銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

文字の大きさ
92 / 526
第4話:ミノネリラ騒乱

#09

しおりを挟む
 
 ノアは当然、悪ふざけなどで『超空間ネゲントロピーコイル』の名を出したのではない。その証拠にというわけでは無いが、四人が集まるテーブル上にデータパッドを置き、宇宙図のホログラムを展開して説明を始めた。

「カーティムル自体に、あんな規模の天変地異が起きる要素は無かったのは、これまでにも科学局が分析して報告して来た通りよ―――」

 ノアは四人の真ん中に浮かび上がった宇宙図に、細い指先を触れさせ、まるで星座を操る女神のように、星々を操作しながら言葉を続ける。

「そこで私と科学局のスタッフは、原因と考えられるものを、少々飛躍したものも含めてもう一度全部並べ、否定されるべき理由の方から洗い出していったの。そして最終的に残ったのが、惑星カーティムルの近くで次元変動が発生して、それに巻き込まれたんじゃないかって、仮説だったのよ」

 そこまで話して一拍置くノアに、ネイミアは引き攣り笑いを向けた。

「えへへ…あたしもう、頭が爆発しそうです」

 一方でノヴァルナは、自分が感じた疑問を口にする。

「その次元変動を起こしたのが、『超空間ネゲントロピーコイル』だってのか?…でもそんなもんが、この辺にあんのはおかしくね?」

「そう言うと思った。あるじゃない」

 ノアはそう応じて宇宙図ホログラムの一部を指で摘まみ、引っ張る仕草をした。すると宇宙図の縮尺が大きくなっていき、ミノネリラ宙域全体から、やがてはシグシーマ銀河系のおよそ半分までが映し出されるまでになる。そしてノアがある一点に指を触れると、今度はその箇所だけが拡大された。

「…って、コイツは、ムツルー宙域にある、例の『超空間ネゲントロピーコイル』じゃねーか!?」

 ムツルー宙域の『超空間ネゲントロピーコイル』とは、ノヴァルナとノアが飛ばされた先にあったものだ。この存在に気付いたおかげで、二人は元の世界に帰る事が出来たのである。

「そうよ」

「“そうよ”じゃねーよ。いくらなんでも、遠すぎるだろーが」

 ムツルー宙域の『超空間ネゲントロピーコイル』は、ここから約五万光年も離れている。それがカーティムルの大災害とどんな関係があるのか、見当もつかないノヴァルナは困惑気味に言った。それに対してノアは苦笑いし、からかうような口調で告げる。

「やーね。あなたにしては、察しが悪いんだから。ほら、これ見て」
 
 ノアがさらに指先で宇宙図を操作すると、シグシーマ銀河系の中心部から、このミノネリラ宙域の『ナグァルラワン暗黒星団域』を貫き、ムツルー宙域内で固定されている『超空間ネゲントロピーコイル』の中心部、銀河標準座標76093345Nのブラックホールまで達する、真っ直ぐなラインが黄色く引かれた。

「これ、なんだか分かるでしょ?」

「おう。トランスリープチューブじゃん」

 トランスリープチューブ―――“ビッグ・バン”以前の、時間も距離も存在しなかった頃の宇宙の残滓、熱力学的非エントロピーフィールドが、トンネル状に長く伸びたもの。
 皇国暦1555年にノヴァルナとノアは、『ナグァルラワン暗黒星団域』を貫くこのトランスリープチューブ上にあったブラックホールの“事象の地平”で、脱出のためDFドライヴを暴走させた結果、1589年のムツルー宙域へ瞬間的に移動したのである。

「じゃあ次は…これを見て」

 そう言ってノアは、宇宙図ホログラムのミノネリラ宙域の一部に、親指と人差し指を触れさせて、その指を開く事で拡大した。これを見てノヴァルナはようやく、妻が言っている事が飲み込め始める。

「こいつは…ウモルヴェ星系か?」

 ノヴァルナが問い質したのは、拡大されたミノネリラ宙域内を横断するトランスリープチューブが、一つの恒星系の半分ほどを掠めて行っている箇所だ。

「そう。そしてこれは、去年の六月一日の状態。ここから時間を早送りで進めるから、見てて」

 ウモルヴェ星系のホログラムの上に、1561.06.01.00:00の時間表示が出現し、それが進み始めると同時に、各惑星が主恒星を中心に回りだした。すると時間表示が1561.7.13.08:43となった時から、第四惑星…つまり惑星カーティムルがトランスリープチューブに接触。その中を進むようになってしばらくすると、ホログラムは動作を停止した。ノアは時間表示を読み上げ、ノヴァルナ、ラン、ネイミアを見渡して告げる。

「銀河標準時1561年7月25日、21時16分…惑星カーティムルの火山が、一斉に噴火した時間よ」

「!!」

 トランスリープチューブそのものは、時空の位相が違うため視認する事は出来ないが、それを取り巻く次元に歪みを生じさせている。惑星カーティムルはトランスリープチューブが発生させている、その次元の歪みの中へ入り込んだため、惑星内部のコアとマントルに異常をきたしたのであった。




▶#10につづく
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

獅子の末裔

卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。 和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。 前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...