銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第7話:目指すは皇都惑星

#18

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 ジークザルトの発言に周囲の者は皆、思わず小さく跳び上がった。今やオ・ワーリだけでなくミノネリラ宙域まで領域に加えた、有力星大名家当主に対してあまりにも不遜が過ぎるというものだからだ。

 しかしノヴァルナ自身は、周囲の者がさらに何らかの反応を示すより先に、再び高笑いを放つと、愉快そうな眼をジークザルトに向けて、いつも通りの砕けた言葉で言い放つ。

「おもしれーじゃねーか! どういうつもりで艦隊を連れて来たか、言ってみろ」

 この口調を聞いて、ジークザルトはむしろ安堵したように息を吐き、その理由を胸を張って答えた。

「無論、ノヴァルナ様に同行して、ジョシュア様のご上洛の、お手伝いをするためにございます」

 笑みが大きくなるノヴァルナ。

「なに? 同行して上洛するだと!?」

「はい。まずジョシュア様に恭順の意を示し同行の許諾を頂き、そののちにノヴァルナ様に従わさせて頂きたく、恒星間航行能力のある艦隊を率いて参りました」

 ジークザルトの物言いに、背後にいたシルバータが呆れた口調で、「子供のくせに、なんと厚かましい…」と呟くのを聞き、ノヴァルナは思い至った。

“そうか…コイツは昔の俺だ”

 ナグヤ=ウォーダ家の次期当主であった頃の自分…如何に他人と違う事をして、自己主張するか。そのような事ばかりを考えていた頃の自分と、このジークザルトには通じるところがある。そしてその真意は、命懸けで相手の度量を図り、絆を作り出してゆく事にある。そうであるなら…

「ひとつ訊かせてくれ」

「なんなりと」

「随分と大仰な態度だが、俺がそれに腹を立てて、処刑でも命じたらどうするつもりだった?」

「わたくしめに人を見る眼が無かった…と諦めるだけにございます」

「!…」

 歳に似合わぬ苦笑いでそう言い返され、ノヴァルナはやはりそうか、とジークザルトの本質を理解した。
 例えばノヴァルナがノア姫を、正式に妻としてもらい受けるため、ドゥ・ザン=サイドゥとの会見で行ったように、命懸けで意表を突いて、ふざけたような態度を取ってまで、相手の懐へ飛び込んで器量を図る。今のジークザルトがやっているのはそれと同じ、相手の内面への問い掛けなのだ。ガモフ家だけが最後まで恭順の意を示して来なかったのも、本当はジョシュア云々より、他家と同じに動いては埋もれてしまうだけだ、という思いの方が大きかったのだろう。

 ふん…生意気なガキだぜと思いながらも、ノヴァルナは愉快そうに言い放った。

「気に入った!」
 
 上洛に伴う勢力拡大と、銀河皇国の秩序回復を目指すノヴァルナにとり、才能ある新たな人材の登用は、いま最も求めるところである。その点でこのジークザルトとの出逢いは、大きな意味を成した。
 ロッガ家の十八の支城それぞれの城主は、ジークザルト以外はまず自らの家の保身のため、ノヴァルナに直接恭順の意を示して来た。それはそれでノヴァルナに、彼等を責めるつもりはない。戦国の世においては、これが当然の思考だからだ。

 しかしジークザルトの思考は、それを一歩先に進めたものであった。保身を図るだけではなく、他のロッガ家の家臣達に先んじ、ウォーダ家の中で確固たる地位を掴み取ろうとして、このような売り込みを行ったのである。


人を得た!―――


 そう思い、ノヴァルナの口許は自然と綻んだ。しかも将来が楽しみな年齢でもある。ジョシュアを連れて来たミディルツ・ヒュウム=アルケティなどもそうだが、この旅で出逢った人材は有用に活用したいし、してやりたいと思う。

「覚悟はあるんだろーな?」

 遠慮のないノヴァルナの問い掛けに、自分が認められた事を感じ取ったジークザルトは、ようやく年齢に相応しい明るい笑顔を見せて、「はい!」と元気よく応じた。覚悟とは、ロッガ家を完全に捨て、この先ウォーダ家の一員として、行動してゆく覚悟の事だ。

「わかった。ジョシュア様には、俺の方から執り成しておく。ヒーノス星系艦隊は後方で、ジョシュア様を乗せた俺の第12艦隊の、護衛を命じるから付いて来い」

「御意!」



 成功裡にノヴァルナとの対面を終えたジークザルトは、会見場をあとにした直後に、父親から声を掛けられた。

「はあぁ…肝が冷えたぞ、ジークザルトよ」

「………」

 しかしながらジークザルトは、父親からの言葉には何も答えず、自分の両手を見詰める。指の間を僅かに広げた両の手の平は、ぶるぶると震えている。

「す…凄い迫力だったな…ノヴァルナ様は…」

 よくもまぁ、雲の上の存在のようなノヴァルナ様と、渡り合えたものだ…とジークザルトは、自分を褒めてやりたくなった。傍で見ているより、自分が緊張していた事に今更気付く。ノヴァルナの存在感は、噂に聞いていたより遥かに圧倒的で、自信があったはずのジークザルトも、頬の筋肉がいまだ強張っているのを感じる。

 だがこれがガモフ家の、新たな幕開けとなったことは確かであった。そしてこののち、ジークザルト・トルティア=ガモフの名は、後世に語り継がれる事となるのである………




▶#19につづく
 
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