銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第13話:新たなる脅威

#31

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 皇国歴1564年1月9日。“三人衆軍”をヤヴァルト星系から撃退したノヴァルナは、キヨウの中央行政府『ゴーショ・ウルム』に参内し、星帥皇ジョシュア・キーラレイ=アスルーガに拝謁した。新年早々“三人衆軍”のキヨウ侵攻を許し、星帥皇の宸襟しんきんを騒がせた事に対する、謝罪のためである。

 ジョシュアからは救援に対する感謝の言葉が述べられ、バルガット・ヅカーサ=セッツァーをはじめとする上級貴族達からは、称賛の言葉が相次ぎ、ノヴァルナとその軍に対する批判の言葉は一つもなかった。

 ただ、対するノヴァルナ自身の思いは…“下らねぇ”に尽きる。

 ノヴァルナは複数の情報筋から、自分の軍やタクンダール軍が、必死に防衛戦を繰り広げている間に、ジョシュアが独断で出陣しようとしたり、上級貴族達がそのジョシュアを連れ、皇都から逃げ出す準備を進めていた事を、拝謁前に知っていたからだ。

 そして大人の対応・・・・・で拝謁を乗り切ったノヴァルナは、一方で皇都を守りきった家臣やタクンダール家の武将、さらにノヴァルナ自身以上に、押っ取り刀て駆けつけて来たナギ・マーサス=アーザイル達への激賞は忘れなかった。総旗艦『ヒテン』へ招いた彼等の前で、ノヴァルナは真摯な態度で頭を下げ、きちんと感謝の言葉を述べたのである。

 こういう時のノヴァルナは、本来の姿を隠す事はない。まず「苦労をさせて、申し訳なかった」と告げ、「このノヴァルナ。諸氏とその将兵の一人一人に、深く感謝する」と続けた。
 これに相手も感じ入らないはずがない。何よりノヴァルナ自身が、寄せ集めの戦力で取るものも取り合えず、思いも寄らぬ早さで駆けつけて来たからだ。無論、皇都を守った彼等に、相応の報償があったのは当然であった。

 それにつけても忘れてならないのは、“ミョルジ三人衆”がこれだけ早く、戦力を立て直してヤヴァルト星系へ侵攻してきた事実である。これはさしものノヴァルナも、予期しない出来事だった。
 特に気になるのが財政面だ。今回のように九個もの基幹艦隊を、アーワーガ宙域からヤヴァルト宙域まで遠征させるには、膨大な予算が必要となるはずだ。数ヵ月前にヤヴァルト宙域から、アーワーガ宙域へ撤退したばかりの三人衆に、それだけの経済的理由はないはずで、そうであるからノヴァルナも、ウォーダ軍の大半をミノネリラ宙域へ帰還させたのである。

 だが三人衆がヤヴァルト宙域に襲来した事は、紛れもない事実だ。ノヴァルナは即座に諜報局へ、三人衆のキヨウ侵攻の裏側にあるものを探り出すよう、命じたのであった。
 
 そしてこの時、『ゴーショ・ウルム』内部では、デュバル・ハーヴェン=ティカナックが、ノヴァルナの新機軸“超空間リレー転移”に対して抱いた懸念が、早くも現実のものになろうとしていた………



 照明を抑えた小会議室の一つ、円形の大きなテーブルを囲んで席についているのは、バルガット・ヅカーサ=セッツァーを筆頭とした十二人の上級貴族。ホログラムのコントロールパネルを兼ねた円形テーブルは、それ自体が青色の淡い光を放っていて、上級貴族達の顔を下から照らし出している。

 その円形テーブルの中央部では、ウォーダ家から入手した“超空間リレー転移”構想の概要が、ドキュメントやグラフなどでホログラム表示されている。十二人の上級貴族は個々にその概要を読み解いていた。

「“超空間リレー転移”…ゲートを必要としない、長距離短時間移送だと…」

 やがて男性上級貴族の一人が顔を上げて唸るように言うと、別の一人が「まったく、ふざけた真似を…」と忌々しげに続く。さらに女性上級貴族の一人が、眉をひそめて告げた。

「このまま拡大実用化されて、民間にまで開放されたりしたら、ゲートの権益が損なわれてしまうわ」

 ノヴァルナとその直卒艦隊が僅か二日余りで、ミノネリラ宙域からここまで急行して来た事―――それが、キヨウ侵攻を目論んでいた、“ミョルジ三人衆”の敗北と逃走を決定づけた。
 ところがそれでありながら上級貴族達は、ノヴァルナへ感謝の言葉を述べたその舌の根も乾かぬうちに、自分達の大きな既得権益の一つ、超空間ゲートから得られる使用料が、将来的に減少する可能性を案じ始めている。超空間ゲートの独占管理は、NNLシステムの独占管理と並ぶ、星帥皇室と上級貴族のみに与えられている特権だからである。

 しかしセッツァーが指摘したのはそこではなかった。

「無論、それは由々しき事態だが…それより大きな問題がある」

 強めの口調で言うセッツァーに、上級貴族達の耳目が集まる。彼等をひとわたり見回し、問題の中身を告げるセッツァー。

「これが稼働すると、あのウォーダの若造は僅か二日…いや、アデューティス星系に建設を始めた新たな城が完成すれば、一日で大艦隊をここへ送り込む事が、可能となる」

 すると一人の上級貴族が、「皇都防衛には都合がよろしいのでは?」と尋ねる。これに対してセッツァーは、その上級貴族に嘲笑めいた笑いを向けた。そして吐き捨てるように言う。

「あ奴が、我等の味方であるならな」

 そこで上級貴族達は星帥皇室や自分達が、ノヴァルナの人質同然となった事に気付き、一様に視線を泳がし始めた。そんな彼等を眺めて独り言ちるセッツァー。



「“銀河布武”をうそぶくノヴァルナ・ダン=ウォーダ。我が銀河皇国にとってミョルジ家以上の、新たなる脅威になるやもしれぬな………」





【第14話につづく】
 
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