334 / 526
第13話:新たなる脅威
#11
しおりを挟む同時刻:ヤヴァルト宙域、ヤヴァルト星系外縁部―――
迎撃に出て来た皇国軍星系防衛艦隊を撃退した、“ミョルジ三人衆”は意気軒昂であった。
バイオノイドの偽星帥皇エルヴィス・サーマッド=アスルーガを失い、ウォーダ軍に圧倒されて、元の領地アーワーガ宙域へ撤退。皇国支配の野心は潰えたかのように見えた。
しかし彼等はアーワーガ宙域で、早期の戦力の立て直しに成功。ウォーダ軍が自分の領地に引き上げ、ヤーマト宙域の半国を支配する、裏切者のヒルザード・ダーン・ジョウ=マツァルナルガもミノネリラへ出向き、皇都の守りが手薄になっているこの時期を狙い、前年の12月24日に皇都襲撃の艦隊九個を出撃させたのだ。
その最終目標は、実力行使で星帥皇室を廃止させ。星帥皇ジョシュアを支配下に収め、単なるNNLシステム制御の鍵として扱う事であり、旧当主ナーグ・ヨッグ=ミョルジが、長期計画で徐々に行う計画であったものを、一気に進めてしまおうとするものだった。
「敵星系防衛艦隊、第九惑星公転軌道まで後退。さらに遠ざかって行く模様」
ミョルジ家第1艦隊を直卒する総旗艦『シンヨウ』の艦橋で、艦隊参謀の報告に頷くナーガス=ミョルジ。“三人衆”筆頭、六十代の小柄な男だ。司令官席に座るこの男の前方には、右側に第2艦隊を率いるソーン=ミョルジ、左側に第3艦隊を率いるトゥールス=イヴァーネルの、残る二人の等身大ホログラムが映し出されていた。
「こちらの損害は軽微。上手くいったようだな」
ニタリと笑みを零すソーンの言葉に、イヴァーネルのホログラムも頷くが、注意喚起は忘れない。
「ああ。だが今の相手は皇国直轄軍の残存戦力を、寄せ集めただけの部隊だ。次はウォーダ家の正規軍が出て来るだろう。油断は禁物だぞ」
イヴァーネルは“三人衆”の中で一番、戦術センスに優れており、“惑星ショーリュジンの戦い”では、ウォーダ艦隊に善戦していた。その男の発言にナーガスも同意する。
「分かっている。星帥皇室への謀叛人の我等は、NNLもローカルモードしか使えんからな。慎重に行くべきところと、大胆に出るところの見極めが肝要だ」
するとそこにオペレーターが、第9艦隊からの意見具申を伝える。
「第9艦隊から、敵星系防衛艦隊を追撃し、戦果の拡大を図るべきだと、言って来ております」
これを聞いてイヴァーネルのホログラムが苦笑いを浮かべる。
「第9艦隊…あの男か。ウォーダ家憎しの気持ちも、分からんではないが…」
さらに失笑を交えてソーン=ミョルジが、第9艦隊の司令官の名を口にした。
「オルグターツ=イースキー…意気は買うが」
そのミョルジ家第9艦隊は、ヤヴァルト宙域進攻軍の左翼最外縁を、高速で進撃していた。
艦隊旗艦は航宙戦艦『ダーガット・ロア』。“航宙戦艦”とは、BSIユニットを軽空母並みの三十機前後搭載できる珍しい艦種で、通常の宇宙戦艦よりは砲戦能力に劣るものの、同型艦を一つの艦隊に複数配備する事により、機動兵器戦にも対応する利点がある。
そしてその『ダーガット・ロア』の司令官席に座るのが、オルグターツ=イースキー。一年前までミノネリラ宙域を支配していた、イースキー家の当主だ。
「総旗艦『シンヨウ』より返信。“突出した追撃戦は必要を認めず。全艦隊は隊列を維持し、このままキヨウへ向かうものなり”との事です」
通信参謀の報告を受け、オルグターツは「ふん…」と鼻を鳴らした。
「まァあ…仕方あるまい。なァ、総参謀長ォ?」
そう言って司令官席の左側に立つ総参謀長を見上げるのは、巻き舌気味のイントネーションと、小太り体系から、やはりあのオルグターツだと知れる。
「なにぶんオルグターツ様は、客将の御身にあらせられますから…ここは、我々の士気の高さを示すだけでも、充分でしょう」
穏やかな口調で応じる総参謀長は、トモス・ハート=ナーガイ。一年前にノヴァルナに敗れたオルグターツが、ミノネリラ宙域から追放された際に同行した、ただ一人のイースキー家の武将だ。
「そォだな。おまえのォ、言う通りだァ」
納得顔で頷くオルグターツ。口調こそ以前のままだが、その眼はかつての放蕩三昧の毎日で、酒とドラッグの影響による、死んだ魚の眼同然であった頃とは打って変わり、鋭い光を宿していた。さらにトモスが、自分達の為すべき事を告げる。
「おそらくこのあと現れるであろう、ウォーダ軍の迎撃部隊を早々に撃破。星帥皇ジョシュア陛下を人質にし、キヨウを制圧する事が第一にございます」
「わァかってるさァ。そォして、ノヴァルナが出て来たら、これを討つゥ…そォだなァ? トモス」
「御意にございます。万一ノヴァルナ公の軍が、今すぐミノネリラ宙域を出撃したとしても、このヤヴァルト星系へ到着するには、十日はかかりましょう。それまでにキヨウを制圧し、迎撃体制を整えるのです」
「あァ、そォだ。頼りにしているぞォ、トモス総参謀長よォ」
そう応じて戦術状況ホログラムを見据えるオルグターツの表情は、明らかに武将の顔をしていた………
▶#12につづく
0
あなたにおすすめの小説
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる