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第10話:シンギュラリティ・プラネット
#14
しおりを挟む「おら、コイツで売り切れだ。取っときな!」
調子が出ねぇ、と言いながらも片手でハンドルを回し、華麗なドリフトを決めながら、ノヴァルナは最後のタイマー付き手榴弾を、傭兵達向けて放り投げた。タイマー付きのため、すぐには爆発を起こさない。しかしそれが転がって来る事で、傭兵達は蜘蛛の子を散らしたように逃げ出す。いつ爆発するか分からないうえに、拾い上げて投げ返す事も出来ないからだ。
やがて炸裂する手榴弾。狼狽した傭兵達を蹴散らして走るノヴァルナのカート。そこへ、傭兵団の現場指揮官を務めるスキュラ星人の少佐が、八人の兵を連れて急行して来た。ノヴァルナの運転するカートが向かおうとしていた方向、距離およそ百メートル前方に、壁のように列を成して立ち塞がると、二人が自己追尾型ロケットランチャーを構える。動きがいい。第三階層の中でも、第二階層の正規兵に近い連中だろう。
「マズいぞ、こりゃ!」
叫んだノヴァルナが左へ急ハンドル。セラミックプレートの路面が軋み、高速回転するタイヤが横滑りして車体がスピンしそうになるのを、咄嗟のブレーキングとハンドル操作で立て直す。次の瞬間、二人の傭兵がロケットランチャーを発射。直角ターンで方向転換したカートをロックオン。あっという間に距離を詰めて来る。
ただどんな時でも一筋縄でいかないのが、ノヴァルナの真骨頂だ。カートのモーター出力程度では、追尾型ロケット弾を振り切れないのは当たり前。ハンドルを急回転させてカートの向きを変え、アクセルを目一杯踏み込んだ直後、助手席に座るカーズマルスを思いきり突き飛ばした。
驚く間もなく助手席から転げ落ちるカーズマルス。と同時にノヴァルナ自身も運転席から飛び降りる。いや、単に飛び降りただけではない。路面に転がると、新手の敵に向けてライフルを連射した。その向こうで、無人となったカートにロケット弾が命中し、爆発を起こす。
そしてこれに呼応したのがカーズマルスである。ノヴァルナに突き落とされて驚かなかったのは、むしろ“阿吽の呼吸”というやつで、ノヴァルナの意図を理解しての事であった。こちらも路面を転がって、即座に自分達を追って来ていた敵へ発砲。二人で六人の傭兵を撃ち倒す。
これで相手が怯むと、ノヴァルナとカーズマルスは近くの建物に駆け込んだ。円柱型のその建物は、ハンガーデッキの脇にある大型クレーンと繋がった、制御棟であった。
「カーズマルス。ドアを焼き付けろ」
通用口の扉を閉めたノヴァルナはカーズマルスに命じる。これを聞いてカーズマルスが、ブラスターライフルで扉を焼き付ける間に、ノヴァルナは大型クレーンの制御室へ飛び込んだ。すぐにクレーンを起動させ、操作レバーを握り締める。
巧みに操作されたクレーンは、まるでBSIユニットの腕のようだ。高速で振り回されるクレーンが、制御棟の扉をこじ開けようとしていた傭兵達を、まとめて弾き飛ばした。三人、四人といった人数が五メートル以上も宙に舞い、路面に落下して意識を失う。そしてさらに右へ左へ大きく動くクレーンが、残った傭兵達を扉に近寄らせない。業を煮やした数人の傭兵が、制御棟に向けてブラスターライフルを放つが、金属製の壁は無駄に頑丈な造りになっていて、ビームが命中しても表面を少し抉る程度だ。
「ランチャーの再装填、急げ!」
スキュラ星人の少佐が、口吻の周囲に映える髭のような触手を、激しく動かしながら命じる。苛立っている事を示す彼等の種族の動作である。急かされた二人の傭兵が、焦りながら予備のロケット弾をセットし、トリガーを引く。頑丈な制御棟だが、ブラスターライフルのビームは防げても、さすがにロケット弾を喰らうのはマズい。
だがノヴァルナは慌てない。操作レバーを素早く操作し、クレーンアームを本当のBSIユニットの腕のように動かすと、ロケット弾からの盾に使った。衝撃で根元の関節部から外れ、大きな金属音を上げて落下したクレーンアームが、爆発の煙の中、路面のセラミックプレート上をグルリ、グルリと回転しながら、傭兵達の方へ滑ってゆく。迫り来るクレーンアームに、蜘蛛の子を散らすように逃げ出す傭兵達。ノヴァルナとカーズマルスは、クレーンが外れて出来た穴から飛び出すと、この混乱に乗じてその場を走り去ろうとする。
「逃がすな。撃て!」
スキュラ星人の少佐が命じるが、爆発の煙が晴れていない状態で、混乱も収まっておらず、照準もままならない。勢いに任せてハンガーデッキを、突っ切って行く二人。
するとそこへ、ズシン…という地響きが伝わり始めた。最初はノヴァルナとカーズマルスへの射撃に気を取られていた傭兵達だが、地響きが次第に大きくなると、銃を構えながらも不審げに辺りを見回すようになる。ハンガーデッキの反対側に辿り着き、一段低い窪みに飛び込んだノヴァルナは、この大きくなって来る地響きを耳にして、「来たか!」と口許を歪めた。
そして次第に大きくなって来る地響きは、空洞内施設より外部のプラットフォーム上の方が、明確に認識する事が出来た。アヴァージ星系行き高速クルーザーの発進準備を、今まさに終えようとしていたメッツァ大佐の所へ、一人の下士官が駆け寄って来て報告する。
「大佐。複数の巨大生物が、こちらに接近しています」
ノヴァルナが賭けた、この施設を破壊できる可能性―――“怪獣”達であった。
▶#15につづく
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