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第8話:皇都への暗夜行路
#04
しおりを挟む翌日午前。ジョシュア・キーラレイ=アスルーガの、NNLメインシステムへのサイバーリンクが、『ハブ・ウルム・ク・トゥーキ』内において開始された。
これはセッツー宙域の『ハブ・ウルム・トルダー』で、メインシステムを掌握しているエルヴィスに対する、一種の電子戦である。そのためサイバーリンクコアブロックの最深階層までアクセスできる、十二名の上級貴族は六名ずつに分かれて、半数がジョシュアの制御権入手のサポート。あとの六名がエルヴィス側からの阻止工作を防御する態勢を取った。
一方ノヴァルナ達上洛軍艦隊は、ミョルジ家と『アクレイド傭兵団』の艦隊による実働戦力の襲撃に備え、ク・トゥーキ星系艦隊と共同して出撃。厳重な警戒を開始する。
ところがノヴァルナ側の危惧は外れ、ここでもエルヴィス側からの妨害工作は何も起きなかった。結果、制御権確保の作業自体に、丸一日を費やしたものの、ジョシュアはコアブロックの一部の掌握に成功し、ここにいびつな銀河皇国NNLシステムの二重支配体制が出現する。
そしてジョシュアは約束通り、ノヴァルナが支配するオ・ワーリ宙域とミノネリラ宙域の、NNLシステム封鎖を解除。さらにトクルガル家のミ・ガーワ宙域と、アーザイル家のオウ・ルミル宙域ノーザ恒星恒星群のシステムと合わせて、再度封鎖が行われないよう、プロテクトをかけたのであった。
ただ現段階でジョシュアが出来るのはここまでであり、今以上のシステム干渉を行うためには、皇都惑星キヨウにある中央行政府『ゴーショ・ウルム』に入って、正式な星帥皇としてNNLのメインシステムとの、深々度サイバーリンクを行わなくてはならない。現状は言わばハッキングに毛が生えたようなものだった。
NNLシステム封印解除に対し、ノヴァルナはその対価として、ジョシュアへのこれまで以上の支援を約束。5月6日には上洛軍はク・トゥーキ星系を出発して、キヨウへの航路を進み始める。
ロッガ家の抵抗はともかく、ここまでミョルジ家と『アクレイド傭兵団』が何の動きも見せず、ジョシュアとノヴァルナの思い通りにさせている事が、いっそう不気味に感じられる。したがって総旗艦『ヒテン』に乗り、トクルガル艦隊のイェルサスと、アーザイル艦隊のナギ・マーサスとの三者で交わすノヴァルナの通信も、おのずと警戒感を滲ませるものとなった。ノヴァルナの眼の前にイェルサスと並んだ、ナギ・マーサスの等身大ホログラムが真剣な眼差しで言う。
「ク・トゥーキを離れれば、すぐにヤヴァルト宙域へ入りますが…さすがに、今度は動きがあるでしょうね」
「たぶんな」
短く応じるノヴァルナに、イェルサスの等身大ホログラムが提案する。
「でしたら、僕達が先行しましょうか? 三個艦隊もあれば、威力偵察の戦力としても充分だと思いますが」
「ありがとよ。だがそれには及ばねぇ。ウチから先行部隊を出す」
ノヴァルナの命令で、上洛軍がヤヴァルト宙域に入ると同時に、ルヴィーロ・オスミ=ウォーダの第3艦隊、ヴァルカーツ=ウォーダの第14艦隊、ヴァルタガ=ウォーダの第15艦隊が、先行部隊として分離された。
先行部隊はさらに全ての宙雷戦隊を前進させ、直径二千憶キロに及ぶ、半球状の哨戒網を展開。敵迎撃部隊の出現に備える。
そしてそのまま何も起こらずにしばらくは時間が経ち、動きがあったのは5月の8日、上洛軍がキヨウのあるヤヴァルト星系を目前にした、ヒーガスマ星雲へ差し掛かった時であった。
総旗艦『ヒテン』の私室で就寝中だったノヴァルナの、ベッドの脇で通信機が音を立て、事態の発生を知らせる。寝ぼけまなこを指で擦りながら、上半身を起こしたスエットスーツ姿のノヴァルナは、艦内時間で午前三時過ぎを示す表示を一瞥して、「俺だ…何があった?」と問い質す。通話に出たのは『ホロウシュ』の夜間当直、クローズ=マトゥだった。マトゥは「ご就寝中に申し訳ございません」と、詫びの言葉を前置きして報告した。
「第14艦隊の前哨駆逐艦から、所属不明の艦隊を発見したとの連絡です」
マトゥの言葉を聞きながら慌てる様子も無く、んんー…と背筋と両腕を伸ばしたノヴァルナは、「14艦隊からデータは入ってるか? 入ってたらこっちへ回せ」と命じる。やがて隣のベッドで寝ていたノアも起きて来た。
「敵?…ミョルジ家?」
「分かんねーけど、味方じゃねーだろな」
ノアの問いに答えると、ノヴァルナの意識もはっきりとして来る。そこへ転送されてくる第14艦隊からのデータが、ホログラムで浮かび上がった。どうやら時差はあるがリアルタイムのようだ。総旗艦『ヒテン』のいる第1艦隊の60億キロ先をいく、第14艦隊の哨戒駆逐艦の中の二隻が発見したのは、ヒーガスマ星雲内から続々と出て来る、“UNKNOWN”が表示された光点だ。その数はすでに百や二百どころではない。それらは数十個ずつの集団に分かれているところから、複数の基幹艦隊クラスの集団であるように見える。
“待ち伏せか?…いや、それなら俺達の艦隊がもっと星雲に近づくまで、中に潜んでいるのがセオリーだが…”
訝しげな眼をするノヴァルナに、一緒にデータを見ているノアが言う。
「結構な数ね。でも案外遠くで、見つけられたじゃない…もしかして、わざと私達に見つかるように、出て来た?」
自分が抱いたのと同じ疑念を、そのまま声にして口にする妻を振り向き、ノヴァルナは艦橋にいるマトゥに尋ねた。
「マトゥ。相手側の前哨駆逐艦は、見つかってねーのか?」
ノヴァルナの質問にマトゥは「哨戒艇やそれに類する駆逐艦の報告は、入っておりません」と応じる。こちらの哨戒網が見逃している可能性もあるが、楽観的な推測はこの場合は危険だ。ノヴァルナはすぐに対策を立てて、矢継ぎ早にマトゥへ指示を出す。
「全艦隊に第二種戦闘配置。本隊も哨戒の駆逐艦を出せ。ただしこっちは前方展開じゃなく、球状展開でな。それとサンザーの6艦隊に、対艦装備のBSI部隊を待機させるように伝えろ。潜宙艦が辺りに潜んでる事もあり得る」
相手側の哨戒駆逐艦に気付かぬ間に先を越され、すでにこちらの動きを捕捉されていた場合と、相手側が哨戒駆逐艦ではなく潜宙艦を使用して、哨戒部隊がすでに近距離に潜んでいる場合の、両方を考えたノヴァルナの対応だった。
するとマトゥと交代したらしい、参謀長のメヒル=デッカーが通信に出て、「了解しました」と応答する。こちらも就寝中だったはずだが、事態を重く見て艦橋へ急行したに違いない。メヒル=デッカーは元はノヴァルナの父親が使用していた、総旗艦『ゴウライ』の艦長を務めていた初老の男である。経験豊富なベテランらしい判断だ。「頼むぞ」と告げ、ノヴァルナはノアに振り向く。
「ちょっと艦橋に行って来る」
そう言うノヴァルナに、ノアもベッドから降りて来た。
「軍装に着替えるでしょ? 手伝うわ」
ところがノヴァルナの指示に従って、本隊からも哨戒駆逐艦が動き出した頃に、状況は新たな局面を迎える。第14艦隊から、正体不明の艦隊が通信を求めて来ているという連絡だ。『ヒテン』の艦橋に入ったノヴァルナは、すぐさま第14艦隊旗艦からの、超空間通信に出る。相手は自分の二番目のクローン猶子である、艦隊司令官のヴァルカーツ=ウォーダだ。
「向こうから通信要請だと?」
「はい。義父上」
クローン猶子のヴァルカーツは、ノヴァルナがまだ子供の頃に製造されたため、もうすぐ二十五歳になるノヴァルナに対し、十九歳と六つしか差はない。クローンだけあって見た目はノヴァルナとそっくりだが、育ち方の違いで性格は慎重な傾向が強い。六歳差で“義父上”呼びは傍で聞けば違和感があるが、当人同士は気にはしていない。
「それで、連中は何者なんだ?」
ノヴァルナがまず一番大事な事を問い質す。そしてヴァルカーツの返答を聞き、相手の正体に双眸が険しい光を帯びた。
「先方は『アクレイド傭兵団』主力部隊、本営艦隊を名乗っています」
▶#05につづく
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