銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第11話:我、其を求めたり

#01

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 十八個もの周回惑星を持つアヴァージ星系、アターグ家が支配するアルワジ宙域の首都星系である。領民が都市を建設して居住しているのは、ハビタブルゾーン内にある第四惑星と第五惑星だが、鉱物資源が豊富だが高温の第三惑星にも、地下に鉱業都市が建設されている。

 その十八個の周回惑星の十六番目にあたる惑星が、バイオノイド:エルヴィスが治療を続けている、BSD(バイオノイド・シンセサイジング・デヴァイス)が置かれている地だ。青いメタンガスで大半が構成された第十六惑星は、自転軸が星系の主恒星アヴァジアに対して九十度となっている、特異な惑星であった。

 この星を目指して、超空間転移を行って来たのが、ノヴァルナ達を乗せた『アクレイド傭兵団』の高速クルーザーである。
 星系最外縁部の第十六惑星公転軌道のさらに外側で、ワームホールが発生し、先行して姿を現した探査プローブに続いて、流線形の船体を二つ並べて結合させた、双胴型の宇宙船が飛び出した。

「転移完了。ディメンション・アウト、成功です」

「全システム異常なし」

「惑星間航行速度、32.8に設定」

 高速クルーザーのコントロールルームで船を操る、電探士、航宙士、機関士からの報告に、船長は頷いて「第十六惑星到着までの、時間を算出」と指示を出した。全員が『アクレイド傭兵団』の着衣を身に着けているが、中身はノヴァルナの家臣カーズマルス=タ・キーガー配下の、特殊陸戦隊員に入れ替わっている。

 そこへカーズマルスを連れたノヴァルナがやって来る。

「うす」

 右手を挙げて、軽い調子でコントロールルームへ入って来た主君に、陸戦隊員達は皆が一斉に席を立ち、直立不動で対応した。しかしノヴァルナは「いいって、いいって、普段通りやりな」と面倒臭げに言い、挙げていた右手をヒラヒラさせて、隊員達を席に着かせる。

 ただそんなノヴァルナも、コントロールルームの中央に浮かび上がる、航法ホログラムに視線を移すと眼差しは真剣になった。ホログラムが映し出しているのは、バイオノイド:エルヴィスが待つ、目的地の第十六惑星。
 当初は勝手に押しかけてエルヴィスと会見を行い、場合によってはセッツー宙域のNNLシステム支配の放棄に伴って、エルヴィスの身の安全の保障と、ミョルジ家との和睦も考えていたノヴァルナだったが、アターグ家の思惑もあって、今はエルヴィスをこの星系から、連れ出す事も考えなくてはならなくなった。

 船長役の隊員に問い質すノヴァルナ。

「第十六惑星に着くのは、いつになる?」
 
 ノヴァルナの問いに航宙士役の隊員が素早く航法計算を行って、第十六惑星への到着時間が約七時間後である事を報告する。結構な時間に思えるが、惑星の公転軌道は外縁部に行くほど間隔が広がっているため、高速クルーザーらしくむしろ早い方であった。

「周辺に他の船などの動きはあるか?」

 カーズマルスの問いには電探士が応じる。

「本船の探知圏内では、交易船の二個船団の反応があるのみ。二個船団とも超空間ゲートへ向かっている模様」

 このアヴァージ星系はアルワジ宙域の首都星系であるから、当然ながら銀河皇国の超空間ゲートが設置されていた。だがノヴァルナ達を乗せた高速クルーザーは、ゲートを使っていない。これはゲートが惑星ジュマのあるユラン星系には、まだ建造されていなかったからだ。
 なおコントロールルームの航法ホログラムには、星系内を航行するその他の船の情報もマーカー表示されている。これはこの船が『アクレイド傭兵団』のもので、NNLの全面接続が可能になったためである。
 そしてこの交易船団マーカーの中には、『パリウス宙運』の表示もあった。こちらを支援するための、モルタナ=クーギス指揮下の偽装交易船団だ。ほぼ予定通りの位置を航行している。

「潜宙艦はどこにいる?」とカーズマルス。

「探知は不可能ですが、時間的に見て、第十六惑星の近くにいるはずです」

 隠密性が命綱の潜宙艦であるから、作戦行動中は余程の事態でも無い限り、連絡を取って来て、自分の所在を明らかにすることは無い。しかし逆に言えば、何の連絡も無いというのは、作戦通りに動けている事を示している。

 そこへ通信士役の陸戦隊員が、目的地の第十六惑星を回る衛星から、データリンクを求めて来ている事を告げた。自動誘導のためだ。

「如何致しますか?」

 カーズマルスが振り向いて尋ねると、ノヴァルナは「いいんじゃね」と軽く応じる。ここでデータリンクを拒否すれば、かえって怪しまれるだけだ。それに、惑星ジュマで潜宙艦『セルタルス3』がこの船を拿捕した際、船のデータバンクは全て解析し、拿捕された事を含む自動航宙記録は、改竄処理を完了していた。

 ノヴァルナの指示でデータリンクを行うと、さらに先方から通信が入る。

「先方から、“ジュマ基地との恒星間通信が不通となっているが、何か知らないか”と、尋ねて来ていますが、どう返答致しますか?」

 通信士の問いに、ノヴァルナはあっけらかんと応じた。

「んなもん、すっとぼけとけ」

 良く言えば豪胆、悪く言えばいい加減なノヴァルナの物言いだが、根拠もなくそう言っているわけではない。高速クルーザーがジュマを脱出しようとしたのは、時間的に秘密施設を、“怪獣”が襲撃し始めたタイミングであり、航宙記録のデータ改竄によって、通常通りの手順で施設から発進した事にされているからだ。

「BSDコントロール。こちらクルーザー311。当船は通常体制で発進した。その後の基地の状況に関しては不明」

 通信士役の隊員がそう応じると、少しの間を置いて「了解した」と返答がある。少し間が開いたのはおそらく、データリンクから航宙記録をスキャンしたのだと思われる。そしてさらに先方から通信。

「“E検体”の受け入れ準備は完了している。当方の誘導に従い接近せよ」

 これを聞いてカーズマルスと陸戦隊員達は、小さく息をついた。ノヴァルナも表情こそ変えはしていないが、軽く胸を反らして内心で呟く。

“第一関門はクリアか…”

 テン=カイから得た情報ではバイオノイド:エルヴィスを製造し、現在は死滅組織の復元に使用されている、BSD(バイオノイド・シンセサイジング・デヴァイス)基地は、第十六惑星惑星を回る三番目の衛星にあるという事だ。そして大半が自動化されて、配置されている人員の数も少なく、特に『アクレイド傭兵団』の中枢部が、ミョルジ家との関係を解消してからは削減がさらに進み、防衛戦力も第三階層に属するBSI部隊が二個中隊。それに宙雷艇二個戦隊と、かなり弱体化している。
 この弱体化は、防衛の主体をミョルジ家一門のアターグ家が担っていたからで、その反動で、現有の防衛戦力が低くなっていたのだ。しかしその弱体化した防衛戦力であっても、今ノヴァルナが乗っている非武装の高速クルーザーにとっては、圧倒的な脅威であった。そう言った意味では、NNLのデータリンクが無事行われたのは、当面の危機が去った事を示している。

 ただ油断はならない。BSD基地の『アクレイド傭兵団』は、すでに惑星ジュマの施設に異変が起きた事を察知しており、今頃は状況把握の調査隊が送られている可能性がある。破壊されたジュマの秘密施設のシステムが再稼働出来た場合、高速クルーザーの航行データが、改竄されている事が発覚するのは確実だ。

 腕組みをして前を見据えたノヴァルナは、コントロールルームの陸戦隊員達に、きっぱりとした口調で告げた。

「いいか。ヤバくなったら、途中でほっぽり出して全速でとんずらすっからな!!」




▶#02につづく
 
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