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第12話:天下の駆け引き
#21
しおりを挟む怪しげな密談を行っているセッツァー達に比べ、ノヴァルナとノアは健全そのものだった。会食を終えたゲイラ・ナクナゴン=ヤーシナが、『クォルガルード』を辞すると、二人は早速私室へ向かい、ゲイラがエンダー夫妻から預かって来た、メモリースティックをデータパッドに挿入する。
データパッドから転送されたデータは、近くのNNLシステムホログラム端末を起動し、並んで座るノヴァルナとノアの前で、エンダー家の家族の等身大ホログラムを、床の上に投影した。
新たに二人目の子供を加えた四人の立体映像に、ノヴァルナとノアの表情は自然と柔和になる。今やカールセンも四十歳。妻のルキナは三十八歳。長男のネルヴァルは、もう六歳に成長していた。二人目の子供も男の子のようで、ようやく立てるようになったばかりらしい。
「ノバック、ノア。久しぶりだな。ビデオメッセージは、三年ぶりだったか?」
おもむろに話し始めるカールセン=エンダー。ノバックとは、カールセンに対して使用していた偽名だったが、それが転じ星大名ノヴァルナ・ダン=ウォーダではなく、対等の立場の友人として接する場合の呼び名となっている。
「ノバくん、ノアちゃん。元気にしてる?」
このルキナの言葉を聴いて、苦笑いを浮かべたノヴァルナは、ノアと顔を見合わせた。ノヴァルナを“ノバくん”呼びし始めたのはルキナであり、八年経った今でもノヴァルナにとっては、頭の上がらない女性だ。
さらに長男のネルヴァとは面識はないが、礼儀正しく「こんにちは」と言って頭を下げるのを見ると、ノヴァルナも甥っ子を見る叔父の気分になる。
するとルキナが二人目の幼児の背中に右手を添えて、「こんにちは…って」と挨拶を促した。その幼児はぎこちない様子で「こん…にっちゃ」と言い、ペコリとお辞儀をする。笑いを交えてルキナがその二人目の幼児を紹介した。
「この子はヴァルゲン…去年生まれた、二人目なの」
その言葉に笑顔を見せるノアだったが、僅かながら淋しさが混じる。まだ自分とノヴァルナの間には、子供がいないからだ。そんなノアの表情に気付いたのか、ノヴァルナが指先で脇腹を小突いて来る。それが風変りな夫なりの気遣いだと分かるノアは、気持ちを切り替えて明るく「こら。もう!」と、ノヴァルナの二の腕を強めに引っ叩く。この辺りは、子供が居ない故の変わらぬ関係だろう。
「おまえさんの評判は今や、ここムツルー宙域でも爆上がりだ。おかげでおまえさんと知り合いって事で、俺も色々と良い目を見せてもらってる」
冗談とも本気ともつかぬ言葉のあとで、カールセンは「ハッハハハ…」と笑い声を続けた。
カールセン=エンダーとルキナ=エンダーの二人は、ノヴァルナとノアにとって見倣うべき善き大人であり、善き夫婦であった。そんな二人の幸せそうな近況報告の様子は、星大名であるとか武家階級であるとかを忘れさせ、だたの人間としての満ち足りた時間を与えてくれる。
しかしそれでもカールセンとルキナが、漫遊貴族ゲイラ・ナクナゴン=ヤーシナに、わざわざメモリースティックを託したのは当然、近況報告を聞かせるためだけではない。八割が笑顔の近況報告に次いで、「まぁ、俺達の話はそんなとこだか」と区切りをつけると、表情を引き締めて重要な話題に移った。
「例の『超空間ネゲントロピーコイル』についてだが、ダンティス家でそれなりの地位を手に入れたおかげで、私設の極秘調査チームを作る事が出来てな」
その言葉にノヴァルナとノアは、表情を引き締めて互いに顔を見合わせる。『超空間ネゲントロピーコイル』とは八年前、ノヴァルナとノアが飛ばされた皇国暦1589年のムツルー宙域に存在していた、六つの恒星系に跨る超巨大施設である。
この謎の施設が、シグシーマ銀河系の中心から伸びた、時空次元が何も存在しない『熱力学的非エントロピーフィールド』の出口となっており、ミノネリラ宙域のナグァルラワン暗黒星団域で窮地に陥ったノヴァルナとノアが、イチかバチかでブラックホールの“事象の地平線”上で超空間転移を強行した際、二人を皇国暦1589年のムツルー宙域へ送り届けたのだ。
そして何者かが建造した、この謎の施設は現在でも既に存在しており、今の時点ではダンティス家の領域内にあった。これを調査するのを目的の一つとして、カールセンは元の世界では、アッシナ家に仕えていたのを、ダンティス家への仕官へ変更したのである。
カールセンは最新の、『超空間ネゲントロピーコイル』調査の概要を、手短に述べた。それによると昨年1562年に、『超空間ネゲントロピーコイル』は稼働状態に入っていた事が確認されたという。
それは時期的に、『熱力学敵非エントロピーフィールド』上へ侵入していた、ミノネリラ宙域の職人惑星カーティムルで、惑星規模の複数の火山が爆発していた時期と合致していた。やはり両者の間には相関関係があるように思われる。
「調査結果については、もう一本のメモリースティックに、データを記録しておいた。詳しい内容はそっちの方で確認してくれ。また機会を見て連絡する」
映像の中でカールセンがそう言うと、ルキナが女神のような微笑と共に、心からの言葉と感じさせる口調で告げる。
「体に気を付けて、元気でいてね。ノバくん。ノアちゃん」
▶#22につづく
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