銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第10話:シンギュラリティ・プラネット

#03

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 一方、ノヴァルナ達が潜入した“怪獣惑星”ジュマの、『アクレイド傭兵団』秘密施設には夜が訪れていた。

 この惑星にもバサラナルムのようなリングが衛星軌道上にあるが、バサラナルムのような輝く氷のリングではなく、衛星の一つが部分的に欠けて、その破片がリングとなったものであり、あまり目立ってはいない。
 そして夜空を東西に横切るリングの斜め上には、その元となったいびつな形をした“月”が二つ、やや離れて浮かんでいる。皇国科学省の分析では、今から約六億年前にこの二つが衝突を起こし、破片がリングを形成したとされている。

 陽が沈んで一時間ほど経った今この時、グラン・ザレス宙運の貨物船三隻が置かれている、離着陸床のプラットフォームの照明が一斉に点灯した。プラットフォームを囲むように設置された六基の探照灯も動き出し、霧が出始めた夜空を白いビームで照らしてゆく。

 ノヴァルナ達は、そのプラットフォームの端に、一列になって身を潜めていた。昼の間に離着陸床から、洞窟内の秘密施設への侵入経路を慎重に調査したところ、メインゲート以外に内部への侵入は、困難である事が分かった。そこで身を潜めたまま、メインゲートを閉ざす巨大な扉が、開くのを待っているのである。

 そして今が、扉の開くタイミングだ。

 三時間ほど前に『アクレイド傭兵団』のリーダーと、ピーグル星人の首領ドン・マグードらが交わしていた会話にあった、アヴァージ星系行きの高速クルーザーが到着するのだ。

「お腹がすいた」

 プラットフォームのデッキから一段低い整備通路で、身を屈めるヤスーク少年が思った事を口にする。少年の前で同じように身を屈めるノヴァルナが、小声の軽口でそれに応じた。

「そいつには同意するが、もうちょいと声を小さくした方がいい」

 その直後、濃さを増し始めた夜霧の向こうから、重力子推進の金属的な響きが届き始める。続いて見えて来る、機体の各所に取り付けられたポジショニングライトの赤と白の光。そして点滅するナビゲーションライト。高速クルーザーの到着だ。
 六基の探照灯が着陸の妨げにならないよう、着陸位置となるプラットフォームの真ん中を向いて、ゆっくりと消灯した。代わりにプラットフォームの表面に、赤い光でサークルが描かれる。

 やがて視界に入って来たのは、双胴のクルーザーであった。ザーカ・イー星系のイーマイア造船が売り出している、『スランベル』型クルーザー…それほど大きな船ではないものの、速度自慢で有名な船種だ。
 やや船首を上げる形で降下して来た『スランベル』型クルーザーは、サークル状のランディングマークの、ほぼ中心に着陸する。すると一拍置いて、洞窟内部に通じるメインゲートの扉が、両側に分かれてスライドを始めた。

 扉は二重構造になっており、三時間前に中から傭兵団やピーグル星人達が出て来た時は、扉の下側中央の一部分のみが開いたのだが、今回は扉全体が開くようだ。幅が二十メートル以上ある扉が整備不足のせいか、土砂を咬んだような甲高い音を軋ませながら、ゆっくりと動いていく。扉の高さも三階建ての建物ほどはある。

 巨大な扉が半分ほど開いたところで、中から作業服の男と人型の汎用アンドロイドが複数、歩いて出て来た。彼等は高速クルーザーの方へ真っ直ぐ向かう。

 この光景を密かに観察しているノヴァルナは、自分の前―――列を成した先頭にいるカーズマルス=タ・キーガーに、声量を控えて指示を出した。

「カーズマルス。隙を見て中へ入るぞ。方策とタイミングは任せる」

「御意…」

 カーズマルスも小声で応答し、ブラスターライフルの安全装置を外す。ノヴァルナとカーズマルスに従うのは、ノアとカレンガミノ姉妹。そしてヤスークだった。ヤスークはフェンスを越える棒高跳びで見せた、身体能力の高さを買われての同行である。そして残るテン=カイ、ガンザザ、五人の陸戦隊員は、別の役目を与えられて、離着陸床でノヴァルナがいるのとは反対側の端に潜んで、命令が発せられるのを待っている。

 ノヴァルナらが見ていると、作業着の男達は高速クルーザーの周りで、手にした何かの機械を操作して、チェックを行っているように見えた。それが完了するとプラットフォーム上に、「ビー・ビー・ビー…」という耳障りなブザー音が、大きく鳴り始める。
 するとプラットフォームの、高速クルーザーが乗った個所が正方形に分離し、開かれた扉に向けてスライドしてゆく。どうやらクルーザーごと、洞窟内の秘密施設へ送られるようだ。目的は無論、バイオノイド:エルヴィスに移植する、生体組織を積み込むためである。

 作業員とアンドロイドは全員が、高速クルーザーの洞窟内への搬入へ、神経を集中しているようだ。チャンス到来である。カーズマルスは右手を掲げると、人差し指を立ててグルグルと回し、後ろにいるノヴァルナ達に“移動用意”のハンドサインを送った。高速クルーザーの移動速度と合わせ、腰を屈めたままの早足でクルーザーの裏側へ回り込む。
 汎用アンドロイドは整備仕様で警備機能は無いらしく、カーズマルスの動きには無関心だ。購入時に担当がケチって、警備機能などのオプションを全て、外しているのだろう。ノヴァルナ達にすれば勿怪もっけの幸いというわけだった。




▶#04につづく
 
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