銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第16話:アネス・カンヴァーの戦い

#30

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“もうこの辺りでよいか…”

 内心で呟いたマガランは、トクルガル側にも伝わる全周波数帯通信に切り替え、言い放った。

「さて! このネオターク・ジュロス=マガラン。今度はこちらから仕掛けさせてもらおうぞ! 故郷くにで家族が待つ一般兵共、家督を継ぐ必要がある『ム・シャー』共は、悪い事は言わぬ。皆、逃げ去るがいい!!」

 言い終わるが早いか、『キョウマ』を急加速させるマガラン。そして今度は味方の艦隊とBSI部隊に告げる。

「これより冥府の門まで突撃する。我もと思いし者は皆続け!!!!」

 おまえ達は逃げろと言わないところは、戦闘種族のモルンゴール星人らしさであろうか。多くの味方を従えたマガランは先頭を行き、当たるを幸い、眼の前に現れたトクルガル軍のBSIユニットも、ASGULも宇宙攻撃艇も、全てを薙ぎ払ってゆく。その中には、マガランとのこの戦いを指揮していた、指揮官機の姿もあった。
 後方からの味方の攻撃も凄まじい。勝ち戦で勢いは上回っているはずのトクルガル軍の艦隊が、完全に行き足を止め、一瞬、防御的な戦闘陣形となる。

 ただしトクルガル軍が防御陣を組んだのが、一瞬であった事には意味があった。言い換えれば“一瞬で充分だった”のだ。
 艦列を整えて一斉に放たれた大量の火力は、数的に甚だ劣勢であったアザン・グランの足止め部隊を、即座に粉砕したからである。
 次々に起こる破滅的な爆発。砕け散るBSIユニット、引き裂かれる宇宙艦に、生き延びたものはようやく突撃の酔いから醒め、撤退し始める。

 だがそんな中、マガランだけは突撃を続けていた。

 BSIやASGULを両断するに飽き足らず、豪刀『タイロン』で駆逐艦の艦橋部分を抉り裂き、巡航艦の重力子ノズルを輪切りにする。星の数ほどもあろうかと撃たれて来る、迎撃誘導弾やCIWSのビームを、悉く躱したその先にいたのは、大型の戦艦だ。通常のBSIでは到底太刀打ちできない相手である。

 ところがマガランは愉悦の笑みを浮かべ、「まだまだァーー!!!!」と叫ぶと、戦艦の艦首に『タイロン』を根元まで突き刺した。そしてなんと、そのまま戦艦の表面を、渦巻き状に切り裂きながら艦尾まで飛行したのだ。
 刀身が三十メートルもある『タイロン』であるから、それを根元まで突き刺して艦尾まで回転斬りされては、いくら戦艦でもたまったものではない。行動不能にされた戦艦は、そのまま宇宙を漂い始める。
 
「見たか、我が意地!」

 機体を翻し、『タイロン』を大きくひと振りして叫ぶマガラン。モルンゴール星人の金色の瞳が爛々と輝く。モルンゴール帝国製のBSHOとはいえ、左腕が使用不能の状態の単機で大型戦艦を撃破するなど、いくら戦闘種族だったとしても、常識外れのマガランの強さだった。これにはさしものトクルガル軍も驚き、一部では後退を始める艦やBSIユニットも現れる。

「どうした! 怖気づいたか、トクルガルの犬ども!! 掛かって来ぬか!!」

 マガランは嘲笑うように放言した。だが言葉と裏腹に『キョウマ』のエネルギーは、もうほとんど残されていない。エネルギー残量のインジケーターは、すでに赤色を通り越し、紫色の細いラインのみとなって点滅している。
 するとそこへ斜め上空から駆けつけて来る、新たな敵が三機。いずれもトクルガル軍の新型BSIユニット『リュウビ』ではなく、旧イマーガラ家のBSIユニットである『トリュウ』の、親衛隊仕様機『トリュウCB』だった。

「マガラン殿の放言、聞き捨てならん。我等三人が討ち取ってくれよう!!」

「おう。よくぞ申した! 誰であるか!?」

「バルオーグ=サーガランが家臣、セイクサット三兄弟!」

「ほう。サーガラン家の者か!」

 サーガラン家は、四年前の“フォルクェ=ザマの戦い”の惨敗で、イマーガラ家が没落したのちにトクルガル家に恭順した、トーミ宙域タックテムジン星系を領有する独立管領である。トクルガル家にとっては外様の家臣であるから、まだオリジナル新型機の『リュウビ』を、支給されていないのだ。

 三機の『トリュウCB』が、マガランの『キョウマ』を取り囲む。三機とも僅かにカラーリングが違うようだ。親衛隊仕様機でも、オリジナルのカラーリングを許されるのは、エース級の技量を有している者のみである。得物も三機とも上級者が持つ、ポジトロンランスであった。声の調子から三人共、まだ二十代と思われる。若気の至りとも言えるが、その意気は買うべきだろう。

「よかろう。三人とも名乗るがいい!」

 マガランは『キョウマ』が右手に握る『タイロン』を下段に構え、セイクサット三兄弟それぞれに名乗りを許す。三人は一人ずつ名乗りながら、ポジトロンランスを構えた。

「長兄シキーヴ!」

「次兄ジェスマーク!」

「末弟ロクジーロ!」

 三人の乗る機体を一機ずつ見渡したマガランは、「参れ!」と告げて豪刀を正眼に構え直す。次の瞬間、三機の『トリュウCB』は三方向から『キョウマ』へ、一斉に攻撃を仕掛けた。“トランサー”による解析が、長兄シキーヴが鑓の打撃、二人の弟が鑓の刺突である事を、マガランに察知させる。
 
 咄嗟の判断でマガランは、長兄シキーヴの鑓を『タイロン』で弾き飛ばし、機体に捻り込みを掛けて、二人の弟が繰り出した鑓の穂先を回避する。そこからさらにマガランは反撃の太刀を、次兄ジェスマークの機体に向け上段から振り下ろした。

 だが次の瞬間、次兄ジェスマークと末弟ロクジーロが乗る、二機の『トリュウCB』は、手に握るポジトロンランスの柄を交差させる。

「兄者!」

「おう!」

 ジェスマークの機体の前でガチリと合わさった鑓の柄は、BSIユニット二機分の重力子フィールドに包まれて強度を増す。これが一本だけの鑓であるなら、真っ二つになるはずの鑓の柄も、豪刀『タイロン』の威力に耐えた。

「ふん。考えたか!」

 口元を歪めたマガランは、『タイロン』を真横に薙ぎ払う。二機の『トリュウ』は素早く身を引き、この斬撃を回避した。そこへ斜め後ろから全力加速で、ポジトロンランスを突き出して来る長兄シキーヴ。マガランがこれを躱すと今度は二人の弟が、絶妙なタイミングで鑓の刺突を放つ。だが巧妙な機体機動の『キョウマ』には、ダメージを与えられない。

「三人とも良い動きだが、間合いの詰めが甘いぞ!」

 逆に猛然と距離を詰めたマガランの『キョウマ』は、一瞬でポジトロンランスの間合いより内側に飛び込んで、次兄ジェスマークの『トリュウCB』に、体当たりを喰らわせた。

「むぁ!!」

 激しい衝撃と共に跳ね飛ばされるジェスマークの機体。無防備の状態にマガランの『キョウマ』が豪刀で斬りかかる。

「兄者ーー!!!!」

 そこへ突っ込んで来たのは、末弟ロクジーロの機体であった。ロクジーロによって間一髪、突き飛ばされるジェスマークの『トリュウCB』。だが振り抜かれたマガランの豪刀『タイロン』は、代わりにロクジーロの『トリュウCB』を、袈裟懸けに切り裂く。

「うわぁああああ!!!!」

 長大な『タイロン』に、バックパックまで両断されたロクジーロの機体は、閃光を発して爆散した。末弟の死にジェスマークが叫ぶ。

「ロクジーロぉーーー!!!!」

「おのれぇええええ!!!!」

 怒声を発してポジトロンランスを構え、吶喊する長兄シキーヴ。感情に任せた動きは直線的で危険だ。機体を翻して返し刀を振るうマガラン。ところが豪刀『タイロン』は、シキーヴの『トリュウCB』を殴りつけただけだ。

「エネルギー切れか!!??」

 それが意味するところを理解した刹那、マガランは納得顔で口元を綻ばせた―――



▶#31につづく
 
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