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第13話:新たなる脅威
#05
しおりを挟むキノッサからの激励に「はい!」と強く応じるフェルデーサ。そこにモニター表示される模擬戦開始の合図。スロットルを開く双方の『シデン・カイXS』。全周囲モニターに流れる星の海の中で、フェルデーサは自分に言い聞かせた。
“落ち着け、あたし!”
次の刹那、近接警戒センサーが瞬時にマーディン機の接近を告げる。まるで稲妻のような機動だ。相手はベテラン、先手を取られて当然!…と自分に言い聞かせ、あえて小さくコースを変える。そのコース変更は小刻みに行うのが肝要。相手との距離の数値確認も怠ってはいけない。
“24…23…22…今!!”
距離を詰めて来るマーディン機との間合いを、実数値で読み取ったフェルデーサは、タイミングを見計らって、左右の操縦桿を一気に前後させた。最大限の素早さで機体を翻すフェルデーサの『シデン・カイXS』。その眼前には超電磁ライフルを構えた、マーディンの機体。フェルデーサの『シデン・カイXS』も、すでに超電磁ライフルを構えている。しかし―――
“駄目! これじゃ勝てない!”
瞬時に判断し、トリガーは引かずに機体に捻り込みをかけるフェルデーサ。その右のショルダーアーマーに、先手を打ったマーディンが放ったペイント弾が、青い塗料の筋を描く。コンピューターの判定は、“右肩の装甲を掠めただけで、戦闘の続行は可能”だ。体勢を立て直してライフルを撃つ。だがそこには、当然のようにマーディンの機体は無い。
しかしその一方で、このフェルデーサの一連の行動は、マーディンを頷かせるものであった。キノッサの言う通り、緊張していたのが解けてきたのだろう。俊敏さが増した上に、相手の動きに対する読みも悪くない。
「そう来なくては、面白くないからな」
微笑と共に呟いたトゥ・シェイ=マーディンは、『シデン・カイXS』を再加速させ、フェルデーサ機の頭上を取りにかかった。BSIユニットの頭上方向は、人型機動兵器に乗り慣れていない人間にとって、弱点となり得る位置取りである。
“馬鹿にして!”
マーディン機の行動を見て一瞬、腹を立てたフェルデーサだったが、すぐに“これは挑発も兼ねた動きだ”と思い直して、気持ちを鎮める。そんな事より迎撃だ。超電磁ライフルを構えて機体を縦方向へ半回転。マーディン機の未来予測位置へ、ペイント弾を扇状にバラ撒く。しかし相手には掠りもしない。むしろ眼にも留まらぬ超高速機動を行いながら、反撃の銃弾を放って来る。
「!!!!」
息を吞んで咄嗟に回避行動を取るフェルデーサ。機体の右太腿と左の二の腕に、掠めたペイント弾が一本ずつ、僅かに青い筋を引いた。
カウンターの銃撃がフェルデーサの機体表面を二発、微かに掠めただけなのを見たマーディンは、「ほう…」と感嘆の声を漏らす。
親衛隊仕様のBSIユニットは将官用のBSHOほどではないが、サイバーリンク深度は量産型より高く、人型機体の姿勢制御については、パイロットの“感覚”の鋭さがものを言う。つまり相手が手応えを感じたはずの攻撃を、紙一重で回避する事が出来る“感覚”だ。今の二発はマーディンにすれば―――
二発とも喰らうのは、並みのパイロット。
どちらか一発を躱して、もう一発を喰らうのは上級パイロット。
二発とも躱すのは、BSHO適性の高いエースパイロット。
という意味を含んだ必殺のカウンター攻撃であり、咄嗟の判断でありながら、二発の銃弾の僅かな隙間に、紙一重で機体を滑り込ませたフェルデーサの、秘めた資質が垣間見えた一瞬だった。
“よかろうキノッサ。おまえの人を見る眼を、認めてやろう!”
笑みを浮かべたマーディンは、牽制射撃を一連射行うとライフルの弾倉を交換、バラ撒かれた銃弾の回避に速度を落としたフェルデーサに対し、猛然と追い込みを仕掛ける。
直線的な動きの多いマーディンの追い込み。狙撃のチャンス!…と考え、フェルデーサはライフルを構えようとしたが、次の瞬間、閃いた。
“罠だわ!!”
操縦桿のトリガーボタンに添わせた親指を離し、機体を翻すと、最大加速で退避行動に移る。マーディンの狙いが銃撃戦ではなく、ギリギリの回避を繰り返して接近した上での、ポジトロンパイクやクァンタムブレードによる格闘戦に持ち込むのが、目的だと見抜いたからだ。
格闘戦なら自分も腕に自信があるフェルデーサだったが、それゆえに先手を取られる不利を理解しての、ここは逃げの一手である。
“正解だ。しかし、ここからどうする?”
距離を取ろうと引き離しにかかるフェルデーサ機を、マーディンは眼を細めて追撃する。どこか愉悦の感情が漂うのは『ホロウシュ』筆頭だった頃に、ノヴァルナが連れて来た新生『ホロウシュ』の若者達を、ラン・マリュウ=フォレスタや、ナルマルザ=ササーラ、ヨヴェ=カージェスと共に教育係として鍛え上げた日々を、思い出したからだ。
人を育てるという事は、自分自身を育てるという事にもなる。海のものとも山のものとも知れない荒くれ者の彼らを、『ホロウシュ』に相応しい戦士に育て上げた日々が、自分自身の成長の糧となったのであるから、その頃を思い出させるフェルデーサに対し、マーディンの感慨もひとしおだった。
▶#06につづく
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