意を込めた眼でハートスティンガーを見返し、キノッサは続けた。
「もし失敗しそうになったら、親分達は俺っちを置いて、脱出してくださいッス」
するとハートスティンガーは、「はん!」とせせら笑いを発して言葉を返す。
「バーカ、そうじゃねぇだろ。失敗しそうになっても、死に物狂いで成功させるだけの気合で、みんなに指示を出せって事だ。おまえが目指してんのは、そういった場所なんだろが」
「親分…」
そしてハートスティンガー達の貨物船団は、惑星ルア・クランスへ到着した。四名の協力者はすでに、この惑星の交易ステーションの酒場で、ハートスティンガーとキノッサを待っていた。三人はヒト種、一人はダチョウのような頭部のハルピメア星人だ。カウンター席で待ち合わせていた四人と、短い挨拶を交わしたハートスティンガーは、近くにいた店員に奥の客間を借りると告げる。
「大まかな計画は通信で知らせた通りだ。まずはコイツの話を聞いてくれ」
そう切り出してハートスティンガーは、キノッサに作戦概要の説明を促した。
▶#20につづく
0
あなたにおすすめの小説
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる