銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第5話:ミノネリラ征服

#22

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 約三時間後、イースキー軍艦隊は多大な損害を出して撤退。バサラナルム方向へ引き上げた。
 これに対しノヴァルナは急いで追撃する事なく、降伏したイースキー軍宇宙艦の中で、損傷の酷い艦からの乗員の救助作業を行うよう、まず全艦に命じる。潰走した敵の残存部隊はそれなりに数はあったが、組織だっての撤退ではなく、個々の艦がてんでばらばらに逃走したところから、第二防衛線を引いたところで、それはもはや烏合の衆に等しいに違いないと、ノヴァルナが判断したからだ。

 損傷したイースキー軍の軽巡航艦が曳航されていく光景を、ホログラムスクリーンで眺めるノヴァルナに、現場で収容作業の指揮を執っているカッツ・ゴーンロッグ=シルバータが報告を入れる。シルバータは等身大ホログラムによって、ノヴァルナの傍らに実際に立っているように見えていた。

「…降伏したイースキー軍の宇宙艦は、八十二隻にも及んでおります。そのうち、大規模な乗員の救助が必要なものは三十五隻。これらに関しましては、すでに救助作業に入っております」

「おう。数が多いからな。トリアージは実施してるだろうな?」

 主君の問いに「は…」と頷くシルバータ。ノヴァルナはその表情から、シルバータが何か、不満を抱えているのを見抜く。

「なんだ、ゴーンロッグ。面白くなさそうじゃねーか?」

「いえ…」

「いいから、言ってみ?」

 ノヴァルナに促されたシルバータは渋々、胸の内を吐露した。

「降伏した艦の中には、外殻に傷一つ付いていないものも、相当な数がおります。つまりろくに戦う気も無く、自分達が不利になったと見るや降伏…果たしてそのような者達に、武人の矜持というものが備わっているのか…と」

「別にいいんじゃね?」

「は?」

「戦わずに済むなら、それに越したこたぁねーだろ?」

「それはそうでありますが…」

 無論、ノヴァルナにもシルバータの心情は理解できる。ウォーダ家にとってミノネリラの軍勢は、ノヴァルナとノアが婚約を果たした、ドゥ・ザン=サイドゥの後年を除き、長年にわたる宿敵であった。実直な武人のシルバータからすれば、その宿敵がろくに戦いもせずに降伏するのを、認めたくないのだろう。しかしこれが今の、イースキー軍の実態であった。
 降伏した艦の指揮官や、それを纏める前線指揮官も決して無能ではないはずで、時と場所、そして使命感と士気によっては、持ち合わせた本来の能力を発揮するに違いない。要はやはりイースキー家の腐敗が元凶なのだ。
 
 防衛線の崩壊は、元来低かったイースキー軍の士気をさらに低下させた。首都惑星バサラナルム周辺には、他の植民星系から呼び寄せたものを含め、星系防衛艦隊が六個配置されていたのだが、トモスの防衛線がウォーダ軍に破られ、残存艦隊が撤退を開始したのを知ると、完全に浮足立ってしまったのだ。

 そしてそこへ出現したのが、ウォーダ軍の別動隊である。ノヴァルナの本隊をバサラナルム正面と見て、その右側面を突く形で第6・第10艦隊が、背後を突く形で第2・第5艦隊が、ほぼ同時にバサラナルムへ接近して来た。
 驚いたイースキー軍総司令部は急遽、第三惑星であるバサラナルムと、第四惑星アクスナルムの公転軌道の中間で、これを迎え撃つ事を決定。六個の星系防衛艦隊を三個ずつに分け、それぞれに二方向から襲来するウォーダ軍別動隊に、対処するよう命じる。

 ところがすでに述べた通り、星系防衛艦隊の将兵は動揺しきっていた。戦闘が開始されると、ノヴァルナが戦った時と同じように、僅かな損害を受けただけで勝手に降伏を申し出たり、逃走を図ったりする宇宙艦が続出し始めたのである。

 するとここで思わぬ弊害が発生した。一度の多くの敵艦が降伏を申し入れてきたため、武装解除と事務処理に手間と時間を割かれる事となったのだ。その結果、戦意を維持している中核部隊にまで、バサラナルムへの後退を許してしまい、決定的打撃を与えられないという事態を招いた。

 ただこの報告を、第2艦隊司令で自分のクローン猶子である、ヴァルターダから聞いたノヴァルナは怒り出す事は無く、むしろ苦笑いで応じた。

「…そうか。まぁ気にすんな。俺もおまえと、同じような事をしてたからな。それに逆に考えりゃ、俺達とやり合う気のある奴等が纏まってくれた方が、分かり易くていいってもんさ」

「はい」

「たぶん連中は、バサラナルムで最終防衛線を組むはずだ。次も頼むぜ」

「御意」

 ヴァルターダが生真面目な口調で応じると、ノヴァルナは肩をすくめて、通信を終えるついでに軽口を放つ。

「てめぇのとーちゃんに、“御意”はやめろ。じゃあな」

 ヴァルターダとの通信回線が切れると、ノヴァルナは珍しくニヤついた笑顔を浮かべて、腕組みをした。傍らにランと共に控えているヴァルミスが、笑顔の意味を尋ねる。

「何か興味深い事がお有りですか?」

「いやな。もし敵の司令官が例のハーヴェンとかだったら、戦意の無い連中を降伏させて何らかの罠に陥れる、遅滞作戦に嵌められたんじゃねーかと、疑ってたかもしんねーと思ってな」




▶#23につづく
 
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