銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

文字の大きさ
309 / 526
第12話:天下の駆け引き

#11

しおりを挟む
 
「わ…わたくしですか?」

 まさかとは思うが、またいきなり「うっそぴょーん」とか、言い出しかねないのがノヴァルナである。ナルガヒルデは探るような眼で、確認を取った。しかし当のノヴァルナは本気も本気。粋な物言いと笑顔を見せる。

「おう。おまえは俺がまだ、誰にも信用されないナグヤの阿呆あほうだった頃から、俺を信じてついて来てくれたからな。その褒美ってワケだ」

 これを聞いてナルガヒルデは頬を紅潮させた。これもまた彼女にしては、珍しい反応だ。そこで彼女の隣を歩いていたイナルヴァが、興味深そうに尋ねる。

「長年の功に報いるのが、新城の総普請奉行とは、面白い話ですな」

 するとノヴァルナは笑顔の種類を、不敵なものに取り替えて、イナルヴァの問いに答えた。

「ナルガって奴は金銀財宝を褒美にやっても、本心からは喜ばないからな。そんなもんよりも、後世に残るような大仕事を与えた方がいいって事さ」

 そう聞いたイナルヴァは、あらためてナルガヒルデに振り向く。赤髪の女性武将は確かに、どこか嬉しそうであった。この辺りはノヴァルナの、上手い人心掌握術といったところであろう。ただ、オウ・ルミル宙域のコーガ恒星群には、いまだにジョーディー=ロッガを当主とするロッガ家の残存勢力が、一定数の戦力を維持したまま潜んでおり、こちらとも決着をつけておく必要がある。

「ナルガ。そんでもってな―――」

 さらにノヴァルナは、新たな城についての構想を、ナルガヒルデに伝える。ところがこれは、少々突拍子もない話であった。

「一般の観光客を呼べる城にしてくれ」

「は!?」

 思いがけないノヴァルナの指示に、ナルガヒルデだけでなく、ミディルツやイナルヴァも声を漏らす。

「観光客を呼べる城…にございますか?」

 呆気に取られた口調で、問い質して来たのはシルバータだった。

「おう。まぁ、決意の表れ…ってこった」

 意味不明なノヴァルナの返答に、全員が首を傾げる。それを見たノヴァルナは、決意が何に対してかを明かした。

「戦国の世が終わって、銀河が平和になりゃあな、城なんてぇのは、見世みせもんにしかならなくなんだろ。だったらその日のために、せいぜい観光客を楽しませるようにしとこうってワケさ。見物料を頂戴する程度にはな」

 それは冗談のような理由ではある。しかしこういった時のノヴァルナは結構、真剣な気持ちを語っている事が多い。
 
“ノヴァルナ様は本気で、この戦乱の世を終わらせるおつもりなのだ…”

 ノヴァルナがナルガヒルデを知るように、ナルガヒルデもまたノヴァルナという主君を知っている。冗談めかした“観光客を呼べる城”の言葉も、その背後にある本気の決意を、しっかりと感じ取っていた。

 哀しいかな現実的に、この世界から争いをゼロにする事は不可能なのは、誰でも理解している話だ。しかしそれでも、現在発生しているすべての争いの終結と、以後の争いの根絶は不可能であっても、それらを出来る限り減らす事は、可能なはずである。それを自分達の主君は、本気で為そうとしているのだ。
 アデューティス城はそんなノヴァルナの志を、形とするものである。早くからその器量を見抜き、信じて忠義を尽くして来たナルガヒルデにとって、確かにこれは大きな任務であると同時に、大きな褒美と言えるだろう。

「…かしこまりました。このニーワス、必ずや殿下のご期待に添えるだけの城を、建設してご覧に入れましょう」

「おう。いずれ、おまえを補佐する連中も揃える。しっかり頼まぁ」

 気合を込めたナルガヒルデの受諾の言葉に、ノヴァルナは殊更陽気な声で返答した。肩の力は抜いていけ…という励ましなのかもしれない。

 するとそこにミディルツが声を掛けて来た。

「間もなく建設が始まる、ニージョン宇宙城が完成すれば、アデューティス星系との連絡路の確保で、皇都惑星キヨウの防衛も万全となりましょう。ですが、問題はそれまでの間を、どのように対処するかでしょう」

 ミディルツの言っている事は道理である。現在の状況ではノヴァルナも、キヨウ周辺にいつまでも留まっている事は出来ない。時期的にはそろそろ、自分の領地のミノネリラ宙域に戻って、オ・ワーリ宙域と合わせた領国経営を、再開しなければならないからだ。現在は留守居として残して来た、シウテ・サッド=リンをはじめとする家老達が、問題なく統治を代行しているようだが、そうかといって、いつまでも放置していいものではない。

 その一方で、ヤヴァルト宙域周辺から駆逐はしたが、アーワーガ宙域へ撤退したミョルジ家や、先ほど取り上げたロッガ家の明らかな敵対勢力。さらにロッガ家と同盟関係にあったイーセ宙域のキルバルター家や、新星帥皇ジョシュアの上洛に非協力的であった、エテューゼ宙域のアザン・グラン家に、ヤヴァルト宙域と隣接するタンバール宙域に分散した各独立管領といった、旗色を鮮明にしていない勢力など、不安定要素も消え去ってはいないのだ。



▶#12につづく
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

獅子の末裔

卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。 和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。 前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...