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第6話:皇国再興への道
#04
しおりを挟むそして一週間後の1月20日。エルヴィスが宣した通り、NNLシステムは再稼働した。個人から国家まであらゆるネットワークが回復し、超高度情報社会としての銀河皇国はここに復活したのである。
だがその一方で、ミョルジ家からも新たな発表があった。NNLシステムの運用と、各主要星系を結ぶ超空間ゲート網の中枢管制を、これまでの上級貴族院ではなく、星帥皇エルヴィスを総長に据えて新設された、『皇国中央評議会』が行うというものである。
各宙域行政機関とそれを統治する星大名は、NNLと超空間ゲートの使用に関して評議会に代表を送り、その管理下に入らねばならないという内容だ。しかももしこれを拒絶すれば、NNLシステムは再び最低レベルまで下がり、超空間ゲートの使用も不可となるという罰則付きだった。
この発表を受け、ウォーダ家でもすぐに緊急会議が開かれた。だがそれは解決策という出口の見えない会議であった。ドン!…と机を叩いて、怒声に近い声を発するのは、もちろんカッツ・ゴーンロッグ=シルバータである。ホログラムスクリーンに映し出された、皇国中央評議会の議員紹介を指差す。
「評議会などと言うが、その実、議員の顔ぶれはミョルジ家の者ばかりではないか! テルーザ陛下のお命を不当に奪っておいて、そのような輩に従えなどと、到底受け入れるわけにはいかんだろう!」
ギーフィー城の議事堂中央に座るノヴァルナは、こういう時のゴーンロッグはいいな…と思う。
ノヴァルナもこのような会議で、抜本的な解決策が見出せるとは考えていない。それでも自分はウォーダ家を支えている一人なのだ、という自負を持つ重臣達には、今の状況に対する不平不満を声にして交わせる場が必要であり、その場を用意してやるのも、領主としての器量だと思っている。そしてその場で、遠慮なく言葉を発するシルバータの存在は評価できる。こういった議題はともすれば全員、腕を組んで黙りこくるだけの会議になって、単なる時間の無駄で終わってしまうからだ。
「しかし、新星帥皇を名乗るエルヴィスという人物が、NNLシステムの完全復旧を行ったのは事実であり、そのエルヴィスが『皇国中央評議会』の長となっている以上、表立って叛旗を翻す事はできません」
そう言ってシルバータを制するのはナルガヒルデ=ニーワス。これもノヴァルナには頼もしい懐刀だった。シルバータが“動”なら、ナルガヒルデは“静”の印象である。それでいて仲が悪いわけではなく、むしろ互いに対論を出す事で認め合っている感じだった。
その後、筆頭家老のシウテ・サッド=リンや次席家老のショウス=ナイドル。それにルヴィーロ・オスミ=ウォーダなど、幾人かの重臣が意見を交わすのを待ち、ノヴァルナはイースキー家…否、ドゥ・ザン=サイドゥの旧臣達にも声を掛けた。
「“ミノネリラ三連星”や、サートゥルスの意見はどうか?―――」
つい最近まで敵であった彼等であるから、ここまで発言を遠慮していたわけであるが、ノヴァルナの方から水を向けられた形だ。
「―――“マムシのドゥ・ザン”の麾下で、数々の戦略に触れて来た其方達だ。ウォーダ家古参の者達とは違う見識もあるだろう。聞かせてくれ」
そう言われてドゥ・ザンの旧臣達は互いに目配せを行い、やがて“ミノネリラ三連星”の一人、リーンテーツ=イナルヴァが席を立って口を開いた。
「まずはノヴァルナ殿下には、発言をお許しいただ―――」
するとノヴァルナは右手を軽く挙げ、ぶっきらぼうに言う。
「ああ、ウチじゃそういうの、要らねーから」
「は。失礼致しました。まずはじめに言われた、シルバータ殿とニーワス殿のご発言は、いずれも的を得たものにございます。ミョルジ家に銀河皇国を運営する正統性は何もない一方、NNLシステムと超空間ゲートの、最終統制権を握られている以上、従わないわけには参りません」
そこまで言ったイナルヴァにノヴァルナは頷き、「それで?」と先を促す。
「は。ここは面従腹背、言われた通り評議会に代表を送り、一方で情報収集を行いつつ、来たるべき時に備え、密かに戦力の拡充を図るべきかと」
来たるべき時という言葉で、ノヴァルナはギラリと双眸を光らせた。
「なるほど。草むらの中で鎌首をもたげて待つ…か、さすがに“マムシのドゥ・ザン”の臣下だっただけの事はあるな。しかし評議会への代表派遣を受け入れたら、おそらく向こうからも、連絡員とか大使とか名乗る“監視役”が送られて来る事になるはずだ。軍備縮小も有り得るだろう。これをどうする?」
ノヴァルナの反応にイナルヴァは、僅かに口元に笑みを浮かべて応じる。
「ノヴァルナ様はミノネリラ宙域を、手にお入れになりました。オ・ワーリ、ミノネリラ、二つの宙域を合わせると、その版図は広大。隅々まで見渡す事は難しいのではないか…と」
イナルヴァの意を察し、人の悪い笑顔を見せるノヴァルナ。
「おう、そう言われればそうだな。辺境星系辺りじゃイースキー家の残党や、まだまだ俺を大うつけだと思って逆らう奴等も居て、結構な数の宇宙艦を保有してるかも知れねぇなぁ。そんなとこまで把握はできねぇよなぁ…」
会議を終えたノヴァルナは、議事堂を出たところで『ホロウシュ』の、キスティス=ハーシェルから声を掛けられる。宇宙海賊『クーギス党』の旗艦、『ビッグ・マム』が到着したのだ。話によればキヨウにいたノヴァルナの協力者、カーズマルス=タ・キーガーとその部下達の特殊陸戦隊も同行しているという。
「おう。待ってたぜ。すぐに会う」
キヨウの情報は、ノヴァルナが今一番欲しているものであった。会議の疲れも見せず、ノヴァルナは即座に『クーギス党』の首領達を応接室へ通させる。
『クーギス党』の首領で、二メートル以上ある巨体のサイボーグのヨッズダルガ=クーギスと、その娘で副首領のモルタナ。そしてヒト種とほぼ変わらない姿をした、陸棲ラペジラル人のカーズマルス=タ・キーガー。この三人がノヴァルナのもとを訪れたメンバーだ。
「よう。カーズマルス、久しぶりだな。ヨッズダルガのおっさんも、元気そうじゃねーか!」
入室するなり、機先を制するように言葉を発しながら、ノヴァルナは三人と向かい側になるソファーに、ドカリと腰を下ろした。三人ともノヴァルナの家臣というわけでは無いが、皇都惑星キヨウとヤヴァルト宙域周辺の貴重な情報を収集し、届けてくれる重要な協力者である。
「ちょっと。あたいには、何の挨拶も無しかい?」
相変わらず肌の露出が多い衣装を着ているモルタナが、わざとらしく不満げに言う。ノヴァルナは苦笑いしながら、言葉を返した。
「ねーさんとは、しょっちゅう顔合わせてんじゃん!」
「しょっちゅう顔合わせてたって、女に対しちゃあ、細やかな心くばりってのが、大事なんだよ」
「へいへい」
ただ和やかな雰囲気だったはここまでで、ミョルジ家によるキヨウ再侵攻についての、詳細な情報が開示され始めると、伝える方も聴く方も深刻な表情となる。特にカーズマルス=タ・キーガーは、星帥皇テルーザの討ち死にの状況に関する、重要な情報を手に入れているという。
ヨッズダルガから聞かされたノヴァルナは、真剣な眼差しでカーズマルスに問い掛ける。
「それは本当なのか? カーズマルス」
「はい。実はテルーザ陛下から最後の出撃前に、今回の件を全て記録し、自分の友人であるノヴァルナ殿のもとに届けるようにと、仰せつかりまして」
「なにっ!? 俺に…」
カーズマルスが告げた事に、ノヴァルナは言葉を失った。テルーザが発した“友人”という呼び方に、途方もない重さを感じたからである。
「まずもって、今回の侵攻は全くの奇襲でありました」
カーズマルスはノヴァルナを前に、硬い表情でこう切り出した。ノヴァルナが無言で頷くと、カーズマルスはさらに続ける。
「ミョルジ家と『アクレイド傭兵団』の連合艦隊は、セッツー宙域からキヨウのあるヤヴァルト宙域へ侵入。これも七年前と同じです。星帥皇室直轄の艦隊が迎撃にあたりましたが、圧倒的な戦力差には如何ともし難く…」
「だろうな」
「さらにキヨウに駐留しておりましたミョルジ家陸戦隊が、『ゴーショ・ウルム』周辺を制圧。これによりテルーザ陛下の皇都脱出は不可能となり、もはやこれまでと、御自らBSHOでご出撃なされた次第です。戦闘の様子は、戦場に配置された偵察プローブからデータを入手致しました」
沈痛な口調で告げたカーズマルスに、ノヴァルナは「分かった」と言い、神妙な面持ちで続けた。
「じゃあ、聞かせてくれ。テルーザの最期を…」
▶#05につづく
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