銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第10話:シンギュラリティ・プラネット

#11

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 『ラグネリス・ニューワールド』社は、銀河皇国の植民惑星開拓業界では新興企業であり、五番手か六番手といった位置にいる。それでも惑星の環境改良や、植民都市のインフラ整備からは莫大な利益が上がるはずで、その利益の何割かが『アクレイド傭兵団』の、運営資金に回されている可能性があるのではないか…とノアは考えた。

“ウォーダ家が皇国の中央に近づけたこの機会に、植民惑星開拓事業の詳細な実体とか色々、調べてみるべきかも…”

 内心でそう呟いたノアが、『アクレイド傭兵団』と『ラグネリス・ニューワールド社』に関わる、目ぼしいデータをメモリースティックにコピーし終えた直後、窓から地下施設内の状況を観察していたメイアが、ノアに報告する。

「姫様。クルーザーを乗せたエレベーターが、動き始めました」

 それを聞いて、ノアはメイアの隣に歩み寄り、窓の外に眼を遣った。メイアの言葉通り、アヴァージ星系行きの高速クルーザーを乗せた、プラットフォームの一部がゆっくりと、斜面を登り始めている。バイオノイド:エルヴィスの生体組織の搭載と、整備・補給が完了し、おそらくプラットフォーム上で最終チェックに入るのだろう。時計を見るとクルーザーが到着して約二時間。三時間ほどで出発と盗み聞きしていたので、相手はほぼ予定通りに作業を進めているのだろう。

 そこへノヴァルナとカーズマルスが、ヤスークを連れて戻って来た。制御室に入るなり、ノヴァルナは不敵な笑みと共に声を掛ける。

「おう。待たせたな」

 振り向いたノアに浮かぶ安堵の表情。

「ヤスーク! よかった」

 「うん」と頷くヤスークに、ノアは詫びを入れた。

「ごめんなさい。私が気を取られたばかりに」

 それに対しヤスークは笑顔で返し、今しがたのノヴァルナからの、ヘルメットを叩いた手荒い高評価を口にする。

「大丈夫。ノヴァルナ様が褒めてくれたよ」

「そう」

「うん。殴ってくれた」

「!!??」

 誤解を招くようなヤスークの言葉遣いに、ノヴァルナは「言い方!」と慌てる。だが遅かった。ノアがヤスークの顔をよく見直すと、傭兵の男に殴られた眼の辺りが腫れている。ノヴァルナを振り向くノアは怒りの表情。

「ノヴァルナ! あなた、ヤスークを殴ったの!?」

「ち、ちげーし!!」

「あなたってば、叱るのはともかく暴力を―――」

 いわれのない説教をノアから喰らうノヴァルナの傍らで、ヤスークは“なんでノヴァルナ様が怒られてるんだろう?…”という顔をする。どうもヤスーク絡みに関しては、ノヴァルナは妙なとばっちりを受ける流れのようであった。
 
 だがノヴァルナが不当な説教を喰らっている間にも、事態は進行している。

 管理指令棟の中の、メッツァ大佐から事務所代わりにあてがわれた部屋で、ピーグル星人の五人の幹部達と、夕食をとっていたドン・マグードは、山盛りのパスタと、“共食いか?”と思わせる大量のポークソテーを、オーク=オーガーには禁じておいた、ジョッキ何杯ものビールで胃に流し込んでいた。

 そして「ぐぇふ、エッ!」と下品なげっぷを吐いて、時計を見ると、手下の一人に訝しげな顔で訊く。

「“おい。さっきのガキの尋問…遅いんじゃないか?”」

「“もう、一時間ほどになりやすかね”」

「“ガキ相手に、何をモタモタやってるんだ…”」

 ドン・マグードにすれば、アヴァージ星系行きの高速クルーザーが出発した後、すぐに“改良ボヌリスマオウ”の、種子の残りを貨物船に詰め込んで、ムツルー宙域に向けて帰途に就きたい。その前に捉えた少年を尋問し、他の仲間の有無を訊き出して、落とし前を付けさせなければならなかった。たかが子供一人…と言えなくもないが、ピーグル星人の組織では上位の者は、下位のものに舐められるような行動は禁物である。

 ビールの酔いが軽く回って来た事もあり、ドン・マグードはこの遅さに苛立ちを覚えた。幹部とは別の、扉の脇に立っていた給仕役の手下に命じる。

「“おまえ。ちょっと行って見て来い。グズグズしてたら、俺が怒っていると言って、急がせろ”」

 手下は「アハシェ」と頭を下げて部屋を出る。すると五分ほどしてドン・マグードの耳に、誰かが廊下を駆けて来る靴音が響いて来た。その直後、扉が荒々しく開いて手下が上半身だけを覗かせる。

「“大変てぇへんです! 警備室のドアが熔けて、開かなくなってやす!”」

 これを聞いて「なんだと…」と、手下を睨み付けたドン・マグードは、巨体を椅子から立ち上がらせた。そしてテーブルに立てかけていた、黒い六角金属棍を握り締め、幹部達に言う。

「“お前達もついて来い”」

 程なくして秘密施設が並ぶ地下空洞内に、警報が鳴り始めた。焼き付けられた警備室の扉を開けたドン・マグードとその手下が、拘束された傭兵やピーグル星人の手下達を発見したのだ。
 これに反応したのが、高速クルーザーと共に離着陸床へ上がっていた、メッツァ大佐である。手元の通信機から即座に連絡を取る。

「メッツァだ。何が起きた!?」

 通信に出たのはドン・マグードであった。

「警備室に二人組が侵入して、俺やあんたの手下を拘束した。捕まえていたガキを助けに来たらしい」





▶#12につづく
 
 
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