銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

文字の大きさ
69 / 526
第3話:スノン・マーダーの一夜城

#27

しおりを挟む
 
 愛想笑いをするキノッサに、ハートスティンガーは問い質す。

「おまえの大将のノヴァルナ様は、こういう時に貧乏ゆすりをするのか?」

「そっ!…そんなみっともない事、するワケないッス!!」

 そう言って背筋を伸ばし、ビーム砲台の制御室の幾つかに、同時に回線を開いたキノッサは、「何やってるッスか!? 砲撃が甘くなってるッスよ!」と檄を飛ばした。その姿を見て軽く頷いたハートスティンガーは、自らも副司令官役として、部下と協力者達へ回線を開いて、強い口調で告げる。

「野郎ども。たるんで来てっぞ! 気合入れ直せ!!」

 それは実に効果的なタイミングであった。カリスマ性という点では、まだこの時はキノッサよりハートスティンガーの方が上であって、組織のトップという立場においても、キノッサより長じているからだ。キノッサも両手で自分の頬を叩いて、気合を入れ直す。司令部が統制を取り戻すと兵も統制を取り戻す。“一夜城”の迎撃の火力が回復した事によって、接近しようとしていたイースキー艦隊を押し返し始めた。ふたたび距離を開け、遠距離砲戦を始めるイースキー艦隊。

「やれやれだな…」

 戦線を支え、再び膠着状態に持ち込んだ事に、戦術状況ホログラムを眺めるハートスティンガーは、安堵の息を漏らす。



 ところがその直後の事である。“一夜城”の対消滅反応炉が、またもや異常をきたし始めたのだ。ブルブル…と、軽震度の地震のような揺れを感じると、中央指令室の照明が不安定に明滅を始める。

「何事ッスか!!??」

 驚いて司令官席から立ち上がるキノッサ。即座にオペレーターが状況を確認して報告を入れた。

「2番、3番対消滅反応炉、出力低下!」

「反応炉の制御システムから、異常信号を検知!」

「またか!!」

 発信源不明の異常信号によって、対消滅反応炉が一時停止したのは、星間ガス流から出る時に発生したのに続いて二度目だ。だが今度のいまは戦闘の只中である。対消滅反応炉の出力低下は必然的に、“一夜城”を防護するエネルギーシールドの出力低下に繋がるのだ。

 そしてその悪い予想はすぐ、現実のものになる。イースキー艦隊の戦艦が放つ主砲ビームが、エネルギーシールドを貫いて直撃し始めたのだ。ズシン!と腹に響くような着弾の震動が二度三度。それを踏ん張って支えたキノッサは、メインシステムの制御を行っているP1‐0号へ問い質した。

「どうなってるんスか!? PON1号!!」

 ところがP1‐0号が座っていたはずのオペレーター席は、いつの間にかもぬけの殻となっている。
 
「えっ!?…なんでここ、居ないんスか?」

 空席になっているP1‐0号のオペレーター席を見て、キノッサは茫然と疑問を口にした。ハートスティンガーは「俺は知らんぞ」と言って、具備を左右に振る。そして他のオペレーターに「おい」と声を掛けると、今しがたハートスティンガーに無駄口を注意された二人が、振り向いて応じる。

「彼なら、お二人が話をされてる間に、席を立って…」

「落ち着き払って、出ていきましたが…」

 これを聞いた直後、イースキー軍の戦艦による砲撃を受けて、基地全体が再び揺さぶられる。P1‐0号が居なくなって空いた、基地のメインシステムのオペレーター席に、否応なしにハートスティンガーが座る。

 ハートスティンガーがコントロールパネルを操作して、対消滅反応炉の異常に関するデータチェックを行う間に、キノッサは別のオペレーターのもとへ歩み寄り、P1‐0号の居所を探らせた。ただ人員不足のため、基地内の警備システムは機械生物の一件が済んでから放置状態にあり、全てを再稼働するには幾分時間が必要であるらしい。

“なんなんスか、PON1号…アンドロイドが勝手に持ち場を離れて、いなくなるなんて、前代未聞の出来事ッスよ!”

 すると先にハートスティンガーが、戸惑いの声を上げた。

「なんだこりゃ!? 異常信号に関する情報がロックされ、暗号化されてっぞ!」

「暗号化!!??」

 驚きの声とともに振り向くキノッサ。暗号化するという事は、異常信号に関する情報を秘匿する事が目的であり、状況的にそれが出来るのはP1‐0号だけだ。

“なぜ、そんな事を…?”

 ただハートスティンガーはまず、対消滅反応炉の状況を先に続けた。そちらの方が今は優先されるべきだからである。

「ともかく現在は第1と、第4対消滅反応炉だけが全力稼働可能なんで、そっちを全力にして、エネルギーシールドの出力を高める。だがそれでも戦艦クラスの主砲射撃は、完全には防御できない。威力を30パーセントまで減衰はするが、直撃は免れねぇ!」

 ハートスティンガーがそう言った直後、再び敵の戦艦が放ったビームが着弾。基地全体を揺さぶる。しかしハートスティンガーの素早い対処が功を奏したらしく、それまでと比べて震動は小さかった。
 するとそこへ、重巡航艦に乗って宇宙に出ているティヌート=ダイナンから、通信が入る。

「司令官殿。危急の時に申し訳ないが、確認させて頂きたい」

「なんスか?」

「基地に接舷させている学術調査船に、出航の兆候が見られるが、この戦闘中に動かすおつもりか?」
 
 いきなりの問い掛けに、キノッサの表情は困惑を隠せない。ダイナンが言っているのは、基地の外殻に接舷させたままにしている、皇国科学省の学術調査船『パルセンティア』号の事だ。そして勿論、それを出航させる命令など出してはいない。ハッ!…として顔を見合わせるキノッサとハートスティンガー。そこへ二人の共通認識を確定させるオペレーターの報告。

「アンドロイドP1‐0号の位置が判明。基地内の通路42‐Bから、42‐Cへ移動中」

 同時にキノッサの前へ幾つかのホログラムスクリーンが立ち上がって、監視カメラ映像や通路マップなどの、セキュリティ情報がそれぞれに分けて映し出される。
 そこには確かに通路を歩く、人間の姿―――識別はアンドロイド―――IDナンバーはP1‐0号のもの、がある。そこからさらにマップを見ると、P1‐0号の進行方向にいるのは、出航準備を始めた『パルセンティア』だ。

「まさか、全部P1‐0号の仕業だったんスか…?」

「状況証拠からすると…そうとしか思えねぇな」

「じゃあ…PON1号は、俺っち達に噓をついてたって事ッスか? アンドロイドなのに?」

 何が起こったのかまるで理解できないといった様子のキノッサに、正解を告げるすべもなく、ハートスティンガーは無言でホログラムスクリーンを睨み付けた。
 P1‐0号の歩く速さは、それほど速くない。走れば今からでもギリギリ追いつきそうである。今の事態を招いた、第2・第3対消滅反応炉の出力を低下させている異常信号を止めなければ、いずれ“一夜城”は防御力を失って崩壊する。ところがその情報はロックされた上に暗号化されており、おそらくこれを仕組んだP1‐0号に解除させない限り、暗号解析にどれぐらい時間が掛かるか予想もできない。

「俺が―――」

 そう言いながら席を立とうとするハートスティンガー。だがキノッサの強い声がそれを制する。

「俺っちが行くッス!」

「なに言ってる。おまえは司令官だろう! ここで指揮を―――」

「そんな事は分かってるッス。だから指揮はハートスティンガーに任せるッス!!」

 自分を“親分”ではなく、呼び捨てにして来るキノッサに、ハートスティンガーはキノッサが、司令官として順列を宣した上での決意の提示だと理解した。ノヴァルナ流に言えば多少ニュアンスは違うが、ナルガヒルデ辺りに艦隊の指揮を任せ、自分は『センクウNX』で飛び出して行くようなものである。
 となると元来は『ム・シャー』であるハートスティンガーも、主君の意志を尊重するのみだ。

「分かった、行って来い。しかし出力は上げられたが、エネルギーシールド自体がそう長くはもたんからな」
 
 ハートスティンガー言葉に頷いたキノッサは、カズージとホーリオに「二人も、俺っちと来るッス!」と声を掛ける。そして中央指令室から出る間際に、ハートスティンガーが「これを持ってけ」とコムリンク携帯通信機を投げて来た。
 ただその軌道は高すぎる大暴投となって、背の低いキノッサは跳び上がったが掴み損ねる。それを背後にいた大柄のホーリオが難なく右手でキャッチ。上から見下ろす感じで無言で差し出されたコムリンクを、キノッサは「○×△◇ッスよ…まったく、もぅ」と小声で愚痴りながら受けとり、三人で駆け出していった。



▶#28につづく
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

獅子の末裔

卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。 和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。 前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...