銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第15話:カノン・ガルザック撤退戦

#21

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 ノヴァルナ専用の『クォルガルード』以下、十隻の分艦隊の現在位置は、ヤヴァルト宙域に近いオウ・ルミル宙域のEP-4900023星系。分艦隊は次のDFドライヴに向けた重力子のチャージを行いつつ、この星系を斜めに通過する航路をとっていた。

 EP-4900023星系の主星は、老いた赤色巨星。巨大な恒星であっても、『クォルガルード』の外殻を赤く照らす輝きは、どこか弱々しい。しかし寿命も末期とはいえその最期までは、まだ数千万年は時間が残されている。
 ここはアーザイル家の勢力圏であるが、状態としては“静か”なものであった。ノヴァルナ分艦隊はこの星系を抜けてDFドライヴを行い、さらに二度DFドライヴを繰り返す事によって、ヤヴァルト宙域に入る予定である。

 ノヴァルナ分艦隊は敵に発見される事無く、ここまでは撤退する事に成功していた。十隻という数の少なさが、功を奏しているのもあるだろう。ただ問題は三度目にDFドライヴする時だ。
 オウ・ルミル宙域と、ヤヴァルト宙域の境界面を超える事になる、三度目のDFドライヴ時には、アーザイル軍の哨戒網も厳しくなっているはずで、これに発見されてしまうと非常にまずい。ノヴァルナ分艦隊の編制は、ノヴァルナの座乗する旗艦『クォルガルード』と同型の戦闘輸送艦が四隻に、巡航戦艦が一隻、そしてあとは駆逐艦が四隻と、速力優先で砲戦能力に乏しく、正規編制のアーザイル軍警備艦隊一個と、遭遇しただけでも危険であった。

「そろそろ、航路を決めなければなりませんが…」

 航宙参謀が、司令官席に座るノヴァルナにそう切り出す。ここまで分艦隊は、敵に察知され難いよう、ランダムな航路をとって来ていた。しかしアーザイル軍の哨戒網が、厳重になると予想されるこの先は、慎重に航路を選定する必要がある。

 ノヴァルナは艦橋中央の戦術状況ホログラムを、宇宙地図コスモチャートに切り替えて、砕けた口調で航宙参謀へ問い掛けた。

「おう。オススメの航路はあるか?」

 対照的に「はっ!」と、背筋を伸ばして応じた航宙参謀は、手にしていたデータパッドを指先で操作し、宇宙地図にリンクさせて表示する。それには現在位置からヤヴァルト宙域との境界を目指す、複数のルートが設定されていた。
 その一つ一つに関する解説を、航宙参謀から聴くノヴァルナだが、どのコースも一長一短があって、発見されると増援の警備艦隊が群がって来るという、共通のリスクが伴っている。
 
「確かこの辺りには、アーザイルのHDSSS(超空間航法監視システム)も、あったよなぁ…」

 宇宙地図を眺めながら、ノヴァルナは腕組みをした。HDSSS(超空間航法監視システム)とは、浮遊式哨戒プローブの一種による監視網で、直径1光年の範囲内でDFドライヴが行われた場合に、これを察知する機能を有したプローブを、格子状に広く配置したものである。

 この監視網は主に、宇宙船の航路から外れたエリアに敷かれている。一般航路外から侵入して来る宇宙船は、戦闘目的の艦隊である可能性が高いからだ。その敷設エリアは対外的に秘匿されているが、ウォーダ家はアーザイル家と同盟関係であった関係上、敷設エリアのデータを共有していた。航宙参謀もそれは承知しており、ノヴァルナの言葉に応じて、宇宙地図にHDSSSの敷設エリアを表示する。航宙計画によれば候補のコースはどれも、一部が重なり合ったこれらのエリアの間を、すり抜けるように設定されていた。

 ただノヴァルナの傍らで立つヒルザードは、これに疑問を呈する。

「しかしノヴァルナ様。この敷設状況をそのまま鵜呑みにするのは、危険やも知れませんな」

「分かってる」

 浮遊式哨戒プローブは母艦さえいれば、その配置エリアを移動させる事も可能である。そうであるならアーザイル家は、アザン・グラン側に寝返った際に、監視エリアを全て移動させていてもおかしくはない。もしこれに引っ掛かるような事があれば、前述の通り近くにいるアーザイル家の恒星間警備艦隊が、たちまち集まって来るはずだ。

「駆逐艦を囮に、監視網の配置状況を、調べる事も出来ますが…」

 参謀長がそう述べると、ヒルザードは首を左右に振った。

「それではかえって、時間がかかりましょう。それに駆逐艦とはいえ、今は貴重な戦力です」

 “駆逐艦とはいえ…”という軽んじた物言いを聞き、眉間に不快そうな皺を寄せるノヴァルナをよそに、ヒルザードは言い切る。ところがノヴァルナはそんなヒルザードの反対側に顔を向けて、意外な人物に意見を求めた。

「ジークザルト。おめーは、どのコースがいいと思う?」

 ほう…という表情になるヒルザード。ガモフ家の神童という噂の少年で、以前からその名を聞いた事はあったが、ノヴァルナは単なる事務補佐官以上の扱いを、しているようであった。
 そのジークザルトはノヴァルナの前に進み出ると、自らもデータパッドを取り出して、これまでのものとは全く別の航路を提示した。

「これは如何でしょう?」




▶#22につづく
 
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