176 / 526
第7話:目指すは皇都惑星
#06
しおりを挟む翌日、皇国暦1563年4月14日。ウォーダ家上洛軍は惑星リシュージンを離れて、皇都惑星キヨウへの旅を開始する。
ジョシュア・キーラレイ=アスルーガは三人の直臣と共に、上洛軍後詰め部隊のツェルオーキ=イクェルダ率いる第12艦隊に預けられた。前衛部隊や主力部隊はこの先、ロッガ家との戦闘になる可能性が高いからである。
その一方で、本来は星帥皇室配下ではなく、浪人のミディルツ・ヒュウム=アルケティは、ノヴァルナの参謀扱いとして『ヒテン』艦橋に乗り込んでいた。
このウォーダ家の動きに対して、早くもエルヴィスの星帥皇室から警告が発せられ、即時軍を撤収させ、ジョシュアとその一党を『皇国中央評議会』に引き渡すように、命令が発せられた。無論ノヴァルナには、端からそのような命令に従うつもりはない。
「んなもん、ほっとけほっとけ」
司令官席で右手をひらひらさせてノヴァルナは、皇国からの命令文を届けに来た副官のランに告げ、他の上洛軍の進発準備を急ぐように続けた。今回はバサラナルムの時のように、全部の艦隊が惑星リシュージンの衛星軌道上に停泊しているのではなく、ノヴァルナの第1艦隊とジョシュアを乗せる第12艦隊しかいない。残りの艦隊は航行開始順に、カノン・グティ星系外縁に向かって待機しているため、ノヴァルナ達も今度は待たされずに済む。
「各艦隊の発進時間をリンクさせて、星系外縁部での統制DFドライヴ前に、全部隊が揃うように調整を頼む」
ランにそう命じておいて、ノヴァルナは傍らに控えるミディルツに声を掛ける。
「コレット=ワッダー殿を通じて、ジョシュア様の名で今一度ロッガ家に、我々への協力を呼び掛けてくれ。協力が無理なら、オウ・ルミル宙域の通過を認めるだけでもいい」
今回の上洛について、ロッガ家にも協力を要請したウォーダ家だったが、当主のジョーディー=ロッガは、ミョルジ家側に寝返っていた上に、ノヴァルナに対して積年の恨みもあって、全く相手にされていない。それどころか『クーギス党』からの情報によれば、ウォーダ家を迎撃する態勢に入り始めているらしい。
「やってもらってはみますが…成果は期待できないでしょう」
冷静な判断で応じるミディルツ。しかしノヴァルナもその辺りは、承知しているようであった。不敵な笑みで言い放つ。
「いいさ。大事なのはジョシュア様を星帥皇の座につけたあと、“ジョーディー=ロッガは、ジョシュア様からの協力要請を断った”って事実が残る事だからな」
ノヴァルナの言葉にミディルツは、“冷徹かつ良き判断をなさるお方だ…”と評価した。
無論あくまでもジョシュアの上洛に成功し、星帥皇の座に就けられてのちの話になるが、実際にジョシュアの名で行った協力要請を断ったとなると、ロッガ家の名は地に落ち、立ち直る事は難しくなるだろう。ウォーダ家にとっては、宿敵を一つ減らせるわけだ。
「どっちにしても、ロッガは叩いておかなきゃなんねー、連中だからな」
そう言ってノヴァルナは、艦橋中央の大型ホログラムを、現在位置からヤヴァルト宙域の皇都惑星キヨウまでの、航路図に切り替えた。中立宙域を大部隊が抜けるのは時間が掛かり過ぎる上、協力を仰ぐ必要がある上級貴族達が、いい顔をしないため、オウ・ルミル宙域を突き抜けて最短距離を取る事になる。
ミディルツは、上洛軍の航路図を眺めながら、意見を口にした。
「ロッガ家は、本拠地のクァルノージ城があるオウ・ルミル星系を中心に、これを球状に取り囲む、十八の近接恒星系に建設された城と、相互支援を行うのが防衛方針となっています。このシステムを打ち破るのは至難の業かと存じます」
「そうらしいな」
領域であるオウ・ルミル宙域中心部に超巨大暗黒星雲、ビティ・ワン・コーを有するロッガ家は、敵が侵攻して来た場合、その方向が限定される事から、首都星系オウ・ルミルの集中防衛を防御戦略の骨子としている。
その防御戦略というが、首都星系オウ・ルミルを中心とした、直径130光年の球体を描いて、この表面に位置する十八の恒星系に支城と、恒星間防衛艦隊を一個ずつ配置するというものだった。こうする事で敵がオウ・ルミル星系もしくは、どこかの支城を攻撃して来た際、他の支城から出撃した防衛艦隊が、あらゆる方向から次々と押し寄せて包囲殲滅するのである。直径130光年という距離は、一回のDFドライヴで宇宙艦が超空間転移できる距離で、その辺りも考慮されている。
「これに対し今回のノヴァルナ様のご戦略は、速攻で『ハブ・ウルム・ク・トゥーキ』へ到達する事。ロッガ家を叩いておくにしても、あまり時間はかけられませんが、どうなされるおつもりなのですか?」
ミディルツの懸念も尤もな話であった。下手に手間取ってしまうと、こちら側の敗北にもなりかねない。しかしノヴァルナは「ふふん…」と鼻を鳴らして、落ち着き払って言葉を返した。
「別にウチがわざわざ、連中の防衛戦略とやらに、付き合ってやる必要はねーからな。ウチはウチのやり方で、やらせてもらうさ」
▶#07につづく
0
あなたにおすすめの小説
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる