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第10話:シンギュラリティ・プラネット
#09
しおりを挟む危機的状況のヤスークだが、カーズマルスの推測通りに民間人の少年に見える事から、メッツァ大佐やドン・マグードはヤスークの仲間が、よもやウォーダ家当主ノヴァルナ・ダン=ウォーダだと想像できるはずもない。仲間がいたとしてもどうせ同年代の子供か、難民の家族だろうという先入観があった。メッツァ大佐は警備室にいる部下達に指示する。
「私はクルーザーの発進準備があるからな。尋問は任せたぞ。子供がだんまりを決め込むようなら、多少痛い目に遭わせても構わん。それと手空きの者に、周辺を回らせろ」
そう告げて部屋を立ち去るメッツァ大佐。続こうとするドン・マグードは、扉を出るところで、自分が連れている二人のピーグル星人に振り返る。そして空腹であるのか、丸く突き出た腹を右手で摩りながら皇国公用語で命じた。
「おまえらも、このガキの尋問に立ち合え。もし俺達の船に密航して来たんなら、落とし前を付けさせる必要があるからな。爪のニ、三枚も引っぺがしてやりゃあ、素直に喋るだろう」
二人のピーグル星人は、「アハシェ」と彼等の言語で返答し、頭を下げる。これで警備室にいる人数は、傭兵団の男が五人。ピーグル星人の男が二人の、計七人となった。いずれも、いかにも悪人といった雰囲気を纏っている。その中の傭兵団の男の二人は、メッツァ大佐の命令を守って通信機を操作し、警備巡回の人数を増やしにかかった。
一方で残る五人は尋問を始めるため、ヤスークを取り囲んだ。そのヤスークはまだ気を失っている。ピーグル星人の一人は、爪を剥がすのに使うためだろう、サバイバルナイフを取り出して、薄笑いを浮かべながら指先で刃の尖り具合を調べた。すると傭兵団の男の一人が、ヤスークの座らされている椅子の脚を、無造作に蹴とばす。
「おい。起きろ、ガキ!」
しかしヤスークは反応しない。男はさらに椅子の脚を蹴るが、僅かに眉を動かす程度だ。そこへ別の男が加わって、ヤスークの頬に平手打ちを喰らわせる。これには流石に目を覚ました。ただヤスークは『アクレイド傭兵団』の連中に驚くより、今の状況が飲み込めない様子で辺りを見回した。ドン・マグードに蹴られた腹がまだ痛むらしく、顔をしかめて顔を俯かせる。
その頭の髪を、椅子の脚を蹴った男が鷲掴みにし、強引に上を向かせた。
「おい、ガキ!!」
凄みを利かせて、脅し口調の男。
「おまえ。誰だ!? どっから来た!?」
「ヤ…ヤスーク=ハイマンサ。谷の奥の宇宙船に住んでる」
ヤスークは問われた事を、素直に返答する。実は“強化奴隷”は基本的に、人間の言う事には従うように造られていた。したがって傭兵団の男に対しても、不信感はあったが、問われるままに応じるしかない。
「谷の奥の宇宙船だと? なんだそりゃ!?」
「十一年前に、この星に来た」
ヤスークの返答に、男達は顔を見合わせる。どうも真実味に欠ける…といった眼だ。無理もない。彼等にすれば十一年前に、この惑星に不時着した宇宙船があり、生存者が今も生きているなど、降って湧いたような話だ。別の男がヤスークの顔を覗き込むようにして脅す。
「おい! 適当な事、言ってるんじゃねぇだろうな!?」
「適当な事って、どんな事?」
ずっとコンピューターの『フロス』とだけ暮らして来て、口語表現が今ひとつ理解できないヤスークは、疑問をそのまま口にした。だが脅迫している相手にこれはいけない。ヤスークに詰問した男は、このひと言で逆上した。
「なんだこのガキ! てめぇナメてんのか!?」
言うが早いか、男はヤスークの側頭部を平手で張り飛ばす。ヤスークにすれば、純粋に言葉の意味を知りたかっただけであるから、いきなりの暴力に恐怖を覚えて当然だ。困惑と怯懦の入り混じった眼で男を見上げる。
「いいか! ナメてっと、痛い目に遭うだけだぞ! 正直に喋りやがれ!!」
「………」
正直に話しているのに怒声を浴びせて来る男に、どう反応していいか分からず、ヤスークは無言になるしかない。そこに内容を変えて、再び男の詰問。
「それでおまえ。仲間はいるのか?」
ヤスークは素直に応じ、親しく思っている順に名を告げる。
「ノア」
「ノア?」
ノアと言われても、男達にピンと来るはずがない。
「メイアとマイア」
「三人とも女か?」
「ノヴァルナ様」
ノヴァルナの名前まで出してしまうヤスーク。ところがこれがまた、傭兵の男達の怒りを誘発した。「このガキ!!」と叫んで、ヤスークの顔を殴りつける。ノヴァルナの名は今や有名だが、常識的に考えれば、いまだミョルジ家の勢力圏である、このアルワジ宙域にいるはずが無い。男達はまたヤスークに、からかわれたと思ったのだろう。さらに男に殴りつけられたヤスークは、拘束された椅子ごと床に倒れ込んだ。
「やっぱり痛い目に遭わなきゃ、分かんねぇようだな」
眼光鋭く、ナイフを手にしたピーグル星人の男が歩み寄る。
▶#10につづく
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