銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第6話:皇国再興への道

#17

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 “スノン・マーダーの一夜城”でもその才能の一端を垣間見せた、キノッサが持つ大きな伸びしろ…ハーヴェンはそれがどこまで伸びるのか知りたい…いや、自分の手で伸ばしてみたいと、話をするうちに思うようになった。

 ハーヴェンはキノッサの眼を見据えて告げる。

「私はご貴殿のもとでなら、ウォーダ家へ加わるのも、やぶさかではありません」

「ほ、本当にございますか!?」

 上体を乗り出して反応するキノッサ。その両側に座るカズージとホーリオが、大きく安堵の息を吐く。しかしハーヴェンの話はまだ終わっていない。

「ただ、それにあたって、確かめさせて頂きたい事がございます」

「それはもう、どのような事でもお答え致します」

「ノヴァルナ公のお考え方…そしてキノッサ様のお考え方についてです」

「わたくしの考え方も、でございますか?」

「はい」

 自分の考え方も、と告げられてキノッサはやや緊張の度合いを増した。だがハーヴェンをウォーダ家へ引き入れる事が、今は全てに優先すると思っているキノッサは、「何なりと」と承諾した。一つ頷いたハーヴェンは、まずノヴァルナについて問い質す。

「ノヴァルナ公には、ご上洛の志がお有りのようですが、今の戦乱の世をどうされるおつもりでしょう?」

 この問いに対する答えは明白だった。キノッサも常日頃からノヴァルナに話を聞いて、目的を共有している情報だからだ。キノッサは、ノヴァルナが軍を率いて皇都キヨウへ上洛を果たしたのちは、星帥皇室を奉じて、まず皇都キヨウとヤヴァルト宙域の治安回復。その後は星帥皇の名において各宙域の星大名へ号令し、紛争状態の終結と、皇国秩序の再構築を目指すという、ノヴァルナの構想をハーヴェンに打ち明けた。
 ただノヴァルナがその構想の中心に据えようとしていた、星帥皇のテルーザ・シスラウェラ=アスルーガは、もはやこの世に存在していない。当然ながらハーヴェンはその辺りも問うて来る。

「なるほど、ノヴァルナ公は高いご見識をお持ちのようだ。しかしテルーザ陛下亡き今、その構想は水泡に帰したはず…公にはなにか、代案はお有りなのですか?」

「さてそこまでは。新たな星帥皇を名乗るエルヴィスという人物も、よくは分かっておりませんので…ただ、ノヴァルナ様の事ですので、何も考えておられないはずはございますまい」

 これを聞いてハーヴェンは“やはりそう言う事か…”と思った。ノヴァルナ・ダン=ウォーダは天才肌であって、自分一人でもあらゆる事に、正解を導き出せる人間なのだ。そして彼を取り巻く家臣達は、ノヴァルナの出した答えに向けて、各々の思考を合わせて行くのである。
 
 しかしこのような今のウォーダ家の体制には、不安な部分もあるとハーヴェンは考える。封建制を採る全銀河皇国の星大名達だが、その封建制にも差異はあり、家老達の合議による共和制に近いものから、主君による専制独裁的なものまで、形態は様々であった。
 そしてノヴァルナが主君になって以来、ウォーダ家ではこの専制独裁的風潮が、高まって来ている。先代のヒディラス・ダン=ウォーダの頃は、家老達による合議制も残っていたが、ノヴァルナの代になってからは、重臣達による会議は形式的なものとなり、重要な案件はノヴァルナ個人の意思で、方針が決定されるようになっていた。

 無論、それが悪とは限らない…とハーヴェンは思う。公明正大な個人による独裁政治は、時として衆愚政治と化した時の民主主義より勝る事を、否定するのは難しい。
 ただそれでも国家なり宙域なりの政治を、一個人の裁量に任せるのは、危険なのだ。どれほど高潔な人物であっても人間である以上、過ちは犯すであろうし、判断を誤る事もある。さらに至高の権力を手に入れてしまうと、沸き立つ私欲に溺れて堕落してしまう可能性もある。例えばオルグターツ=イースキーの側近であった、ビーダ=ザイードとラクシャス=ハルマ…そしてオルグターツ自身も、そうであった。オルグターツもビーダもラクシャスも、自らの人生において選択を誤りさえしなければ、名君・良臣となったかも知れないのだ。

 では今、自分の眼の前にいるキノッサという人物は、ノヴァルナの考え方が変わる時が来たとして、どう動くのか―――

「ノヴァルナ公のご賢明さは、私も良く存じております…ですがキノッサ様」

「なんでございましょう…?」

 あらたまって語り掛けるハーヴェンに、ここからが本題か…と、キノッサは僅かに喉を鳴らした。ハーヴェンはキノッサに覚悟を求めるような、重々しい口調で尋ねる。

「もしノヴァルナ公がこの先、志を見失われ、堕落し、私利私欲の追及を為され始められたとしたら…その時、キノッサ様はどうされるおつもりですか?」

「………」

 キノッサは考えた。“ノヴァルナ様ならばそのように、道を踏み外される事はございません”と言うのは容易い。だがそれはおそらく、ハーヴェンを失望させる答えなのだろう。自分の心根をあからさまにすべき答えが必要な時だ。

「ご返答は如何?…キノッサ様」

「もしそれが、ノヴァルナ様ご自身のためとなるのであれば、我が身は汚名を被ろうと正しまする」

「それでも叶わぬ時は?」

 追い込んで来るハーヴェンに、キノッサは覚悟を決めて告げた。



「わたくしめが…ノヴァルナ様を討ちまする」


 
「ほう…ノヴァルナ公を、キノッサ様がお討ちになる?」

 ゆっくりとした口調で、念を押すように確かめるハーヴェン。これに対しキノッサは、自分自身にも言い聞かせるかの如く、ひと言ひと言を噛みしめて応じる。

「ノヴァルナ様が、わたくしめの知るノヴァルナ様でなくなり、もはやお帰りになる事は無いと悟った時は…不本意ながら…真に不本意ながら、ご謀叛仕ります」

「その後は、キノッサ様はどうなされるおつもりか?」

「わたくしが、ノヴァルナ様の志を継ぎまする」

「ウォーダ家を継ぐお方を、奉じるのでは無く…ですか?」

「ノヴァルナ様のお命を奪ったなら、わたくしにその資格は無くなります。ならばウォーダ家を打倒し、取って代わるまで」

 ついに秘めたる本心を口にしたキノッサ。ところが次の瞬間、ハーヴェンは驚いた。キノッサが大きく見開いたままの両眼から、ポロポロと涙を零し始めたのだ。無論、キノッサの両側に座るカズージとホーリオにとっても予想外の出来事で、二人とも呆気に取られてキノッサを見た。

「キノッサ様。どうなされました?」

 しかもハーヴェンに問われ、キノッサは初めて、自分が涙を流している事に気付いたらしい。周囲の反応につい「は?…なんスか?」と普段の口調になり、指先で自分の頬を撫でてみて、訝しげな表情になる。

 この光景にハーヴェンはあらためて、キノッサがどういう人間かを理解した。主君ノヴァルナに対する深い忠誠心と、自らが頂点に立ちたいという野心。この相反する二つの想いが純粋なる本心として、無意識領域にまで根を張って、両立しているのである。だからこそ“ノヴァルナ様を討つ”と告げた時、きしんだ心が涙を流したのだ。



「承りました」

 ハーヴェンは穏やかな表情で瞼を閉じ、静かに言った。トゥ・キーツ=キノッサという人物はなかなかに面白く、稀代の傑物となる可能性を秘めている…この出逢いはその可能性に挑むという、余命少ない自分に与えられた、最後の仕事なのかもしれない。

「妻からの賛意も得ております。この命…いつまでもつか分かりませんが、御家のために尽力させて頂きます」

「おお。これは有難い。宜しくお願い致します!」

 満面の笑みを見せたキノッサは、心底嬉しそうに何度もお辞儀を繰り返す。こうしてミノネリラの天才軍師デュバル・ハーヴェン=ティカナックは、ウォーダ家の一員となったのであった………



▶#18につづく
 
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