銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第7話:目指すは皇都惑星

#04

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 惑星バサラナルムを離れた上洛軍は、まずミノネリラ星系と隣接する、カノン・グティ星系第三惑星リシュージンへ向かった。ここでエテューゼ宙域から移って来た、ジョシュア・キーラレイ=アスルーガと合流するのである。

 今回の上洛軍の編制には、新たなウォーダ家へのノヴァルナの思惑が反映されていた。各艦隊の司令官人事で、中核部隊に旧サイドゥ家の“ミノネリラ三連星”を配置したのもそうだが、ノヴァルナのクローン猶子のヴァルカーツとヴァルタガ。さらには、かつてノヴァルナがナグヤ=ウォーダ家であった頃、敵対していた同族のイル・ワークラン=ウォーダ家当主、ヤズル・イセス=ウォーダとその嫡男ブンカー。そして死亡したキオ・スー=ウォーダ家当主のディトモスの嫡男、カルネードにも、司令官のポストが与えられたのである。

 ヤズルとブンカー親子は、ヤズルのクローン猶子のカダールが起こした、クーデターによってオ・ワーリ宙域を追放され、ミノネリラ宙域で細々と暮らしていたのを、ナルマルザ=ササーラに見つけ出されたものであった。
 またカルネードについては、父親のディトモス=ウォーダの死後、二人の弟と共に、ノヴァルナの義兄弟扱いとなっており、これらを第三者から見ると温情人事のようにも思われる。

 しかしヤズルは曲がりなりにも、元はウォーダ一族宗家の長であって、艦隊指揮の経験も当然ながらあった。それは次期当主とされていたブンカーも同様で、素人が指揮を執るわけではない。
 それにカルネードもノヴァルナの義兄弟扱いとされている以上、充分な艦隊運用の教練は受けていて、補給艦隊の司令官は今後に向けての、実地訓練的意味合いが含まれている。いずれもノヴァルナにとっては、これからのウォーダ家を考えるとこなしておかねばならない、一族を纏めるための課題であるのだ。



 そんな彼等を率いるノヴァルナがカノン・グティ星系へ到着したのは、翌13日の午後であった。
 この星系は以前、ノヴァルナの父ヒディラスが、精鋭を率いてミノネリラ宙域に侵攻した際、ドゥ・ザン=サイドゥの計略の前に大敗を喫した、因縁の恒星系でもある。その時はノヴァルナは惑星ラゴンで留守居をしていたため、この因縁の地を訪れるのは初めての事だった。

 第三惑星リシュージンは峻険な山脈の多い惑星で、永久凍土に覆われた山脈が大陸を縦横に走り、白い斑模様が特徴的な星である。その光景を『ヒテン』の艦橋から眺めながら、ノヴァルナは不敵な笑みで呟いた。


「さて…本物の次期星帥皇陛下とやらに、ご対面といくか…」

 
 ノヴァルナとジョシュア・キーラレイ=アスルーガの会見場所は、惑星リシュージンの行政府だった。古風な造りの行政府は、見た目が古代の神殿のようである。
 衛星軌道上に停泊したウォーダ軍第1宇宙艦隊を率いる、『ヒテン』から発進したシャトルは、護衛に付いた四機の攻撃艇と共に、青空の中に列を成す白い筋雲の間を通過し、行政府のシャトル発着場へ降下して行った。

 六角形をした発着場に向けて高度を下げるシャトルに対し、四機の護衛攻撃艇はそのままフライパスして、再び青空を駆け上がって行く。そしてシャトルは底部から重力子パルスのリングを放出し、風を巻き起こしながら着陸した。

 重力子パルスによる風が収まると、行政府と発着場を結ぶ連絡橋のシャッターが上がり、出迎えの陸戦隊一個小隊が二列縦隊でやって来る。それに続いてジョシュアをサポートする四人、ミディルツ・ヒュウム=アルケティ、フジッガ・ユーサ=ホルソミカ、トーエル=ミッドベル、コレット=ワッダーが現れた。他にはこの惑星の行政長官―――代官と、数名の補佐官がいる。

 開いたシャトルのハッチから、外務担当家老のコーティ=フーマと副司令官のナルガヒルデ=ニーワス。そして副官で護衛役のラン・マリュウ=フォレスタを伴ったノヴァルナが出て来ると、陸戦隊は揃って“捧げ筒”の姿勢を取った。ここではさすがにノヴァルナも、紫紺の第二種軍装を着崩さずに、きちんと整えている。

「お待ちしておりました、ノヴァルナ様」

 陸戦隊の列の先で立っていたミディルツが、歩み寄って来たノヴァルナに挨拶して頭を下げた。それに合わせてミディルツの背後にいた三人も、ゆっくりとお辞儀をする。こちらの三人は、ノヴァルナとは初対面だった。

「四名とも、大義である」

 胸を張って告げるノヴァルナに四人は、声を揃えて「はっ!」とさらに一段深く頭を下げる。そしてフジッガ、トーエル、コレットの初対面の三名。それと代官らと簡単な言葉を交わしたノヴァルナはミディルツに問うた。

「それで、ジョシュア様はどちらに?」

「貴賓室ですでに、ノヴァルナ様をお待ちあそばされております」

「わかった。案内してくれ」

 ミディルツの返答にそう応じ、古代神殿を思わせる行政府の中央塔を、ふと見上げたノヴァルナの視界には、翩翻へんぽんと翻る銀河皇国星帥皇室旗と、ウォーダ家の『流星揚羽蝶』旗が、同じ高さで二つ並んでいた。


 
「余…余が、ジョシュア・キーラレイ=アスルーガである」

 どこかおどおどとした様子で、声を掛けるジョシュアの前で片膝をつき、忠誠を示したノヴァルナは、静かだが強い意志を思わせる声で応じる。

「初の御意を得ます。オ・ワーリ/ミノネリラ宙域星大名ウォーダ家当主、ノヴァルナ・ダン=ウォーダにございます」

「う…ん。立たれるがよい、ウォーダ卿」

 ジョシュアの言葉に「はっ!」と、凛とした声で一つ頭を下げ、ノヴァルナはおもむろに立ち上がって背筋を伸ばす。玉座代わりに用意された、貴賓用の高級な椅子に座るジョシュアの両側に立つ、ミディルツら四名はノヴァルナが見せる鋭い視線に、緊張を走らせた。明らかにをする眼であったからだ。

「此度のえ…援助、痛み入る。キヨウまでの旅、よ…よしなに頼む」

 躊躇いがちに言うジョシュアに「御意」と答え、ノヴァルナは正対したジョシュアを改めて、しっかりと見据えた。

 ジョシュア・キーラレイ=アスルーガはこの時二十四歳。ノヴァルナより一歳年下となる。亡き兄のテルーザ同様金髪碧眼であるが、その眼光にテルーザのような鋭さは皆無であった。体型的にもテルーザをややミニサイズにした感がある。

 それに態度から受ける印象もテルーザとは大違いだ。

 BSIパイロットとして、おそらく銀河でも有数の腕前を持っていたであろうテルーザは、どことなく銀河の支配者という威風より、研ぎ澄まされた刃物のような武人のオーラを身に纏っていた。
 これに比してジョシュアには、そういった武人的側面をまるで感じない。どちらかと言えば、浮世慣れすら出来ていない学生のようである。ただそれもそのはず、ジョシュアは全くと言っていいほど、武人としての教育がなされておらず、時の関白コーネリアの領地であるウロヴォージ星系で、考古学を研究する毎日を送っていたのだ。

“これがテルーザの弟…ねぇ”

 ウォーダ家からの支援に対し、ぎこちない物言いで感謝の言葉を並べるジョシュアに、ノヴァルナは複雑な感情を抱いた。ここにいる側近達に煽られたのか、それとも自分で決めたのかは知らないが、一応は今の銀河を何とかしたい、とは思っているようである。その点においては、ノヴァルナと目的が一致している。しかしそれ以外の部分で果たして、使…と言えば、不安を抱かずにはいられない。

 そして当のジョシュアは、感謝の言葉を並べ終えたあと、ノヴァルナ軍が持参した献上品の目録を開いて、眼を輝かせていたのであった………



▶#05につづく
 
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