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第13話:新たなる脅威
#30
しおりを挟む宇宙艦に搭載したDFドライヴでは、一度超空間転移を行うと、次の転移に必要な重力子のチャージを完了するまで、約八時間が必要となる。
だがこのDFドライヴブースターの付け替え方式ならば、その八時間のチャージ時間が、ブースターの脱着作業の約一時間に短縮する事が可能となり、超空間ゲートの連続使用と、ほぼ同じ効果を得る事が出来るという訳だ。
これは以前からノヴァルナの構想にあったもので、ジョシュアの上洛を果たした際に、ノヴァルナは功績の褒美として、星帥皇室特権であったミノネリラ星系からヤヴァルト星系までの、超空間ゲートの使用権の分与を求めて上級貴族から難色を示されたのだが、その一方ですでに、これの準備を進めていたのである。
そしてキヨウからバサラナルムへ帰る前に一度、両宙域の間にあるオウ・ルミル宙域などを巡察して回った事があったのも、このDFドライヴブースターの配置のためだった。
ただしあくまでもこのDFドライヴブースターの配置は、ノヴァルナが構想した新機軸の“超空間リレー転移”の、試験運用のためであった。したがって徴用したブースターも民間企業のもので、比較的大型の貨物船用に造られた商用品である。
無論、民間用とはいえ様々な形状の宇宙船に対応できる、フレキシブル性の高いブースターだが、統一規格品ではなかったため、艦隊の統制DFドライヴに支障をきたし、臨時艦隊の約二割がヤヴァルト星系までの行程で脱落。宇宙を漂流する事となった。それでも逆に考えれば、メーカーや規格の違うブースターでも、およそ八割が統制DFドライヴを出来たのであるから、初めての実用実験という面からすれば、大成功と言っていいだろう。
これらをハーヴェンに説明したキノッサは、改めてノヴァルナの凄さについて、感じ入った様子で言及した。
「いやぁ。やっぱ流石ッスよ、ノヴァルナ様は。今回は民間のブースターを使ったんスが、将来的には軍事転用を前提にしたDFドライヴブースターを、民間企業で量産して、支配圏の各星系外縁部に配置するつもりらしいッス」
「ほう…」
「ノヴァルナ様の話では、実はこの二百光年ごとにブースターを置いて、リレー方式で時間をショートカットするやり方は、民間の恒星間運輸企業が、ウラ技でやってたもんだそうッス。それをノヴァルナ様の御父君のヒディラス様が、ナグヤ家支配下の恒星間運輸業界全体に、正式な輸送方式として奨励されたとか」
「なるほど。ヒディラス様がご当主だった頃、ナグヤ家が勢力を大きく伸ばしたのは、流通業界の改革が要因と聞き及んでおりましたが、そういう事でしたか」
キノッサの言葉に納得顔で頷くハーヴェン。
ノヴァルナの父ヒディラス・ダン=ウォーダは生前、領有する植民惑星間の流通改革によって、当主だったナグヤ=ウォーダ家の家勢を急速に拡大し、キオ・スー家とイル・ワークラン家の、二つのウォーダ一族宗家と肩を並べるほどに、成長させた。
その改革の目玉となったのが、このリレー方式の輸送手段で、超空間ゲートを持たない植民星系との交易に要する時間を、大幅に短縮する事だったのである。そしてノヴァルナはブースターを集中使用する事で、宇宙艦隊を短時間で長距離移動させる事に応用したのだ。
無論これは、自軍の勢力圏内のみで可能な移送方法だが、例えば最前線で大規模な増援が必要となった場合、後方や他の戦線から追加の艦隊を、短時間で派遣出来るようになる。
昨年の11月の艦隊大改編で、ノヴァルナ直卒の第1艦隊を筆頭とした、九個艦隊からなる“中央集団”が新たに編成されたのも、このリレー方式で臨機応変に戦場へ向かう事を、念頭に置いたものだ。
これらの事項に対し、ハーヴェンは思案顔で意見を述べる。
「確かに壮大な話ではありますが、専用のブースターを製作するとなると、何千基もの量産が必要となりますね。どれほどの予算が必要となるか…」
「軍師どのの言いたい事も分かるッス。ノヴァルナ様も仰ってたッスよ、“こいつは、金持ちの道楽みてぇなもんだ”と」
なるほどノヴァルナの構想を完全に実現しようとするなら、途方もないコストがかかって来る。つまり“金持ち”―――広大な支配宙域と、そこから生み出される高い経済力を持った、星大名にしか出来ない事だ。
そして今のウォーダ家には、それを実現するだけの力が備わりつつあった。従来の領域であるオ・ワーリ宙域は元々、高い経済力を持った宙域であり、ここにミノネリラ宙域とオウ・ルミル宙域の一部を加え、経済力を整えれば、戦国有数の大勢力となるだろう。そうなると何年後かには、数千基のDFドライヴブースターを揃える事も、可能となるはずであった。
「それにノヴァルナ様は、このブースターの大量建造で、領域の経済を回す事も考えておられるッス。しかも建造だけでなく、平時はブースターを民間企業に安価で貸し出して、恒星間交易をさらに活性化させるおつもりッスよ。もうすぐミ・ガーワとの、自由交易協定も締結されるッスから、美味しい話だらけッス」
オ・ワーリ宙域の隣国、トクルガル家が支配するミ・ガーワ宙域とはこの春、関税を撤廃した自由交易協定が発効する予定となっている。そうなればこの“超空間リレー転移”輸送は、大いに活用される事が期待できる。
またノヴァルナが、オウ・ルミル宙域のアデューティス星系に、新たな本拠地となる城を建設しようとしているのも、キヨウのあるヤヴァルト星系との間で、“超空間リレー転移”システムを最優先、かつ早期に完成させるためである。
これは皇都で急変が起きた場合、大部隊で即時に駆け付ける事を目的としたもので、建設が始まったアデューティス城も、ミノネリラ宙域のギーフィー城より皇都に近い。この新城からであればキヨウには一日もあれば到着できる。その一方で、キヨウそのものを本拠地としないのは、万が一ウォーダ家の本拠地にまで敵が侵攻して来た時、キヨウを戦火に巻き込まずに済むからだ。
技術的には全くの新機軸という訳ではなく、従来技術の使用について発想の転換を行ったものであるが、新しい技術ではないぶん信頼性は高く、数的条件が整えばすぐにでも運用を開始出来るのが強みである。
「それに領域内でなくても、進軍路の二百光年ごとにブースターを置いていけば、領域外への長距離遠征にも応用できるッス」
キノッサはそう言って、自分なりの考え方を述べた。
「例えば、遠征先への緊急増援や、逆に遠征先からの即時撤収で、一気にこちらの領域まで戻って来られるようになるッスよ」
これを聞いたハーヴェンは、「そうですね」と頷いて言葉を返す。
「しかしブースターも重力子チャージに、時間はかかります。最前線に到着してみたら、優勢な敵に包囲されていた…というような状況だった場合は、即時撤収は無理となりますが」
そう言われてキノッサは、苦笑いを浮かべながら応じた。
「いやぁ~…その時は、チャージが完了するまでの八時間ほど、根性で頑張るしかないっショ」
苦しい打開策に「ハッハッハッ…」と、静かな笑い声を漏らすハーヴェン。しかしこの時口にした、遠征先からの即時撤収というブースターの使用方法の思い付きが、“銀河大返し”として後世に語り継がれる、キノッサの運命の大転換点となるのである。
ただそれは未来の話であり、来たる自分の運命を知る由もない今のキノッサは、笑いを収めたハーヴェンが不意に、表情を曇らせた事が気になっていた。
「どうかしたッスか? 軍師どの。まさかどこか具合が…」
体の事を気遣って来るキノッサに、「いいえ。ありがとうございます」と礼を返したハーヴェンは、少し考える眼をして言葉を続ける。
「“超空間リレー転移”…確かに革新的ではありますが、革新には抵抗勢力がつきものにて。私の思い過ごしであればいいのですが…」
▶#31につづく
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