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第4話:ミノネリラ騒乱
#09
しおりを挟むノアは当然、悪ふざけなどで『超空間ネゲントロピーコイル』の名を出したのではない。その証拠にというわけでは無いが、四人が集まるテーブル上にデータパッドを置き、宇宙図のホログラムを展開して説明を始めた。
「カーティムル自体に、あんな規模の天変地異が起きる要素は無かったのは、これまでにも科学局が分析して報告して来た通りよ―――」
ノアは四人の真ん中に浮かび上がった宇宙図に、細い指先を触れさせ、まるで星座を操る女神のように、星々を操作しながら言葉を続ける。
「そこで私と科学局のスタッフは、原因と考えられるものを、少々飛躍したものも含めてもう一度全部並べ、否定されるべき理由の方から洗い出していったの。そして最終的に残ったのが、惑星カーティムルの近くで次元変動が発生して、それに巻き込まれたんじゃないかって、仮説だったのよ」
そこまで話して一拍置くノアに、ネイミアは引き攣り笑いを向けた。
「えへへ…あたしもう、頭が爆発しそうです」
一方でノヴァルナは、自分が感じた疑問を口にする。
「その次元変動を起こしたのが、『超空間ネゲントロピーコイル』だってのか?…でもそんなもんが、この辺にあんのはおかしくね?」
「そう言うと思った。あるじゃない」
ノアはそう応じて宇宙図ホログラムの一部を指で摘まみ、引っ張る仕草をした。すると宇宙図の縮尺が大きくなっていき、ミノネリラ宙域全体から、やがてはシグシーマ銀河系のおよそ半分までが映し出されるまでになる。そしてノアがある一点に指を触れると、今度はその箇所だけが拡大された。
「…って、コイツは、ムツルー宙域にある、例の『超空間ネゲントロピーコイル』じゃねーか!?」
ムツルー宙域の『超空間ネゲントロピーコイル』とは、ノヴァルナとノアが飛ばされた先にあったものだ。この存在に気付いたおかげで、二人は元の世界に帰る事が出来たのである。
「そうよ」
「“そうよ”じゃねーよ。いくらなんでも、遠すぎるだろーが」
ムツルー宙域の『超空間ネゲントロピーコイル』は、ここから約五万光年も離れている。それがカーティムルの大災害とどんな関係があるのか、見当もつかないノヴァルナは困惑気味に言った。それに対してノアは苦笑いし、からかうような口調で告げる。
「やーね。あなたにしては、察しが悪いんだから。ほら、これ見て」
ノアがさらに指先で宇宙図を操作すると、シグシーマ銀河系の中心部から、このミノネリラ宙域の『ナグァルラワン暗黒星団域』を貫き、ムツルー宙域内で固定されている『超空間ネゲントロピーコイル』の中心部、銀河標準座標76093345Nのブラックホールまで達する、真っ直ぐなラインが黄色く引かれた。
「これ、なんだか分かるでしょ?」
「おう。トランスリープチューブじゃん」
トランスリープチューブ―――“ビッグ・バン”以前の、時間も距離も存在しなかった頃の宇宙の残滓、熱力学的非エントロピーフィールドが、トンネル状に長く伸びたもの。
皇国暦1555年にノヴァルナとノアは、『ナグァルラワン暗黒星団域』を貫くこのトランスリープチューブ上にあったブラックホールの“事象の地平”で、脱出のためDFドライヴを暴走させた結果、1589年のムツルー宙域へ瞬間的に移動したのである。
「じゃあ次は…これを見て」
そう言ってノアは、宇宙図ホログラムのミノネリラ宙域の一部に、親指と人差し指を触れさせて、その指を開く事で拡大した。これを見てノヴァルナはようやく、妻が言っている事が飲み込め始める。
「こいつは…ウモルヴェ星系か?」
ノヴァルナが問い質したのは、拡大されたミノネリラ宙域内を横断するトランスリープチューブが、一つの恒星系の半分ほどを掠めて行っている箇所だ。
「そう。そしてこれは、去年の六月一日の状態。ここから時間を早送りで進めるから、見てて」
ウモルヴェ星系のホログラムの上に、1561.06.01.00:00の時間表示が出現し、それが進み始めると同時に、各惑星が主恒星を中心に回りだした。すると時間表示が1561.7.13.08:43となった時から、第四惑星…つまり惑星カーティムルがトランスリープチューブに接触。その中を進むようになってしばらくすると、ホログラムは動作を停止した。ノアは時間表示を読み上げ、ノヴァルナ、ラン、ネイミアを見渡して告げる。
「銀河標準時1561年7月25日、21時16分…惑星カーティムルの火山が、一斉に噴火した時間よ」
「!!」
トランスリープチューブそのものは、時空の位相が違うため視認する事は出来ないが、それを取り巻く次元に歪みを生じさせている。惑星カーティムルはトランスリープチューブが発生させている、その次元の歪みの中へ入り込んだため、惑星内部のコアとマントルに異常をきたしたのであった。
▶#10につづく
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