銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第13話:新たなる脅威

#25

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 ジョシュアの言う“覚悟はできている”の程度までは不明だが、しどろもどろな反応を見る限り、ジョシュア自身が思っているほど、死の覚悟など出来てはいないのが一目瞭然であった。いわゆる、“戦場のロマンチシズム”だ。

 星帥皇である自分が、自ら宇宙戦艦に乗って戦場で敵を覆滅する。星大名にとっては当たり前の戦い方であり、戦いの現実を知らない者であれば、華美な印象さえ受けるであろう。だがそれは、テレビの中で他国同士の戦争を見ているのと大差ない。言ってしまえば、絵空事と同じである。ノヴァルナが総旗艦『ヒテン』に乗り込む時の想いや、テルーザが『ライオウXX』の操縦桿を握る時の覚悟とは、全く別の意識なのだ。

 そして冷厳な現実を突きつけたのは、意外にも上級貴族筆頭バルガット・ヅカーサ=セッツァーだった。表情こそ穏やかなままだが、開かれた口から出る言葉に、詰る響きを感じさせる。

「陛下…陛下のお覚悟はご立派だと思いまするが、テルーザ陛下は実際に、戦場へお出になられて討ち死になされたのですぞ。陛下は本当に、同じ道を辿られるやも知れぬという事に、お覚悟がございますのでしょうか?」

「もっ!…勿論じゃ!」

 身を竦ませながらも言い張るジョシュア。セッツァーは「なるほど…」と応じ、さらに現実を突きつける。

「お覚悟は承りましたが、陛下はもし討ち死になされた場合、あとに残される民草の事は、お考えになられておられますでしょうか?」

 当然ながらその場の思い付きで発言したジョシュアに、そこまで頭を回しているはずがなかった。

「なに…民草のこと?」

「さようです。星帥皇陛下のお役目はNNLシステムを制御され、この銀河皇国すべての民の暮らしを守り、豊かにする事に尽きまする。まことに不敬な申し方なれどテルーザ陛下は、これをご軽視なされ戦場にて亡くなられました。その結果、皇国の政治はさらに乱れました」

「む…」

「ですが、それでも皇国にはジョシュア陛下がおられました。陛下が上洛を果たされ、新たな星帥皇となられた事で、その混乱も落ち着こうとしております。然るにここで万が一、陛下を失う事態にでもなれば、もはやあとを継いで頂く方は居られなくなります…ジョシュア陛下は我ら皇国臣民にとって、最後の希望なのでございます」

 この辺りは政治折衝に長けた、セッツァーの老獪さであった。些かわざとらしく聞こえる“最後の希望”という言葉だが、流されやすい性格のジョシュアには、充分響くものだったらしい。「余が…皇国の最後の希望…」と呟いて思案顔になる。
 
 単純なものだ。セッツァーが口にした“皇国の最後の希望”という言葉に、ジョシュアは新たなロマンチシズムを見出したらしい。

「余が、皇国の最後の希望と…そうか、そうなのだな」

 うつむき加減で呟くジョシュアは、まるで自分で独自の方程式を組み、そこから導き出された答えに納得したような表情になる。

 つまりは今しがたの“覚悟”というのも含め、自分が特別な存在である事への承認欲求の衝動が、ジョシュアを動かしていたという事だ。
 これには星帥皇となって約半年が経ったジョシュアの、自分に対する焦りが原因となっていた。自分の星帥皇としての、存在感の薄さに対する焦りである。

 兄テルーザが星帥皇となり、当時はまだミョルジ家に仕えていた、ヒルザード・ダーン・ジョウ=マツァルナルガの庇護のもと、好きなだけ考古学の研究に浸っていた生活が一夜にして激変。今や銀河皇国の頂点に立つ身となったジョシュアだったが、本当に自分が星帥皇に足る人間であるのかを、常日頃から不安に感じていたのだ。言ってしまえば、自分という人間への承認欲求が全てだった。

 セッツァーはさらに説得の言葉を述べる。

「今は皇国全体が混乱のさなかにあって、揺らいでいる時。闇に怯える民衆にとって、陛下がおわすは彼等を導く、道標の灯でございます。何卒、ご自分のお命を軽んじなきよう…」

「ふーむ…」

 一応、考え込んでは見せるものの、ジョシュアの胸の内は決まっていた。少し間を置いて勿体ぶった演技を入れ、仕方なく…といった調子で、「相分かった」と頷きながらセッツァーの上奏を受け入れる。「お聞き入れ頂き、ありがとうございます」と深くお辞儀をするセッツァーは無論、心の中で舌を出していた。海千山千のこの男からすれば、ジョシュアのような世間知らずの青二才など、チョロいものである。

「いや、余も早計であった。余には墓にもっと、やるべき事がある。一時の気持ちの昂ぶりから、それを忘れるところであった。セッツァーよ、感謝する」

 礼と称賛の言葉を告げるジョシュア。当然ながらセッツァー当人の思惑は、別のところにあるのだが、結果だけを見ると、素人のジョシュアに最前線まで出て来られて、無謀な陣頭指揮を執られるよりかは、遥かにマシな話だ。

 セッツァーは「勿体なきお言葉」と感謝の意をジョシュアに伝え、「では早々に皇都ご退去のご用意を」と続けた………




▶#26につづく
 
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