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第7話:目指すは皇都惑星
#03
しおりを挟むノヴァルナの些か奇妙な問い掛けに、ノアは苦笑いし、マリーナはため息混じりに「なんですの、その適当なお言葉は?」と、呆れた眼をする。ヴァルミスは…仮面を被っているので、当然ながら表情は掴めない。
「上々ですわよ、兄上。ですから、しっかり送って下さいませ」
「お…おう」
躊躇いがちに応じるノヴァルナ。この上洛軍にノアやマリーナも加わっているのには、理由があった。
ノアの同行は、皇国貴族と接触する際の外交官的意味合いが強い。ノヴァルナは前星帥皇のテルーザとの関係は良好であったが、五年前の上洛の際も貴族達とは全く接触しておらず、彼等が期待していたイマーガラ家を倒してしまった事もあり、関係は冷え切っていると言っていい。そこをノアが入る事で、関係を再構築しようというのである。なぜならジョシュアを新星帥皇として、NNLシステムに承認させるためには、NNLシステム中枢へのサイバーリンク権を持つ、上級貴族達の協力が不可欠だからだ。
ただこれはノアの方からノヴァルナに働きかけて、その役目を得たのだった。必要以上に権威的な貴族達を好かないノヴァルナに、関係を改善させようとしても、逆効果になりかねないと考えたのである。
そしてマリーナ・ハウンディア=ウォーダだが、こちらは政略結婚の嫁ぎ先へ向かうため、途中まで上洛軍に同行する事になっている。
その嫁ぎ先とは、オ・ワーリ宙域ティタ恒星群独立管領のサージ家。準星大名と呼んでもいい、三つの植民星系を領有する有力な独立管領だった。恒星間打撃艦隊も四つ保有しており、戦力的にも高いものがある。
このサージ家が領有するティタ恒星群は、オ・ワーリ宙域のイーセ宙域との国境近くにあり、地政学的理由からオ・ワーリ宙域内にあっても、ウォーダ家に従属はせず、中立を保っていた。
今回の上洛軍進発にあたって、主力部隊が領域を留守にする事になるが、その際の不安材料となるのが、このイーセ宙域方面である。ミ・ガーワ宙域にはトクルガル家、シナノーラン宙域にはタ・クェルダ家と、ウォーダ家と同盟を結ぶ星大名家があり、またエテューゼ宙域のアザン・グラン家とは、ジョシュアの方で話がついており、侵攻を受ける可能性は低い。
しかしイーセ宙域星大名キルバルター家とは、友好的関係とは言い難かった。そこでマリーナ自身が考えたのが、政略結婚によってサージ家と姻戚関係を結び、ウォーダ家との協力関係を確実なものにする事だったのだ。
ひと月ほど前に突然、サージ家の次期当主バルボアと婚約した事を、マリーナから打ち明けられたノヴァルナはさすがに動揺した。昨年末に下の妹フェアンをアーザイル家に嫁がせたばかりで、今度はマリーナが、自分から嫁ぐと言い出したのだから無理もない。
しかもアーザイル家の場合、フェアンの夫となったナギ・マーサス=アーザイルは、政略結婚の形をとっているが、実際は恋愛結婚だった。またナギはノヴァルナ自身も為人をよく知る相手であって、信用の置ける人物だ。
これに対してサージ家のバルボアとは、ノヴァルナは全くと言っていいほど面識がない。どのような人間かも分からない相手と、いきなり結婚すると言われては、兄として不安になるのも当然である。
そんなノヴァルナが最も気にかけてマリーナに問い質したのは、やはりバルボアという若者を愛する事が出来るのか、という事であった。
ノヴァルナ自身も下の妹のフェアンも、自分が愛した相手と結ばれたのであり、政略結婚という理由はあとからついて来たものなのだ。
ノヴァルナの問いにマリーナは静かな笑顔で、「ええ。たぶん…愛せるようになると思いますわ」と応じた。そしてバルボア=サージが、好人物である事も付け加えて。
マリーナ・ハウンディア=ウォーダも意志の強さは、父ヒディラスや兄ノヴァルナに引けは取らない。その辺りはノヴァルナも充分に承知しており、これはやめさせようとしても無駄だと理解した。マリーナももう子供ではなく、ウォーダ家の姫として選んだ事なのである。それにそれから数日後に届いた、バルボア=サージからのホログラムメッセージを見たノヴァルナは、どうやら誠実な人物であるらしいと感じ取り、マリーナの選択を是としたのだった。
そのマリーナを上洛途中からティタ恒星群へ送り届けるのが、仮面の武将ヴァルミス・ナベラ=ウォーダ率いる第1特務艦隊である。
第1特務艦隊の出航は上洛軍の最後となるため、ヴァルミスはマリーナとともにまだ『ヒテン』にいるのであった。
「頼んだぜ、ヴァルミス。本当は俺も、ティタまでついて行きてぇけど、そうはいかねぇからな」
ノヴァルナか声を掛けると、ヴァルミスは軽く頭を下げて「承知しております」と、落ち着いた口調で応える。するとノヴァルナは、何かを画策している眼で、さらにヴァルミスに告げた。
「マリーナを送り届けたら、手筈通りだ。上洛軍は任せるからな。影武者役…しっかりやってくれ」
▶#04につづく
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