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第16話:アネス・カンヴァーの戦い
#21
しおりを挟むマガランの呼び掛けに空電状態がしばらく続く。やはり交信状態は良くない。トクルガル第3艦隊の電子戦に押されているのだろう。
コクピットの戦術状況ホログラムを確認すると、敵味方の宇宙艦が狭い空域の中で入り交じり、至近距離で撃ち合いを演じている、いわゆる“混戦”状態になっているようだ。
“マズいな、これは…”
するとここでようやく、旗艦の『コルテゴート』から応答が入る。通信に出たのは、マガランに代わって艦隊指揮を執る、参謀長のラフード=ベルマセルだ。
「マガラン様。ご無事でしたか!?」
「おお、参謀長。艦隊の状況はどうなっている!?」
問い質すマガラン。その直後、“インヴィンシブル中隊”の一機が、敵BSI部隊の接近を知らせる。右下方より十六機、量産型BSIが四機、あとはASGULが十二機だ。数は敵が上回っているが、戦闘力はこちらが勝っているはずだ。素早く散開した“インヴィンシブル中隊”の各機は、思い思いの戦闘行動に入る。
「敵ですか!?」
ベルマセル参謀長の問いに、マガランは「構わん。報告しろ」と言いながら、機体を操って超電磁ライフルのトリガーを引いた。その一弾は、今まさに攻撃態勢に移行した、トクルガル軍のBSI『トリュウ』の胸部を貫く。
「はっ。我が軍前衛を突破した敵艦隊は、我々に対し、まず宙雷戦隊による突撃を敢行。艦列が乱れたところで、全BSI部隊による対艦攻撃を、仕掛けて参りました。その数は多く、艦隊直掩のBSI部隊では防ぎきれないまま、このような状況となっております…申し訳ございません」
「いや。貴様を責めるつもりはない。気にするな」
そう言いつつマガランは、敵の巧妙さに今の状況を納得した。更新されたデータリンクで判明した、敵司令官のキルバラッサは、接敵と同時に宙雷戦隊を突撃させて、その奇襲効果によってこちら側が動揺したところに、対艦装備のBSI部隊を投入したのだ。この組み合わせによって陣形が乱れたのを機に、トクルガル側から混戦に持ち込んだのだろう。セオリーならば宙雷戦隊の突撃は、敵にとどめを刺す場合に使用するものだ。それを初手に持って来るのは、勇気のいる決断だった。しかし今の戦況は、相手に感心ばかりもしていられない。
「ともかく、いま必要なのは応急修理と補給だ。我の母艦『バンダ・ハンダー』はどこにいる?」
この問いに参謀長は口ごもりながら、非情な報告をする。
「バッ…『バンダ・ハンダー』は、撃破されてしまいました」
母艦の喪失という凶報に、マガランは眼を見開く。
「なに、それはまことか!? なぜそんな事に!」
「はっ!…敵の宙雷戦隊が突撃して来た際、運悪く近くにいたため、複数の宇宙魚雷を受けてしまいまして」
「むう…」
言葉を失うマガラン。そこへトクルガル軍のASGULが三機、攻撃艇形態で急速接近して来る。新型とされる『バズハード』だ。
しかし相手が新型とは言え、右腕一本でもASGULに後れを取るマガランではない。初手のライフル射撃で一機を爆砕。残る二機は人型に変形して、ポジトロンランスの刺突を仕掛けて来たが、マガランは『キョウマ』の手持ち武器を、素早く豪刀『タイロン』へ持ち替えさせ、猛然と振り抜いた。
二機の『バズハード』は両方とも、ポジトロンランスごと機体を真っ二つにされて果てる。同じポジトロンランスでもやはり量産用のものは、ティガカーツの『ドラゴンスレイヤー』とは大違いだった。
同様にして“インヴィンシブル中隊”も、各々の敵を全て片付け、『キョウマ』のもとへ戻って来る。マガランは艦隊の各艦の現在位置を、戦術状況ホログラムで確認した。
「一番近い空母は、『ファンヴェラン』か…」
独り言ちたマガランは中隊と旗艦の参謀長に、撃破された『バンダ・ハンダー』の代わりに、一番近くにいる宇宙空母の『ファンヴェラン』へ、補給のために向かう事を告げる。
だがこれを聴いた参謀長の声には、困惑の響きがあった。
「マガラン様…再出撃されるおつもりですか?」
「無論のこと」
「お、お止めください! 『ファンヴェラン』では『キョウマ』の応急修理や、補給は出来ません!」
「ハッハッハッ…そのような事は、言われずとも知っている。応急修理と補給は、我が配下の中隊のためだ」
「しかし…」
参謀長のベルマセルが止めに入ったのは、マガランのBSHO『キョウマ』は、母艦であった『バンダ・ハンダー』でしか、修理や補給を行えなかったからだ。その理由は『キョウマ』が銀河皇国製ではなく、モルンゴール帝国製のBSHOのため、大半のパーツが共用出来ない事にある。
例えばこれがノヴァルナの『センクウ・カイFX』ならば、完全カスタマイズ機であっても、かなりのパーツや装置が銀河皇国標準規格のものであり、母艦となっている『ヒテン』や『クォルガルード』以外の艦でも、修理や補給は可能となっている。それゆえ、マガランの言葉は、自分の機体は応急修理も補給も行わず、再出撃する意志を示していた。
▶#22につづく
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