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第9話:魔境の星
#18
しおりを挟むメイアからの連絡を受け、表情を引き締めたノヴァルナとノアは、同時に立ち上がる。そして眠っていたガンザザとテン=カイを、急いで起こして回った。一方で共に休んでいた陸戦隊員は、早くも起き上がって戦闘態勢を取り始めている。そこへ今度はマイアからも報告が入った。
「こちらマイア。動体反応、増加しております。現在二十三」
「こちらメイア。反応の個々のサイズは、三メートル前後。全ての個体が南東方向より一定速度で、野営地に向けてゆっくりと直進中」
メイアの追加報告を合わせて聞いたノアは、ノヴァルナに振り向く。ノヴァルナが頷くと、ノアはカレンガミノ姉妹に後退を指示した。
「メイア、マイア。戻って陸戦隊と合流して下さい」
その間にノヴァルナは、カーズマルス=タ・キーガーに呼び掛ける。
「カーズマルス」
カーズマルスは「はっ!」と応じ、配下の陸戦隊員を横一列に配置させてから、ノヴァルナ達に告げた。
「ノヴァルナ様とノア様。テン=カイ殿とガンザザ殿は、裂け目の奥へお下がり下さい」
野営地の警備を任されているカーズマルス=タ・キーガーは、接近中の“何か”がそれほど巨大ではない事。一方向から速くない一定速度で接近している事から、迎撃した方が良いと判断して陣形を整えた。何が潜んでいるかも分からない、夜の暗闇に満たされた密林に逃亡するより、危険度は低いとの判断である。
ほどなくして密林の中から、メイアとマイアが小走りに出て来て、陸戦隊の列に加わった。全員が擲弾筒付きブラスターライフルの安全装置を外し、彼等の背後にいるノヴァルナ達四人も、ハンドブラスターを手にする。
動体感知装置からの反応を、データパッドで見ていたカーズマルスが言う。
「正面、来ます」
息を呑んで、密林との境界に銃口を向ける陸戦隊員達。ところがその直後、密林の中から出て来たのは、ノヴァルナ達が思っていたものと些か違っていた。出て来たのは、巨大なカタツムリの一団だったのである。
「!?」
撃つべきか一瞬の迷いを見せるカーズマルス。ノヴァルナは「射撃まて」と先に命じた。木々の間から姿を現した巨大カタツムリが、自分達を見ていない事に気付いたからだ。
まるで牛の群れのような何匹もの巨大カタツムリは、こちらに対して襲い掛かるどころか、戸惑っているように見えた。すると最初に出て来た一匹が、右に向きを変えて、再び密林の中へ向かい始める。それに従うように、残りの巨大カタツムリも、次々と密林の中へ姿を消してゆく。やはりノヴァルナ達を襲撃しに来たのではなく、群れで移動していた先に偶々、ノヴァルナ達の野営地があったのだろう。
念のための警戒により、ブラスターライフルを構えた陸戦隊の前方で、巨大カタツムリは行儀よく列を成し、密林の中へ戻って行く。ところが最後の一匹が体の向きを変えようとした直後、どこからともなく意外な声が響いた。少年の声だ。
「気を付けて! 最後尾のは、ガビッドが擬態してる!!」
その声が告げた“ガビッド”に対する認識はなかった陸戦隊だったが、最後尾にいた巨大カタツムリが、いきなり陸戦隊に向きを変え、猛然と迫って来たのは、間違いなく脅威である。すると最後尾のそれは、体の両側から無数の足を伸ばしだした。そしてさらにカタツムリの殻がほどけて、そこからも数えきれないほどの脚が伸び出す。正体を現したのは、大きなムカデ型の生物だった。
間合いを詰めて跳びかかって来る大ムカデ。狙われていた二人の陸戦隊員が、地面を左右に分かれて転がり、黒く鋭い牙の生えた大顎の攻撃を回避する。大ムカデにブラスターライフルを一斉に放つ、残りの陸戦隊員。だが何本かの脚は破断させたが、カタツムリの殻に擬態していた胴体の上側は、装甲板を並べたように硬く、ライフルのビームの小爆発では、表面を僅かに削る程度で通用しない。
なおも鋭い牙を向けて襲い掛かる大ムカデ。それを間一髪で回避する陸戦隊員。ところがその中の一人が、地表から突き出た木の根に、軍靴を引っ掛けて転倒してしまう。大ムカデは転倒した隊員に、鎌首をもたげて狙いを定めた。他の隊員はライフルを撃とうにも、味方にまで命中する恐れがある。
次の瞬間だった。森の中から飛んで来たガラスの小瓶が、大ムカデの頭部に命中した。砕けた小瓶の中は何かの液体が詰まっていて、それが大ムカデの額に塗りたくられる。すると突然、大ムカデは酷くもがきだした。頭部から生えた二本の触角が、激しく振り回されたかと思えば、その場でグルグル走り回り、そのまま密林の中へ逃げて行く。
逃走した大ムカデを見送ったのは束の間の事、ノヴァルナ達の関心はすぐに、警告を発し、小瓶を投げて来た声の主へ向いている。背後を振り返ったノヴァルナ達の視線の先にいたのは、繋ぎの作業衣を着た黒人の少年だった。年齢は十五、六歳ぐらいであろうか。来ている作業衣は着古して大きくくたびれているが、宇宙船の中でよく着られるタイプのものであった。
「こんなところに…人間だと?」
呟くノヴァルナ。少年は銀河皇国の公用語で、語り掛けた。
「大丈夫かい? おじさん達」
▶#19につづく
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