銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第5話:ミノネリラ征服

#07

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「ザラヌラの奴…思った以上に、てこずっておるようだな」

 コーガ五十三家旗艦『ビエザス・イジャ』の艦橋で、先行BSI部隊の戦闘状況を見詰めていた司令官のイディモス=モディガンは、先行隊指揮官のザラヌラが、突出して来たウォーダ家のBSHOと戦闘を始めた事に、僅かな渋面を作る。

「あの機体、最近トゥ・シェイ=マーディン殿が拝領された、『テンライGT』であるようです」

 BSI部隊による機動戦を受け持つ機動戦参謀が、ザラヌラの相手が誰であるかを告げると、イディモスは「ふむ…」と興味が湧いた眼をした。イディモス自身もBSIパイロットであり、専用BSHO『ザンゲツMI』を所有しているだけに、マーディンの新型BSHOと聞いて、沸き立つものがあったのだろう。

「マーディン殿か…しかも良い部下を、揃えていると見える」

 マーディンとザラヌラの戦闘以外の部分でも、イディモスはウォーダ軍パイロットの戦いぶりに、賛辞を送った。事実、コーガ衆の戦い方に翻弄されて、劈頭で三機を失ったものの、それ以降はウォーダ軍BSI部隊も動きに連携感を出し始め、撃破されなくなって来ていた。機数はコーガ衆の方が多いのであり、実質的に押されていると言っていい。

「ザラヌラ様に、増援を送りますか?」

 問い掛ける参謀にイディモスは首を左右に振った。

「構わない。あれはあれでマーディン殿の部隊の、足止めが出来ている。ザラヌラ隊には、現在の戦闘を継続するように伝え、予定通り本隊を発艦させよ。私も『ザンゲツ』で出る」

「モディガン様も出られるのですか?」

 参謀の口調から当初の予定では、イディモスの出撃は無い筈であった事が窺い知れる。イディモスは司令官席を立ちながら答えた。

「うむ。マーディン殿が単機であれほど突出しているとなると、やはりあの艦隊にはノヴァルナ公ご自身が後詰めでおられる可能性が高い。備えるに越した事は無いだろう」

 そしてコーガ艦隊の六隻の空母から、BSIを中心とした機動部隊本隊が発艦する。イディモス=モディガンの『ザンゲツMI』、“五十三家”の親衛隊仕様『ミツルギCCC』が十機。あとは彼等の指揮下となる一般兵の量産型『ミツルギ』が三十二機、ロッガ家オリジナルASGULの『ゼグロン』が四十二機、宇宙攻撃艇の『マシエフ』が六十機の、合計百四十五機。かなりの数にのぼる。親衛隊仕様機で固めたザラヌラの先行隊が、ウォーダ側の迎撃部隊を突破し、本隊の数で“イチ姫輿入れ艦隊”を制圧するのが、彼等の本来の計画であった。

 しかし迎撃に出て来たマーディンの『トルーパーズ』が、必死の粘りを見せて踏みとどまり、ザラヌラの先行隊を拘束してしまっている。さらにマーディンの狙いは、後方から“五十三家”の連携を指揮していると思われる反応の違う機体、ザラヌラのBSHO『バンフウOZ』を直接叩き、敵部隊の相互支援能力を低下させる事だ。

 だがザラヌラ=ミーヴェ。まだどこか少女のような線の細さがあるミーヴェ家の戦士は、むしろ強い敵と相対した事への喜びに、眼を輝かせている。

「あははははは!」

 操縦桿を素早く引き、マーディンの『テンライGT』が繰り出す、ポジトロンランスの連続突きを、笑い声を上げながら回避するザラヌラ。『バンフウOZ』の動きはまるで風に舞う羽毛のようで、突き出される鑓の穂先をひらり、ひらりと躱してゆく。

「いいねぇ、おにいさん! いい突きだよぉ!」

 そう言って瞬時に『テンライGT』の懐へ飛び込む『バンフウOZ』は、腰の後ろ側に水平に差した二本のクアンタムブレードを起動。左右の手に逆手に握って鞘から引き抜いた。両方とも通常のQブレードよりは短めで、接近戦用と思われる。右、左と桁違いの超高速で放たれる斬撃。

「しゃしゃッ!!」

「!!」

 斬撃の擬音を声で言い放つザラヌラ。マーディンは『テンライGT』を咄嗟に横滑りさせ、斬撃を脇へと逸らす。それでも躱しきれない切っ先が、機体表面を浅く切り裂いた。

「あれっ!?」

 ザラヌラにはマーディンの『テンライGT』へ放った、斬撃の手応えが浅かったのが意外だったようで、不意を突かれた声を上げる。そこへ間合いが開いた事で、すれ違いざまの『テンライGT』からポジトロンランスが振り抜かれる。ところが『バンフウOZ』は、ノールックで右脚のヒールキックを背後に放ち、鑓の刃の根元を蹴り上げた。

「なにっ!」

 トリッキーな『バンフウOZ』の動きに驚くマーディンだったが、さらに距離が開いたため、即座に超電磁ライフルを構えて一連射を浴びせる。これに対する『バンフウOZ』は、機体をスクロールさせながら、近くに浮かぶ星間ガスの塊の中へ飛び込んだ。これを見てマーディンもすぐに『テンライGT』に急加速をかける。案の定、雲の塊の中から『バンフウOZ』の銃弾が飛来して、『テンライGT』が寸前までいた位置を通過していった。

「ち…面倒な!」

 小賢しい動きを見せる『バンフウOZ』に舌打ちするマーディン。対照的にザラヌラは愉悦の笑い声を上げる。

「あははははは!」
  
 星間ガス内部の敵の位置を測定するセンサー解析は、かなり精度が落ちる。ザラヌラの笑い声が止まったその直後、マーディンの『テンライGT』の、背後側の雲海を突き抜けて、『バンフウOZ』が猛然と突進して来た。マーディンは機体を振り向かせるより先に、瞬時にライフルの銃口を向けてトリガーを引く。

 ところがやはり当たらない。至近距離に迫っても二発、三発、四発と撃ち出された銃弾は、素早く揺れる『バンフウOZ』を上下左右に掠めるだけだ。

「これは!?」

 なぜ当たらない!?…という、続きの言葉を飲み込んで、ポジトロンランスを振り抜くマーディン。穂先での斬撃ではなく、相手の動きを止める事を優先した、太い柄による打撃狙いだ。だが笑顔を見せるザラヌラ。

「あははははは! それ、シャアアアーーッ!!」

 ザラヌラは擬音とともに、逆手に握った二刀流のブレードで、『テンライGT』の打撃を受け流すと、機体を擦り合わせるほどの間合いまで距離を詰め、コクピットのある腹部を掻き切ろうとする。

「はいっ!」

 朗らかな声でブレードを煌かせるザラヌラ。

“ここで退けばやられる!”

 刹那の判断をしたマーディンの手が、操縦桿を前へ操作した。バックパックから黄色い光のリングを放ち、加速前進する『テンライGT』に斬撃位置が変わって、『バンフウOZ』の刃は腹部のコクピットではなく、腰部を防護するアーマーを切り裂くにとどまる。ただ『バンフウOZ』は二刀流である。攻撃的な笑みを浮かべたまま、ザラヌラがもう一方の刃を振るう。

 しかしその斬撃は、ガチリ!という感触と共に阻止された。マーディンが瞬時に腰の鞘から途中まで抜き出した、『テンライGT』のクァンタムブレードに防がれたのだ。そのままの姿勢で『バンフウOZ』に体当たりを喰らわせ、開いた間合いに刀身を完全に鞘から抜いた、『テンライGT』が反撃の一閃を放つ。

 それでもやはり『バンフウOZ』は速い。「あははははは!」と笑い声を上げてザラヌラは、『テンライGT』のブレードを弾き返して距離を置くと、さらに繰り出されて来たポジトロンランスの鋭い突きに対し、宇宙空間でバック転を行って回避。しかもその機動の中で二刀流のブレードを鞘に戻し、超電磁ライフルを掴んで回転を終えると同時に射撃した。だがその銃弾は、身構える『テンライGT』が眼前にかざした鑓の刃に弾かれて、あらぬ方角へ飛んでいく。

 これを見て「かーーーっこいい!」と声を上げたのは、仕掛けた方のザラヌラである。そして個人戦闘で強敵と出逢うと、戦闘狂の面が出て来るこの若手女性武将は、舌なめずりをして言葉を続けた。

「こんなにカッコイイと、ぜったい殺したいよね…」




▶#08につづく
 
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