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第15話:カノン・ガルザック撤退戦
#04
しおりを挟む方針が決まれば、動き出すのも早いのがウォーダ家の武将達である。撤退が決定した直後から、全スタッフが最後の突撃から切り替えて、主君ノヴァルナを最優先に、なるべく多くの兵が生き延びられる道を、知恵を絞って探り始める。それはホログラムで会議に参加している、各艦隊司令の武将だけではない。生身の彼等が乗る各艦隊旗艦の、参謀や担当士官達も議論を活発にしていた。
「超空間ゲートの使用は、危険だろうな?」
「ああ。ゲート自体を破壊する事は流石に無いだろうが、出口側に待ち構えている可能性は高い」
「じゃあ別の航路だな。すぐに幾つか候補を出せ!」
「この針路で、こう…そして、こうならどうだ?」
「いや駄目だ。この星系にはアザン・グランの宇宙要塞があって、駐留艦隊もいたはずだ。たぶん哨戒網に引っ掛かるぞ」
「なら、察知される事を前提で、艦隊を幾つかに分けて囮を作るか?」
「待った。それが裏目に出ると、各個撃破のいい餌になるだけだ」
「うーん…敵中に入り込み過ぎてるのが痛いな。多重防御陣をするにしても、厚みが足りなくなる」
「やはり“総崩れ”に見せ掛けて、相互支援しながら撤退しかないか」
自分の艦隊から上げられて来る提案も踏まえて、シルバータやマーディンが意見を交わす中、中座していたヒルザード・ダーン・ジョウ=マツァルナルガが戻って来て、ノヴァルナの隣に着席。「発言を宜しいですかな?」と言いながら、右手を軽く挙げた。一時的に静寂が広がる会議室に、ヒルザードの言葉が響く。
「今、この艦に拘留している城主の、カーティスに問うて来たのですが、どうやら彼は、アーザイル家との連携作戦については、何も知らされておらぬようです」
「なに?」とノヴァルナ。
「そのような事があるのか?」とシルバータ。
アザン・グラン家とアーザイル家による挟撃作戦。その要となるのが『カノン・ガルザック』宇宙城であり、ノヴァルナの遠征部隊を引き付けておくのが、役目であるはずだった。その宇宙城の城主が、挟撃作戦の事を知らないなど有り得るであろうか? その疑念を口にするシルバータ。
だが、アザン・グラン家の内情に詳しいヒルザードからすれば、“有る”のだという。アザン・グラン家当主ウィンゲートと城主カーティスの間の軋轢は、それほどまでに根深いものであるらしい。
「て事は、この先でアザン・グラン家の艦隊がまだ集結中なのは、今の状況が連中にとって想定外の可能性があるわけか?」
ノヴァルナの言葉にヒルザードは「さようです」と応じる。ギラリと輝くノヴァルナの双眸。
敵が自ら生じさせた隙を見逃さないのが、戦場にいる時のノヴァルナである。嗅覚といってもいい。撤退作戦の中身を議論していた武将達に、強い口調で告げる。
「みんな、取り敢えず逃げっぞ! コースを決めるのはそれからでいい。逃げる艦隊は、一時間で出航態勢を完了しろ。急げ!!」
そう言ってノヴァルナは両手を一つ、パーン!と大きく打ち鳴らした。「御意」と応じて席を立つところで、等身大ホログラムの武将達は次々と消えてゆく。
“恥っさらしの逃走作戦”とは、なんとも自虐的なノヴァルナの命名だが、その作戦名に相応しく、ろくな脱出ルートも考えずに、殿軍を残して全艦隊が逃走を始めた。最終的にその針路はやはりバラバラのままだ。各艦隊独自の判断で皇都惑星キヨウもしくは、ミノネリラ宙域の本拠地惑星バサラナルムに向かうというものであった。言い換えれば各司令官の、艦隊運用の腕の見せ所といったところだろう。
そしてノヴァルナの第1艦隊は、撤退の先陣を切って統制DFドライヴを行う。ただ行き先は皇都惑星キヨウ方向ではなく、ヴァルミス・ナベラ=ウォーダが率いる第1特務艦隊のいる場所であった。
ここでノヴァルナはヴァルミスと入れ替わり、第1特務艦隊旗艦『クォルガルード』に乗り込んだ。高速艦で編制された第1特務艦隊なら、最終的に一番早く皇都惑星キヨウへ到達出来るからだ。当然ながら交代にヴァルミスが、総旗艦の『ヒテン』に乗る事になる。
『クォルガルード』とドッキングした『ヒテン』のエアロックで、ノヴァルナは人払いをして二人きりになった。そこで対面したヴァルミスに軽く頭を下げ、本名で呼ぶと共に詫びを入れる。
「すまねぇ、カルツェ。悪いけど、あとを宜しく頼む」
ヴァルミス―――いや、カルツェ・ジュ=ウォーダは、被っていた狐の仮面を外して、穏やかな表情で兄の言葉に答えた。
「無論の事…今の私は、この時のためにあるのですから」
そう言いながらもヴァルミスは、“皮肉なものだ…”と内心で苦笑する。かつてはカルツェ・ジュ=ウォーダとして、兄ノヴァルナから当主の座を奪うため散々に暗躍して来た自分が、今は義弟ナギ・マーサス=アーザイルに裏切られ、内心では傷ついたままであるはずの兄のために、その身を投げ出す覚悟でいるのだから。
すると、そんなヴァルミスの気持ちを感じ取ったのか、ノヴァルナは『クォルガルード』に乗り込む間際、すれ違いざまにヴァルミスの肩に手を置き、前を向いたまま再会の約束を告げた。
「キヨウなり、バサラナルムなりに帰ったら、一緒にメシでも喰おうぜ…」
▶#05につづく
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