銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第15話:カノン・ガルザック撤退戦

#06

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 アザン・グラン軍の戦術は、ほぼいつもセオリーを重視している。そして今回もそのセオリーに従い、十二個の基幹艦隊全ての統制DFドライヴを終えると、前哨駆逐艦を十六隻、先行前進させた。
 ところが、前哨駆逐艦達は加速を開始して十分も経たぬうちに、前方から急接近して来るウォーダ軍の艦隊を発見する。ミディルツ艦隊である。

「前哨駆逐艦群より敵発見! 方位004プラス03、ほぼ正面に距離約6万!」

 アザン・グラン軍総旗艦『サイオウ』の艦橋に響く、通信オペレーターの声。それを聞いて「なにっ!?」と眼を見開く、総司令官のエヴァーキンとその幕僚達。
 彼等の認識では、潜宙艦から得た情報により、ウォーダ軍は占領した『カノン・ガルザック』城の上下に、防衛艦隊が展開しているはずであったのだ。

「馬鹿な。たった一個艦隊で、突撃して来ただと!?」

 戦術状況ホログラムに表示されたウォーダ軍の戦力を見て、エヴァーキンの参謀が、虚を突かれた表情をする。だが“虚を突かれた表情”とは即ち、ウォーダ軍に先手を取られた事を意味していた。

「全艦戦闘態勢!」

 強い口調で命じるエヴァーキン。突撃して来る敵艦隊が例え一個でも、対処しない訳にはいかない。全ての宇宙艦の中で赤色灯が灯り、戦闘態勢を指示するブザーが耳障りな音を立てる。



 アザン・グラン軍主力部隊が、迎撃態勢を取り始めたのを見て、ミディルツは配下の各艦に命令を下した。

「全艦、敵集団先頭部へ向けて、全ての対艦誘導弾を発射し、即時離脱。コースは各艦に任せる!」

 それはまるで通り魔のような攻撃であった。ミディルツ率いるウォーダ軍ヤヴァルト宙域防衛第1艦隊は、各艦が散開しながら対艦誘導弾を全弾発射。そのまま加速を続けてUターンし、退避行動に移った。数百発の対艦誘導弾がアザン・グラン軍主力部隊に襲い掛かる。
 アザン・グラン軍の士気は低くなく、即座に迎撃誘導弾やCIWS(近接迎撃火器システム)が反応し、ウォーダ軍の対艦誘導弾を破壊し始める。だが先手を取られたのは確かで、迎撃を搔い潜った誘導弾で幾つもの艦に爆発が発生した。

 対するミディルツ艦隊は、アザン・グラン艦の主砲咄嗟射撃で駆逐艦三隻を失ったものの、あとの艦は致命的な損害も受けずに離脱。アザン・グラン軍が受けた心理的動揺を物理的損害に加算すれば、奇襲に成功したと言っていい戦果だ。『カノン・ガルザック』宇宙城へ帰還して来た艦は、キノッサの第36艦隊の後方で、集結を開始した。
 
 ミディルツ艦隊の奇襲が成功したとなると、次はキノッサの番である。

「アルケティ殿の艦隊、全艦離脱を完了したようです」

 艦橋内の通信科オペレーター席へ赴いていたハーヴェンが、キノッサに振り向いて報告する。大きく頷いたキノッサは、作戦参謀へ命じた。

「宇宙城の要塞主砲を発射。アザン・グラン軍の動きを抑えるッス!」

 キノッサのこの動きはすぐに、アザン・グラン軍の知るところとなる。総司令官エヴァーキンの乗る総旗艦『サイオウ』内に、オペレーターの警戒を要する声が上がる。

「前方、『カノン・ガルザック』城表面に高エネルギー反応! 要塞主砲だと思われます!」

「慌てるな。全艦、回避運動」

 落ち着いた声で命じるエヴァーキン。この辺りは有力大名家の、筆頭家老らしさであろう。宇宙城からの距離は約1億2千万キロ、この距離で光の速さの超大口径ブラストキャノンを撃っても、到達までは約10分も掛かる。確かに回避を慌てる必要はない。超空間センサーによる解析のため、光の速度のブラストキャノンより早く状況の把握が可能という、ある意味奇妙な世界である。

 エヴァーキンの命令を受け、アザン・グラン軍の宇宙艦達がそれぞれに、要塞主砲の砲撃からの回避行動を取り始める。戦艦主砲の三倍以上の威力を持つ要塞主砲の直撃を喰らえば、総旗艦『サイオウ』でもただでは済まない。しかしながらこの余裕のある回避運動は、ウォーダ軍も当然承知しているはずだ。それでいて要塞主砲を撃とうとしているキノッサの意図を、エヴァーキンや彼の参謀達は正しく認識している。

「なかなか…忌々しいですな。ウォーダ軍守備隊も」

 回避運動を始めた『サイオウ』の艦橋内、安物のエレベーターに乗った時のような重力変動に体幹バランスで対応しながら、エヴァーキンの参謀の一人が苦笑いを浮かべて告げた。

「うむ…」

 小さく唸って応じるエヴァーキン。要塞主砲の砲撃自体は余裕で回避できても、そのためには隊列をバラバラにする必要が生じる。そして宇宙城を抜くには、組織立った攻略が必要であり、守備側は敵を撃滅するのではなく、一分一秒でも長く敵を足止めするのが目的なのだ。つまりこの距離での要塞主砲の砲撃は、エネルギーの浪費ではない、という事であった。

「ウォーダ軍の指揮官…名は判るか?」

 エヴァーキンの質問に別の参謀が答える。

「識別はウォーダ軍第36艦隊となっております。アーザイル家から入手した情報では、艦隊司令はトゥ・キーツ=キノッサと…」

「キノッサ…ほう、あのデュバル・ハーヴェン=ティカナックを、参謀長に得たという武将か」




▶#07につづく
 
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