銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第12話:天下の駆け引き

#24

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 ソークンの硬い挨拶と対照的に、ノヴァルナは大きく頷いて軽く応じる。

「ノヴァルナ・ダン=ウォーダだ。イーマイア造船の貨物船は、性能の良いシリーズが揃っていて重宝している。顧客のニーズをよく捉えた、いい企業だな」

「これは…いつもお引き立て頂き、誠にありがとうございます」

 さらりと言い放ったノヴァルナの言葉に、ソークンは思わず企業人としての反応で、感謝を述べた。
 まず自治星系行政評議会の代表ではなく、自分の持ち会社の長としての立場を褒める。こういうところは、キノッサと似て非なるアプローチの仕方であろう。同席しているキノッサだけでなく、ハーヴェンやジークザルトも興味深そうな視線を、自分達の主君に送っている。

 巧妙なノヴァルナの話術で、会談は明るい空気の中で行われた。ソークンに同行してきた二人も、やはり有名企業のトップであったのだが、企業名を聞いただけでノヴァルナは、それぞれの企業の持ち味を過不足なく取り上げ、周囲を驚かせる。

 しかもそれ以上に、特にキノッサを驚嘆させたのは、銀河皇国の文化財に関するノヴァルナの豊富な知識であった。
 ソークンをノヴァルナに会わせるにあたってキノッサは、改めて交渉成功に至る経緯をノヴァルナに伝え、ザーカ・イーの首脳陣が銀河皇国の文化財収集と、保護に力を入れている点が、交渉のポイントとなった事は知らせておいた。
 その文化財保護についても、今回の会見で話題に上ったのだが、これについてノヴァルナは、ソークン達ザーカ・イーの人間が恐れ入るほどの、豊かな見識を示して見せたのだ。

 例えばキノッサがソークンとの再交渉の要とした絵画、『鼈甲蜂のブローチの女性』の作者アイオウリス=ベイカーについても、皇国暦1200年代を代表する写実主義の画家で、出身地のフェイロン共和国では同時期に活躍した、印象派の画家セイザス・ハル=ヴァベラと絵画界で双璧を成していたという事や、アイオウリスの孫のリガッタは女流小説家として大成し、彼女の代表作である『湖面に浮かぶは青い月』は、1300年代最高の長編恋愛小説とされているなど、“本当に知っていなければ覚えていない”ような話題が、次から次へと語られたのである。

 本物は本物を知る…これらの事からソークンは、ザーカ・イー星系のウォーダ家への臣従を受け入れる事を決心し、その旨をノヴァルナに告げた。これをノヴァルナは大いに喜び、ザーカ・イー星系をウォーダ家の直轄領とするものの、ソークン=イーマイアを代官として行政評議会と自治権は、現状のまま存続させる事を許可したのであった。
 
 かくしてノヴァルナとソークン=イーマイアの会談は成功裏に終わり、ザーカ・イー星系がウォーダ家の直轄領となる事で、ウォーダ家は供出金だけでなく、莫大な税収が継続的に見込めるようになり、一方のザーカ・イー星系は自治権を維持したまま、脆弱であった防衛戦力を、強大なウォーダ家に任せる事が可能となった。

 ザーカ・イーからすれば、これまでも防衛戦力として外部の、『アクレイド傭兵団』やミョルジ家に莫大な金額を支払って、防衛を任せていたのであるから、その支払い分をウォーダ家に徴税されても、それほど痛くはない。自治権についても、経済中心の星系であるから、むしろ“長い物には巻かれろ”で、ウォーダ家の直轄領となる事を受け入れたようだ。



 会談を終え、ソークンらを乗せたザーカ・イー自治星系の公用船が、帰還していく姿を映し出すホログラムスクリーンを前に、キノッサは隣に立つノヴァルナに対して、「いやぁー」と手指で後頭部を掻き撫でながら、感心した様子で告げた。

「ノヴァルナ様が、あれほど絵画などにお詳しいとは、このキノッサ、思いも寄らぬ事にて感服仕りました」

 これにノヴァルナは、あっけらかんと応じる。

「バーカ。てめーのご主君様を、ナメるんじゃねーっての」

 ノヴァルナが対外的に与えるイメージ以上に、内面の奥深い人物である事は、キノッサも充分知っているはずであった。ところが実際のノヴァルナは、想像以上に見識が深かったのだ。

 するとノヴァルナは、「んな事より!」と強い口調で言うと、キノッサの背中をスパーン!と平手打ちした。「いたぁッ!」と叫んだキノッサは、反射的にノヴァルナに振り向く。その視線の先にいた自分の主君は、いつもの不敵な笑みを、いつも以上に大きくしていた。

「ミノネリラに帰ったら、軍の編制を大きく変える! 約束通り、てめーにも基幹艦隊を一つ、くれてやる!」

 ポカンと口を開けるキノッサ。今回の重要任務成功の褒美である、基幹艦隊司令官の地位が、こんな軽いタイミングで確約されるとは、思ってもみなかったのだ。キノッサの表情を見たノヴァルナが、からかって尋ねる。

「なんだその顔、いらねーの?」

「いえいえいえいえいえいえいえ!!!!」

 慌てて首を振るキノッサに、ノヴァルナは「アッハハハハハ!!」と高笑い。この瞬間、基幹艦隊司令官トゥ・キーツ=キノッサが誕生したのであった。



だがそれと同時に、ノヴァルナにとってさらなる激動の日々が、ここから始まったのである………





【第13話につづく】
 
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