銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

文字の大きさ
85 / 526
第4話:ミノネリラ騒乱

#02

しおりを挟む
 
 アイノンザン星系がキオ・スー家の支配下に入った事で、敵対的中立を保っている幾つかの独立管領を除いて、オ・ワーリ宙域の統一を果たしたノヴァルナは。これによりミノネリラ宙域への進攻の度合いを高めた。

 5月15日には建設中の『スノン・マーダー城』に、ノヴァルナが直卒する第1艦隊の他、第2、第3、第5、第6、第8、第10、第11、第13の九個艦隊が集結。このうち第2、第11,第13艦隊を残し、イースキー家の本拠地ミノネリラ星系第三惑星、バサラナルムを目指して進発した。バサラナルムの攻略に見せ掛けて迎撃に出て来た艦隊を叩き、将来的に行う本当のバサラナルム攻略への布石を打つのが目的である。

 この作戦には、“フォルクェ=ザマの戦い”のあと、ノヴァルナの同盟者となったミ・ガーワ宙域星大名のトクルガル家と、カイ/シナノーラン宙域星大名のタ・クェルダ家も協力しており、ミノネリラ宙域との領域付近に艦隊を集結させる事によって、イースキー家の戦力を対ノヴァルナへ集中できないようにしていた。



 『ナグァルラワン暗黒星団域』を抜けたウォーダ軍六個艦隊は、ミノネリラ宙域の中核部を目指し、一斉に右舷方向へ進路変更中だ。

 総旗艦『ヒテン』では、ゆっくりと流れていく『ナグァルラワン暗黒星団域』の外部映像を背景に、ノヴァルナが昼食を取っていた。惑星ラゴンのパルソミアロブスターの身と味噌を、ふんだんに使ったソースのパスタは、ノヴァルナの好物の一つである。
 そして相伴するのは、今回の作戦のためにラゴンからやって来た、元サイドゥ家の重臣ドルグ=ホルタであった。ミノネリラ宙域内の水先案内人として、ノヴァルナが呼び寄せたもので、この昼食のパスタソースもドルグの手土産だ。

「やはり、『スノン・マーダー』を手に入れられたのは、大きいですな」

 そう言ってドルグは、パスタを絡めたフォークを口に運ぶ。ノヴァルナはやや辛味のあるソースの中に主張する、海老味噌のコクを楽しみながら頷き、グラスの冷水をひと口啜ってから応じた。

「七年前にウチの親父が攻め込んだ時は、足場を固めないまま、長距離を突っ込んで行って負けましたからね」

 ノヴァルナが言っているのは七年前に、ノヴァルナの父ヒディラスが勢いに任せてミノネリラ宙域に攻め込み、“カノン・グティ星系会戦”で大敗。その影響で家勢が大きく削がれた事についてである。『スノン・マーダー城』築城を重要視したのも、これについての反省を踏まえたものだったのだ。
 
 またアイノンザン星系が支配下となった事で、ノヴァルナ軍はアイノンザン星系を後方支援基地とし、カーマック星系を中継基地、スノン・マーダー城を前線基地とした、強力な補給線を確保する事が出来たのが大きい。今回の大艦隊による進攻作戦も、この補給路があればこそである。

「ところでホルタ殿」

「はい」

「我等は、七年前の親父の時とは違う進軍路を取っているわけですが、イースキー家のの迎撃部隊が待ち構えるとすれば、どの辺りになると思われますか?」

 この質問こそが、ノヴァルナがドルグ=ホルタを呼び寄せた、最大の理由であった。ミノネリラ宙域の防衛体制は、旧サイドゥ家時代とほとんど変わっていないようであり、ノヴァルナ軍が『スノン・マーダーの空隙』から進発した場合、敵がどこに迎撃部隊主力を配置するかというのは、非常に重要な想定となる。

「そうですな…」

 ドルグはそう言いながら考える眼をする。

「シン・カーノン星団ではないでしょうか」

「シン・カーノン星団…?」

「はい。ミノネリラ星系と『スノン・マーダーの空隙』の、ほぼ中間地点にある若い星団で、補給施設などはありませんが、拠点として使用して良し、戦場として選んで良し…といったところです」

「なるほど…ホルタ殿がイースキー家の大将だとして、やはりこの星団で我等を待ち受けられますか?」

「はい。ほかにも幾つか候補はありますが、いずれも一長一短がありますゆえ、スノン・マーダー方面からの侵攻に備えるなら、やはりシン・カーノン星団です」

 再び「なるほど」と応じたノヴァルナは、さらに付け加える。

「イースキー側戦力の中核は、“ミノネリラ三連星”…これも確実でしょうね?」

「間違いなく」

 現在のイースキー家で実権を握る、側近のビーダ=ザイードとラクシャス=ハルマとは、折り合いの悪い“ミノネリラ三連星”のリーンテーツ=イナルヴァ。モリナール=アンドア、ナモド・ボクゼ=ウージェルであるが、主家の存亡の危機ともなればさすがに彼等、歴戦の三武将を中心に据えねばならないだろう。
 積極果敢な攻撃型のイナルヴァ。堅牢無比な防御型のアンドア。臨機応変な機動型のウージェルは、旧サイドゥ家時代から主家を支え続けた大黒柱である。彼等を打ち破れば、他のイースキー家将兵の士気を大きく低下させ、バサラナルム攻略を早める事も可能だろう。

 ただその一方でノヴァルナが警戒するのは、一度ならずウォーダ軍を打ち破り、近頃頭角を現して来たデュバル・ハーヴェン=ティカナックであった。

 実はノヴァルナは、『スノン・マーダーの空隙』を確保してすぐに、ブルーノ・サルス=ウォーダの第4艦隊を、威力偵察としてミノネリラ星系方面へ進出させたのだが、イースキー家の待ち伏せに遭って、主将ブルーノも重傷を負う大損害を受けていた。
 小戦力の恒星間防衛艦隊四個が出現。ブルーノはこれを各個撃破するため、まず最初の一個艦隊に向かったのだが、これらの小艦隊は四つの恒星間防衛艦隊ではなく、デュバル・ハーヴェン=ティカナックと、“ミノネリラ三連星”がそれぞれに直率する小部隊だったのだ。

 防御に強いモリナール=アンドアの部隊がまず突出して、ブルーノ艦隊を誘引。その間にハーヴェンとリーンテーツ=イナルヴァ、ナモド・ボクゼ=ウージェルの三部隊が合流して、アンドア艦隊を攻めあぐねていたブルーノ艦隊へ襲い掛かったのである。
 こういった戦術は、これまでの“ミノネリラ三連星”の戦歴データにはなかったもので、おそらく戦術指導をハーヴェンが行ったのだろうと、ウォーダ軍では分析していた。ハーヴェンの才が、“ミノネリラ三連星”の戦術に、幅を持たせたのであり、『スノン・マーダーの空隙』に橋頭保を築けても、前途は多難である事を示している。

“厄介なヤツが現れたもんだぜ…”

 単純に武人としてなら、ハーヴェンと戦略・戦術を競ってみたいと思うノヴァルナだが、今の自分はウォーダ軍とその領民の安寧、そしてさらに星帥皇テルーザと誓った、共に戦乱の世を終わらせ、銀河皇国に秩序を回復させるという、大望がある。それを考えるなら、ハーヴェンの出現は有難くない事この上ない。

そしてノヴァルナの懸念は現実のものとなった―――



▶#03につづく
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

獅子の末裔

卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。 和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。 前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...