銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第6話:皇国再興への道

#18

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 皇国暦1563年3月3日。短い隠居生活を終えたデュバル・ハーヴェン=ティカナックは、妻と子と共にミノネリラ宙域に帰還した。エテューゼ宙域との境界を越えたところで、舅のモリナール=アンドアの艦隊をわざわざ出迎えに寄越したのは、ノヴァルナのはからいだろう。

 住居はまだ定まっていないため、ウォーダ家が手配した高級ホテルを、仮屋住まいとしたハーヴェンは、早速ギーフィー城のノヴァルナの元へ向かった。
 迎えのリムジンに、モリナール=アンドアと乗り込んだハーヴェンは、道すがら煌めくギーフィー市の夜景を車窓から眺め、アンドアに語り掛ける。

「街が賑わっているようですね。まだ日は浅いですが、ノヴァルナ公の施政は、上手くいっているように思われます」

 ハーヴェンの言葉に、アンドアは大きく頷いた。

「税率をドゥ・ザン様の頃に戻しただけではあるが、それでもオルグターツ様の頃の、三分の一の低税率だからな。それにオ・ワーリ宙域との間の関税も、いずれ撤廃する方向で動いている。一部では人気取りと言われているが、経済優先の効果は抜群だ」

 ノヴァルナの経済政策は、ナグヤ=ウォーダ家を大きくした父ヒディラスや、ミノネリラ宙域を豊かにした、舅のドゥ・ザン=サイドゥの方針を受け継ぎ、流通関係を中心に低税率で経済を循環させるというものだ。元来、植民星系の開拓事業による好景気によって、経済状態そのものが悪い宙域は少ないため、要は星大名政権がどれほどの税を取るかが、問題の中心となるのである。

「税を広く浅く取るというのは、勇気の要る選択です。安直な考えで税率を上げるのでは、個々の消費や企業活動において財布の紐が硬くなり、経済水準が低下する事でかえって悪循環に陥るというもの…ノヴァルナ公はその辺りも、ご賢明という事なのでしょうね」

 そう言いながらハーヴェンは、“なるほど、イースキー家は負けるべくして負けたのだ”と、改めて思った。弱肉強食の戦国の世は、弱い者だけでなく私利私欲に走る者にとっても、厳しい世であったのだ。



「よく我等に加わってくれた。礼を言う、ハーヴェン殿」

 執務室に通されたハーヴェンに、ノヴァルナはわざわざ席を立って歩み寄り、握手を求めた。執務机の傍らには、ハーヴェンをウォーダ家に引き入れる事に成功した、キノッサが立っている。

「末席を汚すだけとなりましょうが、宜しくお願い致します。それと、ウォーダ家の家臣となりましたので、私に“殿”をお付けになる必要はございません」

 握手を返しながらハーヴェンがそう言うと、一つ頷いたノヴァルナは席に戻って背もたれに身を預け、ズバリと問う。

「それで? ハーヴェンは俺に何を望む?」

 ノヴァルナ流の斬り込み方に、ハーヴェンは僅かに眼を見開いた。
 
「自分の艦隊でも自分の植民星系でも、望むものを言うがいい」

 単刀直入がノヴァルナ公の身上とは聞いていたが、どうやら結論から先に求めるお方らしい…そう判断したハーヴェンは、“それならば”と口を開いた。

「私の望みは、艦隊でも星系でもなく、そこに居られますトゥ・キーツ=キノッサ様に、参謀長としてお仕えする事にございます」

 これを聞いて跳び上がったのはキノッサである。

「お、俺っちッスか!?」

 説得されるにあたってハーヴェンは、「あなたのもとでならウォーダ家へ参加してもいい」という旨の発言をしたが、キノッサはそれを単純に、“自分の訴えに納得できれば参加してもいい”程度の意味に捉えていたのだ。

「なに?…このサルの配下になりたいだと?」

 訝しげな眼で問い質すノヴァルナに、ハーヴェンは「はい」と静かに頷く。

「俺の下じゃなく、サルの下がいいってか?」

「ノヴァルナ様は軍師型の参謀は、必要とされないお方とお見受けしましたゆえ、自ら適所と思えるポストを望みました」

 緊張して息を呑むキノッサを背後に、一瞬の間を置いてノヴァルナは、いつもの高笑いを発した。

「アッハハハハハ!」

 そしてノヴァルナは不意に真顔になり、キノッサを振り向いて頭をペチン!…と一つ、平手で張り飛ばす。

「あいたっ!」

「ったく、てめーは!」

「なんスか!?」

「なんスかじゃねーよ! 説得して来いたぁ言ったが、誰がてめーの配下にしろなんて言ったんだってーの!」

「お、俺っちのせいじゃないッスよ!」

 途端に始まるノヴァルナとキノッサの掛け合いに、ハーヴェンは眼を丸くした。ノヴァルナには決して本気で怒っている様子はなく、怒られているキノッサもどこかおどけているようだ。このような光景は初めて見るもので、およそ星大名家の当主とその家臣のやり取りではない。
 しかもこの二人の場慣れた感から、こういった掛け合いは日常茶飯事であるらしい。ハーヴェンにとっても疎い話だが、市井の若者の先輩後輩の関係が、これに近いのではないかと思う。

「スノン・マーダーの城もハーヴェンも、てめーにやらせたら、全部自分のものにしやがって!」

 そう言い捨てたノヴァルナは、ハーヴェンに向き直って「失礼した」とすまし顔で詫びを入れ、了解の言葉を口にした。

「貴殿の願いは相分あいわかった。トゥ・キーツ=キノッサ付き参謀長に任じ、相応の報酬を与える」

「ありがとうございます。宜しくお願い致します」



▶#19につづく
 
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