426 / 526
第16話:アネス・カンヴァーの戦い
#17
しおりを挟むノヴァルナが宣言した“銀河布武”はやはり、他の星大名の多くに理解される事は無かった。なにより、星帥皇と貴族院の権利と権威の大幅な縮小を拒む、上級貴族―――皇国の行政側が、最大の抵抗勢力となろうとしているのだ。
戦国の世が続く最大の要因の、バラバラであった各勢力が、“反ノヴァルナ”で纏まるとは皮肉な事この上ない。
もっとも上級貴族達からすれば、本来はノヴァルナのウォーダ家ではなく、当時戦国最強と言われ、上級貴族の一員でもあったイマーガラ家を、皇国再興の旗頭にして、自分達の隆盛の復活を目論んでいた。それがウォーダ家にギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち取られて、台無しにされたのであるから、かねてから意趣返しの機会を狙っていた、というのもある。
するとここでジョシュアの側近、トーエル=ミッドベルが意見を述べる。
「ヅカーザ卿らのお考えは分かりますが、ノヴァルナ殿の功績が大なる事は、揺るがぬ事実。それに先日のノヴァルナ殿主催の、“銀河文明船舶まつり”の盛況ぶりを見ても、領民達からの支持の高さには相当なものがありまする。それをあまりに簡単に切り捨てるとなると、民心が我々から離れる恐れがありましょう」
これに対し、セッツァーは軽く頷いて返答する。
「それは当然考慮しております。それゆえ我等もノヴァルナ殿を、直接手を下して殺めるつもりはございませぬ。我等が目的とするのはウォーダ家の家勢を削ぎ、国政に口出し出来ぬ程度にまで下げる事。ただ、ノヴァルナ公が戦陣にて落命されるは、これも武人の定め。誰もが納得致しましょう」
「ふむ…ウォーダ家の家勢を削ぐ過程で、ノヴァルナ公が戦死するのであれば、確かに致し方ないが…」
セッツァーの言葉にジョシュアのもう一人の側近、コレット=ワッダーが僅かに首を捻る。ワッダーは元来オウ・ルミル宙域星大名であった、ロッガ家を支援する独立管領集団“コーガ五十三家”の一つであり、軍事的センスにも富んでいる。そのため、ノヴァルナとウォーダ家の高い軍事力は理解しており、“ノヴァルナ包囲網”と言っても、そう上手く事は運ばないに違いないと考えたのだ。
だがセッツァーには、まだ切り札があった。
「ワッダー殿のご懸念はご尤も。そこで我等は念には念を入れるための、さらなる協力者を得ましてございます」
そう言ってほくそ笑んだセッツァーは、自分が従えている従者に「入って頂け」と命じる。従者は謁見の間の大扉のところまで行き、扉を開いて「どうぞお入り下さい」と告げた。開いた大扉から入って来たのは三人の男だ。一人はミョルジ家の軍装を着ており、あとの二人は法衣のようなものを着ている。三人はジョシュアの前まで進み出て、片膝をついた。
新たに現れた三人にミッドベルが「ご貴殿らは?」と誰何した。すると三人の自己紹介に、他の使者達からざわめきが起こる。
法衣を着た二人のうち一人は、オ・ザーカ星系を自治領とする、イーゴン教総本山『イシャー・ホーガン』からの使者。もう一人はかつての旧宗教自治領で、現在はシグシーマ銀河系の巨大金融センターとなっている、エイザン自治星系からの使者。
そしてミョルジ家の軍装を着た男は、これまで星帥皇室に敵対し続けていた、あのアーワーガ宙域星大名“ミョルジ三人衆”からの使者であったからだ。
「ミ、“ミョルジ三人衆”と言えば、我が兄の仇ではないのか!?」
驚きと戸惑いの合わさった表情で、ジョシュアが問い質す。事実、“ミョルジ三人衆”が兄のテルーザを襲撃し、命を奪ったのであるから、そういった反応も当然だろう。それにミョルジ家が皇都キヨウを実効支配していた時に、貴族達もその影響下で、圧迫を受けていたはずである。その“ミョルジ三人衆”から使者を招くなど、常識的には考えられない事だ。
しかし悪い意味で上級貴族とは、そういった常識に囚われない面があった。各々が自分の権勢の伸長を第一に考えており、そのためであれば、“昨日の敵は今日の友”やその逆も然り。集合離散を繰り返す事、戦国の星大名以上である。
バルガット・ヅカーザ=セッツァーは、これぞ厚顔無恥といった態度で、事も無げにジョシュアに告げた。
「陛下がご不満にお思いなのは、我等も重々理解しておりまする。しかしながら今の三人衆は過去を悔い改め、陛下に恭順の意を示し、我等のもとで皇国再興に努力する事を誓っております。ここは陛下の、大いなる寛容の御心をもちまして、御味方に加えるべきと存じます」
これを聞いてジョシュアは思考を巡らせたのち、「…相分かった」と躊躇いがちに承諾する。正直なところ、前星帥皇テルーザの実弟ではあったが、幼少の頃から離れ離れにされ、別々に育てられて来たため、兄弟という感覚に欠けていた事が、肉親の仇に関する執着心を、浅いものにしていたのだ。ジョシュアから許諾を得た三人衆の使者は、一段深く頭を下げ「我等が忠義は星帥皇陛下の御ために」と、忠節を尽くす言葉を述べる。
まさに呉越同舟のこの光景こそ、今の戦国銀河の縮図が、垣間見えるというものであった。そしてこの光景をさらに複雑にしているのが、法衣に似た着衣のイーゴン教総本山と、金融星系エイザンからの使者だ。
イーゴン教総本山と、金融星系エイザンからの使者…実のところ、この二つの勢力の合流の方が“ミョルジ三人衆”の合流よりも、“ノヴァルナ包囲網”に対する影響力は大であった。
しかも双方とも事実、すでに対ウォーダ家に動いている。イーゴン教総本山は、教徒が支配するカガン宙域に働きかけて、隣接するエテューゼ宙域のアザン・グラン家との、長年にわたる紛争を停戦させ、アザン・グラン家がウォーダ家との戦いに総力を注げるよう、側面支援を行っていたのは、すでに述べた通りである。
そして金融星系エイザン。こちらは表立って名前は出て来てはいないが、昨年発生した、“ミョルジ三人衆”によるヤヴァルト宙域奇襲事件で、三人衆に対し資金援助を行っていた事は、ウォーダ家の諜報部による調査活動で判明していた。ただ相変わらず、彼等が何を真の目的として、ウォーダ家を敵視するようになったのかは、いまだ不明であった。
それでもエイザンの経済力が敵に回るのは、侮る事は出来ない。こと金融面においては、あのザーカ・イー自治星系に匹敵しており、カネの力で他の複数の星大名を、動かす事も可能だからだ。またエイザン星系はザーカ・イー星系と違い、独自に強大な戦力を有しており、“ソーフェイ”と呼ばれる旧宗教信徒兵は、星大名の正規兵以上に精強だと言われている。
参集した対ノヴァルナ勢力の面々を見回し、セッツァーは満足げに大きく頷いてジョシュアに向け言い放つ。
「御覧じられませ、陛下。現在ウォーダ家と戦っておりますアザン・グラン、アーザイルの両家に加え、タ・クェルダ家、ウェルズーギ家、ホゥ・ジェン家、“ミョルジ三人衆”、マツァルナルガ家、モーリー家等々…それにイーゴン教にエイザン星系…これほどまでの勢力が、いえ、この先さらに、幾つもの勢力が加わって陛下に従い、皇国の再興に力を尽くさんとしております」
「う…うむ、そうか、そうであるか」
ゼンマイ仕掛けの人形のように、二度三度と単調に頷くジョシュア。セッツァーはここから、一流の扇動者の面を覗かせる。
「陛下…これが、どういう事を示しているか、お分かりになりますか?」
「ど…どういう?」
「ノヴァルナ公ではなく、陛下にこそ…正義があるからに、他なりませぬ」
「正義…正義か…」
呟くジョシュアの瞳に宿る、使命感の光…だが果たしてそれが、正しいものかどうかであるかは、眼差しを向けるセッツァーの顔に浮かぶ、悪魔的な笑みから判断されるべきであろう………
▶#18につづく
0
あなたにおすすめの小説
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる