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第9話:魔境の星
#04
しおりを挟む惑星首都ダロン・シティは人口約十二万人。首都にしては少ない人口だが、このラジェ自体が、入植開始後およそ二十年の新興植民惑星であるから、異常な事ではない。ただやはり植民に失敗しつつあるのか、ノヴァルナ達が宇宙港に降りてみると、建造物や機材に、開港以来まったく手入れが為されていない雰囲気がする。
それに宇宙港に着陸している他の貨物船も、数は多いが、どれもくたびれた中古の船で、大手宙運企業の貨物船は見当たらない。
港湾事務局の待合室でノアがその事を口にすると、モルタナは「大手は採算が取れなくて、撤退したのかもしれないよ」と告げる。彼女の話では、これも失敗しつつある植民惑星では、よく見られる傾向であるらしい。
開拓の停滞から物資輸入の発注量が減り、その結果、大手宙運企業では採算が取れなくなって撤退。中小宙運会社ばかりが入るようになる、というわけだ。
この話に、ノアの隣に座っていたノヴァルナが言う。
「…でもって、ここで立て直しがきかねーと、いずれあのアデロンみてーな星に、なっちまうってこった」
「アデロンかぁ…懐かしいわね」
そう応じて、苦笑いの中にも感慨深げな眼をするノア。惑星アデロンは今から八年前、初めて逢ったノヴァルナとノアが、熱力学的非エントロピーフィールドのトンネルによって飛ばされた、皇国暦1589年のムツルー宙域で辿り着いた惑星であった。
植民に失敗したアデロンは治安が悪化し、ムツルー宙域の星大名アッシナ家に取り入ったマフィアのボス、ピーグル星人のオーク=オーガーが代官として、いいように悪政を振るう廃れた惑星と化していたのだ。
ただそのような星でもノアが感慨深げな眼になるのは、手助けしてくれたカールセン夫妻のもとで、自分とノヴァルナが互いへの想いを、深めた地であったからに他ならない。
そこへ積荷の揚陸手続きを終えた配下がやって来て、完了の報告をする。待合室の長椅子から立ち上がったモルタナは、ノヴァルナとノアを振り向いて告げた。
「ま、そんな状況だから、あたいらみたいな、聞いた事のない“新参者の中小企業”が入って来ても、怪しまれはしないってわけさ…じゃあさっそく、街に繰り出そうじゃないか」
待合室には他に何組かの運輸業者も来ている。その建前上、モルタナは“街に繰り出す”と飲みにでも行くような物言いをしたが、本当の目的は無論、現地協力者と会うためであった。
ダロン・シティ宇宙港から首都の中心街までは、反重力鉄道で一時間ほど。夕暮れ時となってさらに気温が下がり、赤道直下でも肌寒く感じる。強めの風も出て来たようだ。この惑星ラジェはユラン星系にあるハビタブルゾーンの中でも、主恒星ユーラからの距離が遠めであるため、寒冷惑星となっているのである。
ノヴァルナ達の見立てでも植民に失敗しつつあると判断されたラジェだが、それでもさすがに首都の中心街は賑やかであった。特に繁華街は、夕映えの中で色とりどりのホログラムサインに飾られ、様々な種族が通りを行き来している。ヒト種の割合は意外と少なく、ほとんどのグループに異星人が混じっていた。ノヴァルナ達が訪れたのはそういった街であり、ノヴァルナ一行にバドリオル星人やマーティシア星人を加えた、カーズマルスの判断は正しかったと言える。
しかしながら一見、他の植民惑星と同じように見えても、そこかしこに綻びは起きているようだ。裏路地を走る配管が部分的に壊れているのか、建物の間から白い蒸気が吹き出しっぱなしになっており、通りの端々にゴミが散乱している。通常の植民惑星であれば、こういったものの修繕や回収に、それを目的としたロボットがすぐにやって来ているはずだが、どう見ても長い間、放置されているとしか考えられない。
「あまり、いい街とは…言えないわね」
ノヴァルナと並んで歩くノアが、周囲の様子から感じた事を口にする。
「どこの星でも、スラム街は似たようなもんだが…。新しい植民惑星で、こんな有様じゃあな」
ノヴァルナがそう言っているそばから、通りの向こうで複数の怒号が起きた。驚いた通行人達が足早に分かれると、二十人ほどのグループが二つ、殴り合いを始めている。ノヴァルナ達からの距離は約五十メートル。五人の陸戦隊員とカレンガミノ姉妹が素早く、ノヴァルナとノア、モルタナへの警護体制をとった。どうやら地元のギャングの抗争のようなものらしい。
ただそれでも、通行人達は迷惑そうな顔をしてはいるが、殴り合いの現場を大回りに避けて、通り過ぎていくだけだ。“この惑星では”なのか“この街では”なのか程度は分からないが、珍しい事ではないのだろう。
するとその時、殴り合いをする小集団の向こうのビルに設置されていた、植民惑星行政府の広報用ホログラムが、皮肉めいたキャッチフレーズを映し出した…
私たちの住みよい星、ラジェ―――
▶#05につづく
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