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第16話:アネス・カンヴァーの戦い
#03
しおりを挟む2月28日未明。“アネス・カンヴァー星雲”内へ進入した両軍は、索敵を開始する。ただ星雲内の星間ガスは場所によって濃度差が大きく、センサーの探知精度にも大きな差が出ていた。
両軍の最終的な戦力はウォーダ軍12個艦隊、トクルガル軍5個艦隊。アーザイル軍13個艦隊、アザン・グラン軍6個艦隊とほぼ互角である。双方ともが索敵用の駆逐艦を大量に放ち、星雲内を調査した結果、ほとんど同時に敵の布陣状況の解析が完了した。
そして午前六時頃、まず先陣を切ったのは、イェルサス率いるトクルガル軍である。トクルガル軍は、包囲が解かれたヤクマック城から出撃した、アーザイル軍二個艦隊へ向かった。まずはこれを叩いて機先を制するためだ。
さらにウォーダ軍の方でも、“ミノネリラ三連星”の三個艦隊が前進。アーザイル軍前衛部隊と交戦を開始する。迎え撃ったのはアーザイル家の、ナルターク=ノラムとフィトス=オルノークの艦隊であった。
“三連星”は、正面火力の高さで群を抜くリーンテーツ=イナルヴァが、ノラムの艦隊を突き崩し、防御戦闘が得意なモリナール=アンドアが、オルノーク艦隊の攻撃を討ち防ぎ、機動戦闘に定評があるナモド・ボクゼ=ウージェルの艦隊が、敵の二個艦隊の連携に楔を打ち込んで来る。“アネス・カンヴァー星雲”のガスの海の中に、幾つもの閃光が煌めいて、複数の艦が引き裂かれる光景が出現した。
「く、強い!」
「やはり侮れんな」
口々に警戒感を露わにする、アーザイル家のノラムとオルターク。
ドゥ・ザン=サイドゥの時代から、周辺宙域にまで知られた“三連星”のチームワークに、ノラムとオルタークの艦隊はたちまち押され始めた。しかしアーザイル軍総旗艦『ソウリュウ』に乗る、ナギ・マーサス=アーザイルに焦りはない。戦術状況ホログラムで両軍の動きを見ながら、二人の司令官に命じる。
「慌てるな、地の利は我々にある。星間ガス濃度の高い箇所を利用し、“三連星”の艦隊を縦深陣の中へ引き込むんだ」
ナギの言葉通りこの“アネス・カンヴァー星雲”は、超巨大暗黒星雲“ビティ・ワン・コー”と端が繋がっている関係上、重力勾配が強く、視界を遮るほど星間ガスの濃度が高い箇所が、帯状に幾つも伸びている。そして自国領である事からそれらの位置を、アーザイル家はほぼ全て掌握していた。ナギはそれを戦術に組み込むつもりであったのだ。
たとえどれほど信頼していたとしても…義理の兄であっても、自分の前に立ちはだかる敵であるならば、勝たねばならない。それは戦国に生きる者の掟である。
そして地の利はやはり効果があった。
“三連星”が繰り出す連携攻撃に、寸断されたように見えたノラムとオルタークの艦隊だったが、少数に分かれた艦のそれぞれが、帯状に伸びた青と紫色のガス雲に紛れて、主砲を激しく撃って来る。
一方的に撃たれるわけにもいかず。“三連星”の各艦隊も反撃に出るが、分散して発砲して来るノラムとオルタークの宇宙艦に、次第に隊列が乱れ始めた。
「マズいな…」
「うむ…出過ぎたようだ」
イナルヴァとアンドアが通信で言葉を交わす。イナルヴァの乗る旗艦の外部ビュアーでは、左方向の星間ガスの塊の陰から、複数の敵艦が猛烈に主砲を放って来ていた。自軍艦隊にまだ大きな損害は出ていないが、敵の分散攻撃につり出されざるを得ない状況だ。
「敵は縦深陣を組もうとしていると見た」
「ああ。傷が深くなる前に後退するか」
ベテラン武将らしく、先行きの不透明感に意見を統一させた二人は、“三連星”のもう一人、ウージェルに通信を入れた。
「ウージェル。深みに嵌る前に後退する。済まないが宙雷戦隊を出してくれ」
「わかった」
ウージェルの第12艦隊は機動戦闘を重視した編制で、宙雷戦隊が五つに空母戦隊が三つと、通常編制の基幹艦隊より多くなっている。その宙雷戦隊を使って、敵を引き剥がそうという作戦だ。
ウージェルは素早く配下の宙雷戦隊へ突撃ポイントを指示した。交戦中の両軍の間に割って入り、敵への砲雷撃を行っている間に、味方を離脱させるためである。
「全艦、最大戦速!」
「右砲雷撃戦!」
五つの宙雷戦隊の司令官が口々に命令を発し、分散した敵の複数の艦に、高速で間合いを詰めていった。どれもがよく訓練された戦隊であり、流れるような動きを見せて、主砲をつるべ撃ちに放つ。するとそれに合わせ、イナルヴァとアンドアの艦隊も即座に距離をとっていった。“三連星”に所属する戦隊は、合同で訓練する機会も多く、艦隊は別であっても息はピタリと合っている。
ただ“三連星”のこれら一連の動きは、アーザイル軍総司令官のナギも、想定済みであった。その上でナギは、全軍への前進命令を出す。
「敵の“三連星”が後退した箇所から、各艦隊は順次前進。突破口を開け」
そこからさらにナギは艦隊参謀に命じた。
「ズーマサッド=ウィッシュナーの第5艦隊に伝達。“自慢の突進力を、いつでも見せられるように準備せよ”…と」
第5艦隊旗艦の司令官席でこれを聞いたウィッシュナーは、ササーラと同じガロム星人の武将である。厳つい顔に薄笑いを浮かべたウィッシュナーは、「フフフフフ…」と声を漏らしながら、拳を握り締めた。
▶#04につづく
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