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第16話:アネス・カンヴァーの戦い
#06
しおりを挟むノヴァルナの命令を受け、ハッチの第31艦隊、レヴァルの第21艦隊の半数及びシルバータの第7艦隊は、接近中のアーザイル軍後続部隊に対する、迎撃態勢を立て直す。ウィッシュナー艦隊の突進には不覚を取ったが、艦隊への損害自体はそれほど大きくはない。
ウィッシュナーに続いて接近戦を挑んで来たのは、アーザイルの一族であるセーザル=アーザイルと、アーザイル家の宿老の一人ダルキュス=エトゥズの艦隊だ。この二個艦隊も歴戦の部隊であり、油断のならない相手だった。ただ一時的に危機に陥ったノヴァルナの本陣も、いまだ守りは固く、双方とも予断を許さない状況が続く………
膠着しつつある戦場…このような場合、勝敗の天秤は戦場の一ヵ所から、どちらかに傾き始める事がある。いわゆる“転機”というものだ。
今回の大会戦において、それはノヴァルナのウォーダ軍ではなく、イェルサスが率いるトクルガル軍と、アザン・グラン軍主力部隊との戦いで発生した。こちらも星間ガスの濃密な箇所を利用し、至近距離での戦闘が多発している。敵味方の宇宙艦同士が僅か数百万キロの間隔ですれ違いながら、ブラストキャノンのビームを浴びせ合い、誘導弾を撃ち合う様子は、大昔の帆船同士の海上戦闘さながらだった。
“数百万キロ”と聞くと、途方もない距離での砲撃戦で、至近距離戦闘とは思えない感じだが、宇宙空間での砲撃戦は、その十倍の距離で行われるのが普通で、飛び交う宇宙艦の速度は秒速約七万キロ。放つビームは秒速約三十万キロもの速さなのである。
そしてこういう混戦になれば、力を発揮するのがBSI部隊だった。
「“インヴィンシブル中隊”、出撃する」
ジンベエザメをイメージさせる、アザン・グラン軍第1艦隊宇宙空母『バンダ・ハンダー』から、大型BSHOが発艦する。先月のウォーダ軍の、“カノン・ガルザック撤退戦”でも大暴れした、BSI部隊総指揮官ネオターク・ジュロス・マガランの機体、『キョウマ』である。バックパックに斜めに固定した、超大型クァンタムブレード『タイロン』が、刀身に微かに青い光を帯びさせているのは、すでに稼働状態にある事を示している。つまり“いつでも敵の機体を一刀両断できる”状態、マガランの闘志を体現していた。
一方、トクルガル軍でも一人の天才パイロットが、自分の専用機を発進させようとしている。まだ少年の域を出ていないそのパイロットは、母艦の管制室へ緊張感のない声で出撃を伝える。
「ティガカーツ=ホーンダート、『カヅノーVC』。出ていいかな? 出るよ」
マガランとティガカーツ、おそらくこの戦場に出て来ているBSIパイロットの中では、双璧を成す存在であった。
ただ出撃の時点では、二人の位置はそれほど近くは無い。混戦状態の中で、まずは自分の艦隊の防衛が主目的となっていたからだ。
最初に戦果を挙げたのはマガランである。トクルガル軍の量産型BSIとASGULの集団に、一直線に突っ込んでいったマガランのBSHO『キョウマ』は、無音なはずの宇宙空間でも、風圧の唸る音が聞こえそうな勢いで、刀身が三十メートルもある豪刀『タイロン』を振り下ろす。頭頂部から縦に真っ二つに両断される、トクルガル軍のBSIユニット『トリュウ』。
そこへ二機のトクルガル軍ASGUL『ジーグリア』が、左右両方から攻撃艇形態でビームを撃ち込んで来る。しかし『キョウマ』は巨体を軽々と翻して、ASGULの挟撃を回避。すれ違いざまに突き出した、豪刀『タイロン』の切っ先が一機の機体を抉り取った。
さらに『キョウマ』は素早く、バックパックに固定されていた超電磁ライフルを掴み取ると、通り過ぎたもう一機のASGULに銃弾を浴びせる。機体を抉られた一機はそのまま直進して爆発。銃弾を受けた一機は激しい錐揉み状態になり、味方の戦艦の艦腹に激突して砕け散った。
だがこの時にはすでに、同じ場所に『キョウマ』の姿はない。ASGULが激突した戦艦からの迎撃砲火を回避していたのだ。トクルガル軍の五百メートルを超える宇宙戦艦が迫力満点に進み出て、無数の迎撃用火器をマガランの『キョウマ』に向け、一斉に放ち始める。大型BSHOの『キョウマ』も、宇宙戦艦の前では羽虫同然であった。
ただ羽虫であっても、猛毒を持った羽虫は危険であるのは言うまでもない。恐るべき高速機動で、戦艦からの砲火を悉く躱しながら『キョウマ』は、超電磁ライフルの弾倉を対艦徹甲弾に交換。超高速で戦艦の周囲を飛び回りながら、徹甲弾を三弾倉分三十発叩き込んだ。
その命中箇所も照準センサーや航法センサー、重力子ノズルといった戦艦であっても脆弱な部分で、これにはたまらず距離を置こうとする。本来の相手である敵戦艦との戦闘に、支障をきたしそうになったからだろう。
すると戦艦は追い払ったものの、BSI四機を引き連れた駆逐艦が、割り込むように進み出て来た。BSIは四機とも旧イマーガラ軍の『トリュウ』ではなく、トクルガル軍オリジナルの最新鋭機『リュウビ』。しかもその親衛隊仕様機らしい。これを見たマガランは、ニタリ…と攻撃的な笑みを浮かべて独り言ちた。
「ほう。面白い余興だ」
▶#07につづく
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