銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第6話:皇国再興への道

#01

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皇国暦1563年1月13日―――

 イナヴァーザン城あらため、ギーフィー城にいるノヴァルナ・ダン=ウォーダはこれ以上ないほど、暗鬱な気持ちに包まれていた。三日前のミョルジ家と『アクレイド傭兵団』による皇都襲撃によって、星帥皇テルーザ・シスラウェラ=アスルーガが、戦死したという情報が届いたからである。

 無論、テルーザ戦死の衝撃を受けたのはノヴァルナだけではない。銀河皇国を統べる者―――ニューロ・ネットラインの統括者を失った影響は、全ての宙域の星大名に大打撃を与えるものだ。
 皇国民一人一人と繋がるNNLシステムは、個人に対する政策告知、各行政サービス、教育・納税・医療・金融経済などを相互管理するために欠かせない、社会インフラであり、銀河皇国が銀河皇国たる所以とさえ言える。その中枢たる星帥皇を失う事は、最悪の場合NNLシステムそのものが麻痺し、星大名による宙域統治の完全停止だけでなく、社会形態が数百年も後退する恐れもあり得るのだ。

 現在は星帥皇の一時不在時などに、上級貴族の合議によって稼働する、“特例代行モード”によって、行政中心に必要最低限のシステムが維持できているが、星帥皇からのリンク無しでは、一ヵ月ももたないと思われる。

 この情報に接したノヴァルナは即座に、キヨウ襲撃と現在のミョルジ家の動向について、さらなる情報収集を命じたが、情報収集の手段そのものが、NNLに頼る部分が多いため、詳細な情報の入手は困難となっている。

 だがそれとは別にして、テルーザはノヴァルナにとって友人であった。キヨウを訪れた際、直接会ってその為人ひととなりを知り、銀河に秩序と安寧を取り戻したいという、テルーザの誠実な願いに心を動かされたからこそ、皇都キヨウを目指す軍を立ち上げようと決心したのだ。そのテルーザを失うという事は、ノヴァルナの目指すものが、根底から崩れたという事を意味する。

“あのテルーザが…”

 見た目は至っていつも通りを装いながら、データパッドが映し出した、NNLシステムが停止した場合に、金融関係が受けるダメージ試算報告に眼を遣るノヴァルナは、この日何回目かの同じ言葉を胸の内で呟いた。

 BSHO『ライオウXX』を操るテルーザは、ノヴァルナが“トランサー”を発動しても、全く歯が立たない天才的パイロットであった。しかもテルーザの方は、“トランサー”を発動させずに…である。暗殺などではなく“戦死”と伝わった以上、『ライオウXX』を操縦して討ち死にしたはずで、まずもってノヴァルナには、それが信じられなかった。
 ただノヴァルナは同時に、キヨウ訪問の際に会ったテルーザの師であり、伝説のBSIパイロットと呼ばれるヴォクスデン=トゥ・カラーバの言葉を、思い出さずにはいられない。

テルーザ陛下は強くなられ過ぎた―――

 個としての強さを追及しても、多数の敵と無限に戦い続ける事は、現実的に不可能である。それを知ってなお戦場へと歩を進めるのは、突き詰めると誇りある死を得んがためだ。だがそれは実のところ、銀河を統べる者が選んでいい結末ではないのだ。足掻いて、逃げて、生き延びて、存在し続ける道を求めるべきなのである。

 そう考えたノヴァルナだったが、軽く頭を振って自ら否定した。

“いや…そんな事はテルーザも分かってたはずだ。それが出来ないほどの状況だったに違いねぇ………”

 データパッドを執務机の上に放り出したノヴァルナは、椅子の背もたれに上体を深く預けると、天井を見上げた。さすがに今度ばかりは手詰まり感が漂う。まさかミョルジ家が、絶対不可侵のはずの星帥皇の命まで奪うとは思わなかった。テルーザが死去した場合の次善策など、まったく想定していない。さすがのノヴァルナであっても、何をどうすればいいか判断もつかない。

“しかしなんでこのタイミングなんだ…? 生かしておく必要が無いのであれば、七年も傀儡として庇護下に置いておいて、いまになって殺した理由は?”

 沸き立つ疑念に、考える眼になったノヴァルナは、声に出して呟いた。

「七年待った理由が、何かあるって事か…?」

 だがそれを探るには、キヨウからの情報が少なすぎる。それに今は、皇国からのNNL統制が最低レベルの中で、新たな支配地となったミノネリラ宙域の行政システムを、立て直している最中であって、対外的な行動は控えるべき時だ。

 そこへ執務室の扉がノックされ、「ナルガヒルデ=ニーワスであります」と声がする。ノヴァルナの「入れ」という言葉に応じ、懐刀と呼ばれる赤髪の女性武将が入って来た。執務机の前まで進んだナルガヒルデは、また別の、新たなデータパッドをノヴァルナに差し出して告げる。

「失礼致します…NNLシステムのレベル低下に関する、領民生活が受けている影響の主だったものを纏めましたので、お眼をお通し下さい」

「いいけど…なんでまた、別のデータパッドなんだ?」

「は。NNLシステムの、セキュリティレベルも落ちておりますので、国家・軍事機密レベルの情報以外は漏洩の可能性が高く、セキュリティレベルが中級程度の情報に関しては、NNLシステムで伝達するのを控える必要がございます」

「え? そうなのかよ」

 このような身近な箇所にも出て来ているNNLシステムの低下に、ノヴァルナは困惑気味に眉をひそめた。二枚目のデータパッド…些細な事であるが、これがNNLシステムのレベルが低下した、端的な証左であった。
 ノヴァルナはその二枚目のデータパッドを手に取り、画面に映された報告の内容を読む。そこには領民の一般生活に出る影響…例えば普段なら出来ていた、居間でソファーに寝ころびながら、NNL端末からホログラムスクリーンを呼び出し、その場で恒星間の転出入届けを行ったり、他星系の友人とのメールのやり取りをしたりする事までが、出来なくなっている…などが列記されていた。
 これも些細と言えば些細な話ではある。しかしこれらが出来ないという事は、大昔のように転入出届けを出すために、わざわざ居住地区の役所まで足を運んで直接手続きを行ったり、他の植民星系にいる友人とのメールのやり取りなど、半永久的に不可能になったりと、当たり前であった事が出来なくなり、ヤヴァルト銀河皇国の超高度な情報化社会が、根幹から瓦解してしまう危機なのだ。

 主君が眼を通し終わったのを見計らって、ナルガヒルデは補足説明した。

「宙域内でのシステムの修復は、ある程度まででしたら我々でも可能ですが、懸案であるオ・ワーリ宙域とミノネリラ宙域間の、関税撤廃などの高度な業務処理は、星帥皇室の認可が必要となりますので、停止したままとなります」

「わかった…やれやれだな。とりあえずウチで出来る事は、全部やってくれ」

「御意」

 頭を下げ退出しようとするナルガヒルデ。するとその指先が、扉の開閉パネルにかざされる直前、外から新たなノックの音が響く。続いてキノッサの声。

「トゥ・キーツ=キノッサにございます。ノヴァルナ様に、至急お知らせしたき事がございまして、参上致しました!」

 至急知らせたい事と聞いて、振り返ったナルガヒルデにノヴァルナは頷いた。ナルガヒルデが扉を開いてやると、突然の事で驚いたキノッサの顔がある。

「こ、これはニーワス様」

「さ、どうぞ。それから、貴殿は私と同格となったのですから、“様”付けは必要ありません」

「そんな滅相も無い!…と、ともかく、失礼致します」

 腰を低くして、手刀を切りながらナルガヒルデの脇を抜け、入室したキノッサはノヴァルナの前に進み出る。先に口を開いたのはノヴァルナだ。

「てめーも、データパッドじゃねーだろな?」

「は?…なんの話でございますか?」

 きょとんとしてキノッサは、執務机の上に無造作に置かれた、二枚のデータパッドに視線を落した。どうやらそうではないらしい。先を促すノヴァルナ。

「いや、いい。そんで、急ぎの知らせってなんだ?」

「はっ!! それがミョルジ家より通達があり…新しい星帥皇が擁立されました!」




▶#02につづく
 
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