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第4話:ミノネリラ騒乱
#25
しおりを挟むノヴァルナがイースキーの家中で起こった異変の情報を得たのは、フェアンにナギとの結婚の話を付け、彼女を連れてキオ・スーの海岸線をバイクツーリングした帰りの事であった。
副官のランからの通信を受け、ノヴァルナは夜に予定していた会議の議題に、この異変への対応策を加えた。異変とは無論、イースキー家の政治の実権を握っていた、側近のビーダ=ザイードとラクシャス=ハルマの二人が、デュバル・ハーヴェン=ティカナックによって誅殺されたという事件に他ならない。
ウォーダ家にとっては敵国であって、詳しい情報は入っては来ないが、さすがにこの緊急事態に際し、当主のオルグターツが担ぎ出されているようだ。
ノヴァルナより先に帰って来ていた、筆頭家老のシウテ・サッド=リンをはじめとして、ラゴンにいる重臣達は、この異変を受け、“すわ、バサラナルム攻略の好機到来か!”と勇み立ったが、会議場で発したノヴァルナの言葉は、積極性が持ち味のノヴァルナとは思えない、慎重なものだった。
「ん?…やんねーよ」
この機に瀬部手の戦力を投入し、一気にバサラナルムを陥とされますか、と尋ねる、カッツ・ゴーンロッグ=シルバータの問いへの、これがノヴァルナの返答である。呆気に取られたシルバータは思わず、ノヴァルナの口調と合わせそうになって尋ね直す。
「やんねーのでござ…いえいえ、行われないのでございますか?」
シルバータの言い損ないに、「アッハッハ…」と笑い声を上げたノヴァルナは、自分を中心に扇状に並んだ席に座る重臣達を見渡して、考えを開陳した。
「おうよ。今ここで俺達が攻勢に出たりすっと、せっかくバラバラになったイースキーの家中が、一つに纏まっちまうかんな」
「………」
無言で耳を傾ける重臣達に“あれっ?”と、いつにない違和感を感じるノヴァルナ。そしてすぐにその理由に気付いた。トゥ・キーツ=キノッサとナルガヒルデ=ニーワスがいないからだ。
あの二人が会議に居れば、ノヴァルナの発言に対して、「と申されますと?」とか「それはどういう事にございます?」と、いいタイミングで合いの手的な問い掛けを入れ、潤滑剤的にノヴァルナの次の言葉を促していたのである。そのキノッサには例のジローザ=オルサーの件で謹慎を喰らわせており、ナルガヒルデは引き続きミノネリラ宙域で行動中のため、この場には居なかった。
変に空いた間を軽い咳払いで埋め、ノヴァルナは言葉を続ける。
「ザイードとハルマとかいう二人は、いい意味でも悪い意味でも、イースキー家を取りまとめていた…まぁ、話によると悪い意味が九十パーらしいがな。だがどんな人間であれ、そいつらが死んだとなると、そいつらを中心に据えていた連中はどのみち空中分解さ。オルグターツの野郎も、ろくなもんじゃねーからな」
そこからさらに言葉を続けた、ノヴァルナの考えはこうである。
もしこの状態で自分達ウォーダ軍が攻め込んだ場合、確かに一気にバサラナルムを攻略出来る可能性もある一方、非常にリスキーな可能性も出て来る。
そのリスキーな可能性というのが、ウォーダ軍の全面攻勢に対し、“ミノネリラ三連星”らベテラン武将達を中心にイースキー軍が再編され、一つに纏まった形で迎撃を受ける、というものだ。
ビーダとラクシャスが政治の実権を握っていた頃は、自分の子飼いで実戦経験に乏しい艦隊司令官ばかりを軍の中心に置き、ベテラン武将達は遠ざけられていた。これが全体の戦局を俯瞰した場合、ウォーダ軍に有利に働いていたのは言うまでもない。
ところが個々の戦闘を見てみると、ウォーダ軍はイースキー軍のベテラン武将達相手に、必ずしも勝っていないのである。そのようなベテラン武将達がイースキー軍の中心に復帰する機会を与えてまで、慌てて進攻する必要は無い。
そして例の、領域境界付近に集結している、ロッガ家の部隊である。ノヴァルナの妹フェアンと、ロッガ家に敵対するアーザイル家のナギとの結婚を決めたとはいえ、今はまだ何も実効力がない状態で、とても牽制を頼める筋合いでは無い。
「…てなわけで結論。当面はバサラナルム攻略はやんねー。フーマやナルガの離間工作は続けさせるがな―――」
不敵な笑みで付け加えるノヴァルナ。
「―――ま、オルグターツの野郎を、表舞台に引っ張り出したところで、今更どうにもなんねーだろうけどよ」
そう言っておいてノヴァルナはここで、昼間にフェアンがナギ・マーサス=アーザイルとの結婚を承諾した事を打ち明ける。
「さてここで、皆さんにお知らせがあります」
いつもの突拍子もない事を告げる言葉に、重臣達は“うっ!…”という、強張った表情になる。
「ぼくの妹のフェアンがアーザイル家のナギくんと、結婚する事になりました!」
わざと小学生っぽい言葉遣いで、あっけらかんと言い放ったノヴァルナに、重臣達はいつもの如く「えええええええ!?」と一斉に声を上げた………
▶#26につづく
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