270 / 526
第11話:我、其を求めたり
#04
しおりを挟むキノッサがイーマイア造船本社を辞して、用意されたホテルへ向かっている頃、ノヴァルナを乗せた高速クルーザーは、目的地のアヴァージ星系第十六惑星へ近づいていた。正確には第十六惑星第三衛星である。
第三衛星にあるBSD(バイオノイド・シンセサイジング・デヴァイス)基地は、直径約二キロの小さな岩石質の衛星の内部をくり抜き、金属球の基地本体が埋め込まれた、特異な形状をしている。
怪しまれないためにも、高速クルーザーは基地からの自動誘導信号を、受けるがままに接近した。
眼下に広がる第十六惑星は、メタンガスで覆われたガス惑星だ。その表面は遠くから見れば青みが強いが、近くまで来ると青灰色に変わる。前方に浮かぶ第三衛星の向こうには第五衛星があり、こちらは凍結した白い衛星で、大きさも直径が第三衛星の千倍はある。
「ふーん…なんか秘密基地って感じで、いいじゃねーか」
コントロールルームの窓から見えるBSD基地の光景に、ノヴァルナはどこか呑気に言う。確かに内部をくり抜いた“月”の中に、隠されるように金属球体の本体が覗く姿は、秘密基地感がある。
視界の先、基地の上空には三隻の宙雷艇が、ルーティンの哨戒行動を行い、ゆっくりと旋回している。やがて航宙士役の陸戦隊員が、報告して来た。
「基地からの誘導信号が、接舷モードに変更されました。コードクリア、このままドッキングシークェンスに入ります」
頷くノヴァルナ。ここまでは順調だ。宙雷艇が一隻、接近して来るものの、その動きは緩慢であった。形だけの警護態勢という事だろう。こういう時は変に反応せずに、堂々としていればいい。するとクルーザーのコントロールルームに、テン=カイがやって来る。依然として謎の多いこの人物は、ノヴァルナに基地に関するさらなる情報を開示した。
「基地の主要部分は警備システムを含め、ほとんどが自動化されております。コードをクリアした以上、接舷までは問題は無いでしょう。エルヴィス陛下の生体組織の搬入作業も、アンドロイド達が行います。あとは『アクレイド傭兵団』の警備兵の、巡回だけ注意が必要かと」
「となると万が一の場合は、カーズマルス達の出番だな」
油断は禁物だが、前述の通り基地を守備する『アクレイド傭兵団』第三階層は、それほどレベルは高くはない。カーズマルスの部隊は三十六名の小隊規模だが、全員がプロの特殊陸戦隊員である。戦闘力の差は圧倒的だろう。
「基地の人員の数は、どれぐらいだ?」とノヴァルナ。
「八百人…ほどだったと思います」とテン=カイ。
「確かに少ないな…そのうち、戦える人数は?」
「宙雷艇クルーやBSIパイロットも合わせると、三百人ぐらいでしょうか」
直径約二キロの球体基地に居る人数が八百人は少ない。しかもそのうち約三百人が戦闘要員だとは、異常な比率のようにも思える。戦闘要員ではなくとも、整備兵や管制官の数を百人ほどと考えると、バイオノイド:エルヴィスの生体維持に関わる人数は、半数の四百ほどになり比率はさらに下がる。それだけこの基地が自動化されているという事であろう。
さらにその戦闘要員三百人の内訳を推察した場合、先にテン=カイから得た情報である、BSI二個中隊と宙雷戦隊二個戦隊のパイロットや乗組員を差し引いて、残りは百八十人。この中から司令官や幹部士官その他主計関係が、四十人含まれていると試算すれば、百四十人が警備やその他の予備要員。これが仮に三交代で稼働しているなら、一つのシフトに四十人程度が割り振られる事になる。
これらの試算を瞬時に済ませたノヴァルナは、コントロールルームに居合わせたカーズマルス=タ・キーガーに問い掛けた。
「カーズマルス」
「はっ!」
「最悪の場合、あの基地を制圧や破壊する事は可能か?」
有能なカーズマルスは、すでにノヴァルナと同様の試算を、自分でも終えていたらしく、ノヴァルナの問いに即答する。
「二つ、三つ条件を整える事が出来れば、充分に」
これを聞いて「お待ちください」と、割って入ったのはテン=カイだ。僅かながら動揺を感じさせる口調で、ノヴァルナに訴える。
「初めに申し上げました通り、基地を制圧や破壊するというような、目立つ事はお控え下さい。ここは首都星系ですので、何かあってはアターグ家も、見て見ぬ振りはできません」
将来的にウォーダ家への寝返りを望んでいる、このアルワジ宙域の星大名アターグ家だが、今は支配宙域がミョルジ家の勢力圏の真っ只中にあるため、今回の件では“見て見ぬふりをする”という、消極的支援を行うに留まっている。
だが新興植民星系だったユラン星系ではなく、宙域首都星系であるこのアヴァージで、大々的な破壊行為を行われては、見て見ぬふりなど出来なくなる。
これに対しノヴァルナは、きっぱりと言い放つ。
「悪ぃがテン=カイさんよ。そいつは俺の知ったこっちゃねーな」
▶#05につづく
0
あなたにおすすめの小説
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる