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第16話:アネス・カンヴァーの戦い
#35
しおりを挟むその時だ。エイン・ドゥのヘルメットに、ロックオン警報が鳴り始める。ウォーダ軍の誰かに見つかったのだ。それは必死に追いかけて来た、ゲルノルト=ティカナックだった。敵を通してしまった失態を取り戻さねばという執念が、運良くエイン・ドゥの機体を探し当てたのだろう。
「ノヴァルナ様! 後方から敵が狙っております!!」
通信回線に叫んだゲルノルトが、先に超電磁ライフルを放つ。だがもとよりエイン・ドゥは、自分の命と引き換えにノヴァルナを葬る覚悟であり、構わずトリガーを引いた。ゼロコンマゼロゼロ数秒の刹那、一番最初に着弾したのは、ゲルノルトが放った銃弾だった。
ただ焦りがあったのか、命中したのはエイン・ドゥの機体ではなく、身を隠していた駆逐艦の残骸である。しかし怪我の功名、銃弾が命中した駆逐艦の残骸は、衝撃でグラリと揺れた。これがエイン・ドゥの狙撃の瞬間に、僅かなズレを生じさせたのだ。
一方、ノヴァルナの本陣ではラン・マリュウ=フォレスタが、神速の動きを見せていた。エイン・ドゥから警告が発せられるや否や、瞬時に機体を翻させ、超電磁ライフルを構えながら、『センクウ・カイFX』の背後に回り込んだのである。
そこに飛来するエイン・ドゥの銃弾。ゲイノルトの妨害で僅かに照準がズレたそれは、自らを主君の盾としたランの『シデン・カイXS』の左腕を吹き飛ばし、脇腹を大きく抉った。この被弾のダメージはコクピットにまで及び、飛び散った全周囲モニターの破片が、ランの左上腕部に裂傷を負わせる。
だがランは怯まない。破片が三つ、パイロットスーツの左腕を肌まで深く突き刺しても、表情一つ変える事無く反撃の銃弾を放つ。その間にもう一機の『シデン・カイXS』―――ジョルジュ・ヘルザー=フォークゼムが、ノヴァルナの機体をカバーした。
ランの放った銃弾は、全てが駆逐艦の残骸に命中し、これを完全破壊する。たまらず中から飛び出したエイン・ドゥの『シデン・カイXS』に、ゲルノルトと彼の部下が仕掛けた。
「邪魔立てするな、ゲルノルト!」
「その声、聞き覚えがあるぞ。アーザイル家のエイン・ドゥ殿か!!」
詰まる距離、互いにポジトロンパイクを構える、ゲルノルトとエイン・ドゥ。この通信を聞き、ノヴァルナはギラリと瞳を鋭く輝かせる。
「エイン・ドゥだと!?」
そう呟いたノヴァルナは、自分を庇うフォークゼムの機体を押し退けて、「おまえはランを『ヒテン』へ連れて行って治療させろ!」と、怒鳴るように言う。
「し、しかし、それでは―――」
「私は大丈夫です!」
「いいから、連れていけ!!」
拒むフォークゼムとランをひとまとめに追い払い、ノヴァルナは『センクウ・カイFX』に、超電磁ライフルを握らせる。その間にエイン・ドゥは、ゲルノルトの部下が乗る、量産型『シデン・カイ』を一刀両断に斬り捨て、ゲルノルトの『シデン・カイXS』と、激しく得物を打ち合っていた。
「諦めて降伏しろ!」
「断る!!」
投降を促すゲルノルトのパイクを、拒絶の言葉と共に打ち払い、エイン・ドゥは鋭い刺突を放つ。その一撃はゲルノルトの右肩を貫いて、駆逐艦の残骸の外壁へ張り付けにした。
だがエイン・ドゥの目標は、あくまでもノヴァルナである。ゲイノルトを釘付けにしておいて、再度超電磁ライフルを構え、銃口をノヴァルナの『センクウ・カイFX』へ向けた。時間は無い。主君の緊急事態に、周囲で敵と交戦していた『ホロウシュ』達が、一気に勝負を決めて引き返し始めていたからだ。
今度は光学照準ではなく、照準センサーを使用する。少しでも距離を詰めるために、加速をかけるエイン・ドゥ。先に撃ったのはノヴァルナだ。同時に全周波数帯通信で言い放つ。
「撃ち返して来い、エイン・ドゥ!! 言いたい事があるなら聴いてやる!!」
ノヴァルナの銃撃を回避しながら、エイン・ドゥは返答と反撃を行う。
「“銀河布武”などと、なぜ自ら敵を増やすような宣言を!」
「今やるべきと思った事をやる。それが俺の流儀だからだ!!」
応じるノヴァルナの『センクウ・カイFX』の左肩に、エイン・ドゥの銃弾が命中し、ショルダーアーマーを砕き割る。だが『センクウ・カイFX』はそのままの体勢で、再びライフルを放った。おそろしく正確な射撃に、エイン・ドゥは間一髪の回避から、ライフルを撃ち返す。今度の銃弾は『センクウ・カイFX』の、右太腿部を抉り取った。
「その急ぎ過ぎた行動がかつて、ウォーダ家の内紛を招いた事を顧みずにか!? 多くの兵だけでなく、弟君まで殺しておいて、よく言う!」
エイン・ドゥの言葉は正確ではない。ウォーダ家の内紛の芽は、ノヴァルナが関与する以前の当時からすでに存在しており、弟のカルツェは今も生きている。ただノヴァルナがウォーダ家の内紛を、武力で征圧したのは事実であり、カルツェが生きているのも、家臣のヨヴェ=カージェスが独断で生かした結果ではあった。
それらを承知の上で、きっぱりと言い放つノヴァルナ。
「おうよ! だから最期は俺が全部背負って、地獄に落ちてやるぜ!!」
「利いたふうな口を!!」
ノヴァルナが撃ち返して来た銃弾を、緊急回避しながらエイン・ドゥは怒声を発した。そして反撃のトリガーを引く。この一弾は、回避行動を取らないままの『センクウ・カイFX』の左腰部を掠め、クァンタムブレードを破壊する。
“なぜだ!? 向こうは回避していないのに、なぜまともに当たらない!?”
焦りを覚えるエイン・ドゥ。こちらが一方的にダメージを与えているのに、追い詰められているのは、自分の方に思える。そこに聞こえて来るノヴァルナの言葉。
「そんな照準じゃあ、俺は殺せねぇぞ、エイン・ドゥ。ナギとおまえとアーザイル家の覚悟は、そんなもんか!! だったらさっさと降伏しろ!!」
なにっ!!…と、エイン・ドゥが怒りを露わにした直後、近接警戒センサーが敵機の急速接近を報告する。駆逐艦の残骸に、ポジトロンパイクで串刺しにしていたゲルノルトが、強引に機体を引き剥がして吶喊して来たのだ。その右肩にはエイン・ドゥのポジトロンパイクが、突き刺さったままだった。
「しまった!!」
悔恨の声を漏らした瞬間、エイン・ドゥが翻しかけた機体を、ゲルノルトが放ったクァンタムブレードが切り裂く。その切っ先に右の腕と肺を両断され、自分の命が散る刹那、エイン・ドゥはノヴァルナの口にした、“アーザイル家の覚悟”の意味を悟った。
“そう…ナギ様は、優し過ぎたのだ。イチ姫様とお子達…クェルマス様…そして家臣の皆すべてを、誰一人として切り捨てる事無く…救おうとして―――”
だがエイン・ドゥは、それに続く“判断を誤られたのだ…”という言葉を、打ち消した。ナギの優しさはアーザイル家の誰もが、知っていた事ではないか。そんなナギに、ウォーダ家を裏切る決断をさせたのは、誰あろう忠義者の顔をした、自分達だったのだ。
ナギ様―――
そこから先、エイン・ドゥは自分がナギに何を思おうとしたのか、もはや分からなかった。その時にはすでに彼の魂は、冥府へと旅立っていたからである………
トゥケーズ=エイン・ドゥの機体が爆発するのを見詰め、ノヴァルナは深いため息をついた。ナギの右腕であった彼の死は、アーザイル家にとって大打撃となるだろう。だが彼等はこれで、ウォーダ家に対して一層大きく、敵愾心を燃やすに違いない。
自軍の損害も無視できないまでに膨らんでおり、ノヴァルナはアーザイル軍の追撃を中止。“アネス・カンヴァーの戦い”は、ウォーダ/トクルガル同盟軍の勝利で、幕を閉じたのであった。
【第17話につづく】
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