50 / 526
第3話:スノン・マーダーの一夜城
#08
しおりを挟むキノッサの指示…正確にはハートスティンガーの要請を受けて、『ブラックフラグ』号からやって来たのは、三十二名の部下とモルタナであった。これで『ブラックフラグ』号には、運用に必要な最低限の十二名が残るのみである。
エアロックで彼等を迎えたハートスティンガーは、早速中央指令室へ向かう事を告げると、三列で通路を埋め尽くして進み始めた。ここでも最前列真ん中をホーリオ、最後尾真ん中をハートスティンガーが務める。
そして応援の部下達は八人が、電磁パルス銃を持参していた。操られている人間を生け捕りにするには、ブラスターライフルの“麻痺モード”ではなく電磁パルスで、寄生した機械生物の機能を停止させた方がよいという、P1‐0号からの助言に従ったものだ。
今しがたは状況も不明な中で、突然に襲撃を受けたキノッサ達であったが、今度は医務室でP1‐0号の解析から得た情報もあって、充分な警戒態勢を取る事が出来た。八丁ある電磁パルス銃を前後の三人と、中央部にいるキノッサとモルタナに持たせ、慎重に前進する。
そうして通路を十分ほど進んだその時である。
様々なコンテナが置かれた、倉庫と思しき広い空間を、通り抜けようとしていた彼等を、異形の人間達が再び襲撃して来た。楕円形の広い倉庫内に積み上げられている、コンテナの間から四つん這いになった人間が、次々と飛び出して来る。
「固まれ! バラついたらヤツらに捕まるぞ!」
ハートスティンガーの指示で、少々いびつではあるが全員が円形に集まって、襲い掛かって来る異形の人間を撃ち始めた。メインは電磁パルス銃を持つ者。その銃口から放たれたビームが異形の人間に命中し、麻痺ビームの黄色ではなく、青紫色の小さな稲妻が体に絡みつくと、背中に取り付いていた機械生物から煙が上がる。一瞬後、四肢を大きく痙攣させた異形の人間は、電池が切れた機械人形のように、次々と床に倒れ込んだ。
時折、円陣まで間合いを詰め、ハートスティンガーの部下に飛び掛かる者もいるにはいるが、それらはすぐに周囲の部下から、銃撃を浴びせられる。
すると異形の人間を十数人倒した直後、今度は大きな昆虫の姿をした機械生物がそのまま、山積みのコンテナの隙間から、素早く這い出して来る。まる夏の夜に明かりをつけた途端、台所のあちこちを走り回るゴ〇ブリのようだ。そしてこの光景が辺りに広がった途端、パニックを起こした人間がいた。モルタナだ。
「いやぁあああああああ!!!!」
叫び声を上げて、電磁パルス銃をむやみやたらと撃ちまくる。
モルタナの無茶苦茶な電磁パルス射撃は幸か不幸か、巻き添えを喰ったハートスティンガーの部下の何人かに、飛び上がるほどの痛みを与えつつも、襲い掛かって来た昆虫型機械生物に悉く命中し、キノッサ達の奮闘も加えて、全ての敵を仕留める事に成功する。
倉庫の床に、電磁パルス銃によって機能を停止した昆虫型機械生物が、無数に転がっていた。だがモルタナは両手で電磁パルス銃のグリップを握り締めたまま、肩で大きく息をして興奮状態にある。
「姐さん! モルタナの姐さん!!」
傍らで口調を強くして呼びかけるキノッサを、モルタナは大きな眼をさらに大きく見開いたままで、睨みつける。
「全部やっつけたッス! もう虫みたいなのは、全部やっつけたッスよ!」
「ぜ…全部?」
間を置いて、モルタナはキノッサに振り向いて尋ねる。彼女の眼に理性の光が蘇るのを見逃さなかったキノッサは、あきらかに異常をきたしたモルタナを、気遣う口調で問い掛けた。
「はい。全部やっつけたッス!…大丈夫ッスか?」
「ああ…別に…なんともないよ」
モルタナは電磁パルス銃を握ったままの右手の甲で、首筋に滲んだ汗を拭い。呼吸を整えながら応じる。その様子を見たキノッサは、背筋を伸ばして告げた。
「モルタナの姐さん」
「なんだい? 改まって」
「正直に話して欲しいッス」
「何をさ?」
「あの機械の虫について、何かご存知なんでしょ?」
そう問われてモルタナは再び、眼に見えて動揺し始める。
「なっ!…何も、あたいは知らないよ!!」
「嘘ッス。このステーションにいたのが、コイツらだって分かってから、姐さんは明らかに態度が怪しくなったッス!」
電磁パルスを浴びて六本の脚を畳み、仰向けに転がった機械生物を指差して、キノッサは不信感を露わにした。ハートスティンガーも、黒い顎髭を指先で撫でつけながら話に加わる。
「そうだぜ、姐さん。今のあんたにゃ、最初に会った時の威勢が、まるで感じられねぇ。連れてかれた俺の部下の事もある! 今は一つでも情報が欲しいんだ。知ってる事があるなら言ってくれ!!」
「だから、あたいは何も知らないって、言ってるだろ!」
「姐さん!」
さらに詰め寄るキノッサに根負けしたらしく、モルタナはそっぽを向いて顔を赤らめ、吐き捨てるように言い放った。
「あたいは虫ってヤツが、この宇宙で一番苦手なんだよ! それだけさ!!」
「は?」
キノッサもハートスティンガーも、ハートスティンガーの部下達も、一斉に口をポカンと開ける。そして次の瞬間、揃って声を上げた。
「えええええーーー!!??」
▶#09につづく
0
あなたにおすすめの小説
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる