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第13話:新たなる脅威
#29
しおりを挟むそして当のノヴァルナは、煽り口上を言い放つと表情を一変させ、落ち着いた顔で『ヒテン』の司令官席に腰を下ろしている。無理もない、ウォーダ軍第1艦隊はヤヴァルト星系最外縁部に到達したばかりであり、戦場となっている第六惑星近郊の、カトーラ・ガーヴァ小惑星帯までは相対位置から、到着まではまだ七時間あまり掛かるのだ。
だが戦術状況ホログラムにリアルタイムで送られてくる、戦場の状況を映し出したグラフィックは、目まぐるしく動き始めていた。今のノヴァルナの煽り口上で、三人衆の全艦隊が小惑星帯から離脱を開始しており、これに対してアーザイル軍とヨゼフ・サキュダウ=ミョルジの艦隊が突撃。さらにミディルツらのウォーダ軍残存部隊も前進を始めている。ノヴァルナ一人の登場が、戦局を決定づけたと言っていいだろう。
ここでの“三人衆軍”の後退は、そのままヤヴァルト星系から逃走する可能性が高く、皇都攻略を諦めた事を示している。つまりはノヴァルナの仕事は、ここまで来ただけで、事実上もう終わり…と、いうわけだ。
戦術状況ホログラムで戦場の動きを確認したノヴァルナは、NNLを使って司令官席の手許にもう一枚、小ぶりなホログラムスクリーンを立ち上げる。自分の率いて来た臨時艦隊の、編成表のようである。幾つかの艦名が赤く表示されて、簡単なデータが併記されていた。これを見たノヴァルナは、「だいたい二割…ってところか」と呟き、顔を上げて艦隊参謀に声を掛ける。
「艦隊参謀」
「はっ!」
振り返って背筋を伸ばす艦隊参謀に、ノヴァルナは艦隊編成表のホログラムスクリーンを、指さしながら問い掛けた。
「ここまでの行程で脱落した艦に、死傷者は出てないよな?」
総勢僅か十隻でバサラナルムを発進したノヴァルナの臨時艦隊だが、途中のオウ・ルミル宙域で現地の駐留軍から増援を受け、数だけは六十八隻まで揃えられている。
「はい。脱落した十八隻すべて、乗員は無事です」
「そいつは何より」
頷くノヴァルナ。そこに声を掛けて来たのは、『ヒテン』に同乗して来た、ヒルザード・ダーン・ジョウ=マツァルナルガだ。
「どうやら、うちの艦隊を呼び寄せるまでも、無いようですなぁ」
ヒルザードはヤヴァルト宙域に隣接する、ヤーマト宙域にある自領から艦隊を出動させており、戦況によってはノヴァルナの臨時艦隊に合流させるつもりで、『ヒテン』に同乗させてもらっていたのだ。ヒルザードの言葉にノヴァルナは、不敵な笑みを浮かべて応じる。
「ま、いいんじゃね? 今をときめくウォーダ家の総旗艦を、タクシー代わりにしてヤーマトへ帰ったって、贅沢な土産話になったろ」
対するヒルザードは、「ハッハッハッ…」と笑い声を上げ、恭しくノヴァルナに一礼して、些か芝居じみた口調で告げた。
「それにしても、此度のノヴァルナ様のキヨウへの移動手段。流石のこのヒルザードも、ほとほと感服致しましたぞ」
同じ時刻、ミノネリラ宙域のノヴァルナの本拠地、ギーフィー城ではトゥ・キーツ=キノッサが、今回の短期間でノヴァルナの艦隊がキヨウへ向かえた、その種明かしをしていた。相手は軍師のデュバル・ハーヴェン=ティカナックである。不治の病に冒されているハーヴェンは、年末辺りから体調が崩れ、続けていた治療が終わって復帰して来ていたのだ。もっとも治療と言っても、完治させるためではなく、延命治療の類だが…
「なるほど。DFドライヴブースターの、集中使用ですか」
キノッサとハーヴェンがいるのは、彼等第36艦隊旗艦『ヴェルセイド』の、将官用食堂だ。艦隊演習の合間の昼食時間の会話である。
将官用食堂での昼食と聞けば、昼間からいいものを食べているようなイメージだが、病み上がりのハーヴェンは魚介類のリゾットのみ。そしてキノッサはなんと、即席麵のカップヌードン赤ミーソ味と、ひどく質素で庶民的過ぎであった。キノッサはスープとよく絡まった麺を、勢いよく啜り上げて飲み下し、ハーヴェンの言葉に応じる。
「そうッス。今回は試験的なもんも、兼ねてたんスけどね」
ノヴァルナが今回、キヨウへの急行に使用したのは、準恒星間貨物船などが使用している、“恒星間航行用DFドライヴブースター”であった。
これは超空間ゲートが設置されていない植民星系などへ、恒星間航行能力を持たない宇宙船が向かう際、外殻に取り付けてDFドライヴを行えるようにする、大型ブースターだ。
DFドライヴブースターは恒星間航行宇宙船が搭載している、DFドライヴシステムより大型である分、長距離の超空間転移が可能となっており、艦船搭載式のシステムが一度の転移で、百三十光年の距離を転移するのに対し、DFドライヴブースターなら二百十光年の距離を転移できる。
ノヴァルナは、本拠地惑星バサラナルムがある、ミノネリラ星系最外縁部から、皇都惑星キヨウのある、ヤヴァルト星系最外縁部までの間に位置する、多くの植民星系の約二百光年ごとに、このDFドライヴブースターを大量に徴用して、それぞれの外縁部に配置していた。
その数は一つの星系につき約八十基、ほぼ基幹艦隊一個分であり、今回の僅か三日間弱でヤヴァルト星系に到着出来たのは、この並べたDFドライヴブースターをリレー方式で連続使用し、次の星系に到着した臨時艦隊は、その星系に配置されていたブースターに付け替えて、さらに超空間転移を行う事を、繰り返した結果だったのである。
▶#30につづく
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